潮汐ロックという言葉をご存じでしょうか?
これは天文用語のひとつで、天体の自転と公転の同期のことをこのように呼んでいます。
と、言ったところで何のことか良くわからないかも知れませんので具体的にわかりやすく例えると、それは地球から見える月の模様が全く変わらない事。つまり、月がいつも同じ面を地球に向けて地球のまわりを周っているという現象で、自転と公転が同期している共鳴が「潮汐ロック」なのです。

今回は何故、潮汐ロックという現象が起きるのか?また、月以外で潮汐ロックを起こしている天体はないのか?などについて解説してみたいと思います。

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日本では古くから満月の模様を「うさぎが餅をついている姿」に見えると例えていました。
なお、うさぎの餅つき姿は日本特有の例え方で、世界では女性の横顔や本を読む老婆、片腕のカニ、吠えるライオンの姿など、様々の例えで月の模様を見立てているようです。

「Image Credit:国立天文台(NAOJ)」
国や地域によって見え方が違うとは言え、月の模様はいつも同じです。
これは、地球と月の自転と公転が同期する潮汐ロックの現象が起きている事で、月はいつも同じ面を地球に向けており、と同時に普段から月を見上げている私たちにとっては当たり前のことでもあり、あまり気にも留めていない事なのかも知れません。

ですが、よく考えると不思議ですよね?何故、月では潮汐ロックという現象が起きているのでしょうか?

何故、潮汐ロックは起きるのか?

天体の自転と公転の同期(潮汐ロック)が起こる原因は、恒星とその周りを公転する惑星や衛星といった、いわば共鳴する大小の天体の間で起こる現象で、「大」つまり大きな天体の重力が、「小」小さな方の天体の重力を上回る場合に起き、このときの潮汐力の働きによって「小」の天体の公転と自転が同期してしまうという現象が発生しているのです。

このような説明では少しわかりにくいかも知れませんので、もう少し簡略して解説しますと以下の図が参考になるか?と思います。

「Image Credit:潮汐ロックが起こるイメージ図」
上図のように強い重力を持つ天体を公転する天体は、その強い潮汐力によって少し重心が強い天体寄りになってしまいます。
このような状態を例えて言うなら、倒してもスグ起き上がって来る「ダルマ」や「おきあがりこぼし」ような状態になり、重心が重力の強い天体寄りになる事で、常に重心が寄っている側を向けて公転する現象が起こるのです。

「Image Credit:おきあがりこぼしの仕組み(Wikipediaより)」
これが、天体が1周の公転で自転も1回転するという公転と自転の同期であり、月がいつも同じ面を地球に向けている理由なのです。
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潮汐ロックが起きているのは月だけではない!

実は、太陽系の天体の中で潮汐ロックが起きているのは月だけではありません。
このような現象は惑星と衛星の距離が近く、衛星が惑星の重力の影響を強く受けている場合に起き、太陽系の多くの惑星と衛星の関係は潮汐ロックが起きている状態になっており、有名な木星のガリレオ衛星(イオ・エウロパ・ガミメデ・カリスト)も例外ではなく、潮汐ロックはありふれた現象なのです。

「Image Credit:4つの木星のガリレオ衛星(Wikipediaより)」

潮汐ロックは地球と月と太陽の関係にも深い影響が!?

地球は太陽の重力の影響を大きく受けて太陽を公転していますが、地球も太陽の潮汐ロックを受けているのでしょうか?
そうではないですよね!地球の公転周期は約365日で自転周期は約24時間ですので、同期はしていないという事は誰でもわかります。

地球に潮汐ロックが起こっていない最も大きな理由は、太陽と地球の距離が程良く(約1億5,000万キロ)離れている事ですが、月の影響も地球が太陽からの潮汐ロックが起こらない事に関係しているのです。

これは、月の潮汐力が地球の自転速度を安定させてくれているおかげであり、また月の重力が地球にとって生命生存に理想的な自転軸の傾き23.4度を保ってくれている事で、地球には四季という季節の巡りも演出してくれています。

「Image Credit:一般社団法人 四万温泉協会&Wikipedia」
例えば、もし月が無かったとしたら地球は太陽の重力の影響を強く受け、潮汐ロックとまではいかないまでも自転速度が安定しないと考えられており、そうなった場合、地球は生命が生存できない環境になってしまうかも知れません。
そんな地球に生命の恵みを与えてくれている月も毎年約4センチずつ地球から遠ざかっており、遠い未来にはなりますが、地球は月からの生命の恵みの力である潮汐力を受けられなくなると考えられています。

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話題の7つの惑星系にも潮汐ロックの影響が?!

最近、NASAなどの天文研究機関が大々的に発表し世界中で話題となった、太陽系から約40光年先の赤色矮星「TRAPPIST-1(トラピスト1)」に見つかった7つの地球型惑星の事をご存じでしょうか?
このうちTRAPPIST-1に見つかった7つの惑星のうち3つは、生命生存可能なハビタブルゾーンに位置する事が判明し、それらの惑星には地球外生命の存在が期待され注目にはなっていますが、実は主星(TRAPPIST-1)からの潮汐ロックを受けている可能性が十分にあるのです。

その潮汐ロックの可能性の理由は、恒星と惑星との距離がかなり近い事にあり、TRAPPIST-1は恒星としてはかなり小さな天体ですが木星の80倍ほどの質量を持っており、TRAPPIST-1と惑星の距離を太陽系の縮尺に置き換えるとこのような距離間になってしまいます。

「Image Credit:NASA/JPL-Caltech」
上画像でもおわかりのとおり、TRAPPIST-1の惑星系の公転軌道は太陽系の水星軌道の遥か内側になってしまい、ここまで主星と惑星の距離が近いと主星からの潮汐ロックが起こっている可能性があり、もしそのような状態であった場合、恒星側を向けている面は常に昼間で反対側は常に夜ということになります。
こうなると、いくら生命存在が期待されるハビタブル惑星であっても、生命生存には向かない環境の惑星かも知れませんし、潮汐ロックが起こっていなくても自転速度が安定しておらず、これもまた生命生存には不向きな環境になっている可能性があり、地球と月のように惑星と衛星で潮汐力ロックが起こっている場合は生態系にプラスに働いても、恒星と惑星での潮汐ロックは惑星の環境に致命的になるとも考えられるのです。

「Image Credit:潮汐ロックにより沈まない太陽と明けない夜となった惑星のイメージ図(NASA/JPL-Caltech)」
ですが、これらの惑星に月のような巨大な衛星があったとしたら、その大きな潮汐力で環境は好転するかも知れません。
つまり、潮汐力というエネルギーは生命存在にも欠かせないワケであり、いずれにせよTRAPPIST-1の生命探査の結果が判明する日はそう遠くはないと思われます。
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