私たちは、もしかしたら数カ月~数年以内に星の爆発を目撃出来るかも知れません。
それは新星爆発と呼ばれる天文現象で、ある日突然、夜空に光輝く星が出現し、日本はもちろん世界各地で肉眼でハッキリと見えるというのです。
私たち人間の短い人生の中で、星の爆発を肉眼で見る事が出来るなんて、一生の内で一度あるかないかの一大天体ショーである事は間違いありません。
そんな天体ショーを見逃さないためにも、近いうちに観れる可能性があるという星の爆発について解説して行きたいと思います。
早ければ1年以内に肉眼で見る事が出来る新星爆発
これまで何度も「オリオン座のベテルギウスが超新星爆発を起こす?!」と言い続けて来ましたが、ベテルギウスの爆発はまだまだ先のようで、どうやら私たちが生きているうち見る事は叶わないようです。ですが、私たちが生きているうちというか・・・近日中(早ければ1年以内)に、肉眼で星の爆発を見る事が出来るという情報が入って来ました。その「肉眼で見える星の爆発」とは、地球からかんむり座方向約3,000光年の位置にある「かんむり座T星」と呼ばれる恒星系で、この恒星がもう間もなく爆発を起こすらしいのです。
「Image Credit:赤色巨星と白色矮星の連星系想像(NASA/CXC/Texas Tech/T. Maccarone Illustration: NASA/CXC/M. Weissより)」
かんむり座T星は、巨大な赤色巨星と白色矮星から成る近接連星で、赤色巨星から強大な重力を持つ白色矮星へとガスが流入し降着円盤を形成。赤色巨星からのガスが流入を続けて行くうち、溜まった水素ガスに強烈な圧力がかかり、その圧力が臨界量を超えてしまうと、結果、水素ガスが核融合を起こし新星爆発として光輝いて見える事になり、この爆発の事をIa型超新星爆発と呼びます(下図↓↓参照)。
「Image Credit:Ia型超新星(宇宙科学研究所キッズサイトより)」
つまり「かんむり座T星」は、白色矮星に形成された降着円盤に溜まった水素ガスが既に臨界量を超えていると思われ、これがいつ核融合爆発を起こすかわからない状態になっているというのです。
かんむり座T星が間もなく新星爆発を起こすという根拠とは?
連星系を成す「かんむり座T星」の赤色巨星の直径は太陽の約75倍で質量は太陽の1.12倍。一方の白色矮星の大きさは地球程の大きさであるにも関わらず、質量は太陽の1.37倍もあり、赤色巨星と白色矮星の距離はわずか0.54AU(約8,000万キロ)しかなく、互いを228日周期で公転している近い距離のため、質量の大きい白色矮星の方へと赤色巨星からのガスが流れ込んでいます。このようにして、エネルギーの供給源となる赤色巨星から白色矮星にガスが流入し続ける事で、臨界量を超えて新星爆発を起こしますが、通常はこの新星爆発は数千年~数十万年の間隔で起こるのですが、白色矮星の質量が大きい場合やガスの流入が大きい場合などはこの間隔が狭くなる事があり、「かんむり座T星」の場合は赤色巨星からのガス流入量が大きいため爆発の間隔が短くなり、人類の観測でも過去に1787年、1866年、1946年と約80年周期で増光(新星爆発)が観測されています。
「Image Credit:過去160年間の「かんむり座T星」の増光グラフ(YouTUBEより)」
この事実から、周期的にみてももうそろそろ新星爆発が起きてもおかしくないと専門家たちは推測しており、また2015年頃から「かんむり座T星」の光度が上昇しつつあり、逆に2023年前半から減光傾向が見られている事も新星爆発の前兆の根拠となっているようです。
かんむり座T星の見つけ方(位置)
「かんむり座」は、主に春から夏にかけて見る事が出来る星座で、北天から東の方角に見える半円の弧を描く小さな星座です。「Image Credit:星空図鑑」
かんむり座の見つけ方は、北天の中心にある北極星(ポラリス)から、東側に目線を移すと「しし座」のデネボラと「うしかい座」のアークトゥルス、「おとめ座」のスピカを結ぶ”春の大三角”の間に位置しており、小さな星座のため、それが「かんむり座」だとはなかなか断定しずらいかも知れません。
しかも、目的の「かんむり座T星」の視等級は10等級程で、ほぼ肉眼では見る事は不可能に近いでしょう。ですが、もし「かんむり座T星」が新星爆発を起こせば、10等級から2等級程に明るさを増しますので、目標の星座の位置をしっかり押さえておけば見逃す事はないと思います。
「Image Credit:かんむり座星の位置(大日本図書より)」
新星爆発を起こした「かんむり座T星」の明るさはどれくらい?
新星爆発を起こした「かんむり座T星」の視等級は、肉眼では見えない10等級から2等級程まで明るくなると推測され、前回(1946年)の観測によると、爆発直後は2等級まで明るくなったモノのスグに暗くなり、1週間ほどで5等級まで減光。爆発から20日程で元の10等級に戻り、その後2カ月ほどしてからまた2等級になり、その状態が3カ月ほど続いたと言います。ちなみに2等級の星の明るさと言えば、比較的近くに見える北極星(視等級2等級)が目安になるかと思います。
「Image Credit:ウェザーニュース」
この明るさを聞いて「爆発っていうから期待していたけど・・・なんだぁ~そんなに明るくならないだ!」ってガッカリされるかも知れませんが、10等級から2等級まで明るくなるという事は、実際は1500倍以上の増光となるワケで、新星爆発の凄まじさはどれほどなのか?というのがわかるかと思います。
なお、新星爆発によって溜まっていたガスのほとんどは吹き飛ばされますが、エネルギー供給源の赤色巨星が健在な以上、また白色矮星に降着円盤が形成されガスが蓄積され続け、おそらく「かんむり座T星」はまた80年後に爆発するものと思われます。