地球の隣りの惑星である火星は、今でこそ荒涼たる赤茶けた大地が広がる無機質な星ですが、かつては豊かな水を湛えていた事が確認されています。
そのため私たち人類は「火星に生命が居るかも知れない」と期待し、多くの無人探査機が送り込まれ生命探査を行っています。
ですが、そんな火星よりも生命存在の期待度が高く、そして火星よりも早く生命を見つける事が出来るかも知れないと期待されているのが木星の衛星たちだです。
過去に水があったのに火星で生命が見つからないのは何故?
今から40~38億年前、火星の地表は地球と同じように豊かな水に覆われ、海や川、湖が存在した事がこれまでの火星での地質調査で証拠が見つかっています。「Image Credit:Wikipedia」
しかし、上画像↑↑のように現在の火星にはそのような豊富な水は全く見当たらず、両極にわずかな水の氷があるのみです。
「Image Credit:北極冠に出来た氷層Wikipedia」
では、それだけの水はいったいどこへ消えたのでしょうか?
現時点での研究で考えられている原因は、太陽熱で暖められた水が水蒸気となり大気層へ上がったものの、火星の弱い重力(地球の半分以下)とほとんど存在しない磁場に守られなかった事で、水が宇宙へ流出してしまい、残った水は極冠で氷となったり、地下深くに浸み込んでしまったのではないか?と推測されています。
また、もしこの時代に生命が存在したとしても、この頃の地球がそうだったように火星にも微生物程度の原始的生命しかおらず、水を失った事で生命も跡形も無く消滅してしまったのかも知れません。
水の無い火星より今も水の豊富な木星の衛星に生命が見つかるかも?
火星表面には極冠の氷以外見当たりませんが、地下深くには水がある事が確認されており今後の生命探査に期待がかかっていますが、火星に生命の痕跡が見つかるよりも先に大きな期待が寄せられているのが木星の氷で覆われた衛星たちで、特に期待度が高いのが衛星・エウロパではないでしょうか。「Image Credit:Wikipedia」
表面を厚い氷で覆われたエウロパですが、木星の巨大な潮汐力の影響でエウロパ全体が微妙に伸び縮みし、その摩擦熱で内部が温められ、地下深くにある氷が解けて液体の水(海)が存在していると考えられています。
では何故、エウロパの地下に液体の水の海があるといえるのでしょうか?
その証拠となるのが、エウロパ表面にクレーターがほとんど無い事にあり、その理由はエウロパが木星の潮汐力で伸び縮みしている事で、クレーターが出来ても内部から染み出る水にによりクレーターが埋められ消えてしまうと考えられ、その内部から染み出る水の証拠も見つかっています。
「Image Credit:spacetelescope」
上画像↑↑は、2012年にハッブル宇宙望遠鏡が撮らえたエウルパの様子ですが、ご覧のようにエウロパの南極付近から噴き出す水蒸気らしきモノが映し出されています。
詳しい調査の結果、これは間違いなく水蒸気である事が確認され、ほぼ間違いなくエウロパの地下には豊富な液体の水が存在するであろうと推測される事になったのでした。
木星の衛星に生命が居る可能性が高い理由は水だけではなかった
エウロパに水があるだけでは、そこに生命がいると断言する事は出来ませんが、エウロパの水には豊富な酸素も存在する証拠が見つかっており、それはエウロパの超希薄な大気に隠されていました。エウロパの大気成分のほとんどに酸素が含まれており、その酸素を作り出しているのが内部から噴き出す水蒸気。水蒸気が木星の放射線に晒される事で分解し、酸素が持続的に生成されている事もわかったそうです。
「Image Credit:NASA, JPL-Caltech, SWRI & PU」
最新鋭の木星氷衛星探査機にかかる生命発見の期待
木星には火星ほどではありませんが、多くの無人探査機が送り込まれ調査を行っています。しかし、エウロパを含む氷衛星に対する詳しい調査はこれまで行われて来ませんでした。そんな中、2023年に木星の氷衛星に特化した探査機「JUICE」が打ち上げられました。
「Image Credit:JAXA(Airbus DS)」
巨大な太陽光パネルを持つ「JUICE」は8年かけて木星に向かい、3つの衛星エウロパ、ガニメデ、カリスト(主に衛星ガニメデ)を上空から探査する事になっています。
そして、最も生命存在の期待のかかる衛星エウロパには、探査機「エウロパ・クリッパー」が2024年10月に打ち上げられる予定になっています。
エウロパ・クリッパーにかかる生命発見の期待
木星の衛星の地下には液体の水の海があり、特にエウロパの地下海は、地球海洋の2倍の水を湛えているオーシャン・ワールドが広がっていると考えられており、そこには地球外生命発見の期待も大きく寄せられています。そんなエウロパの探査に特化したのが「エウロパ・クリッパー」で、この探査機のミッションはエウロパの地下海洋を探る事にあります。
本来ならエウロパの氷の下に潜って探査をしたいところですが、残念ながら現在の技術ではエウロパの厚い氷(1,000メートル以上?)を掘削して潜る事など出来ません。
そこで「エウロパ・クリッパー」は、木星を楕円軌道で周回しながら、エウロパへの近接フライバイを合計46回行いながら、特殊なレーダーを使って詳細な観測を行うという方法を取り、地下海洋の測定データを蓄積しながら表面構造組成とマッピングし、氷の地殻から放出されている可能性がある水蒸気のプリュームを採取し分析する等、生命存在を発見するための様々な調査に挑戦します。
また「エウロパ・クリッパー」には”未だ見ぬ地球外生命”に向けたメッセージプレートが搭載されています。
プレートの内側にはシリコン製マイクロチップが埋め込まれおり、その中には一般公募で寄せられた260万人以上の氏名が電子ビームを使って毛髪の1,000分の1以下の幅で刻まれてあり、他、世界103の言語で「水」を意味する単語を録音し、それを波形で表したデザインが施され、米国の手話で「水」を意味するシンボルが刻まれ、また、アメリカの著名な詩人エイダ・リモン氏が書き下ろした「In Praise of Mystery:A Poem for Europa」が本人の筆跡で刻まれ、更には、アリゾナ州立大学の教授でエウロパ探査計画の基礎を築いた惑星科学者ロン・グリーリー氏の肖像も施されていたり、同じくアメリカの天文学者フランク・ドレイク氏が1961年に提示した、地球外生命体を発見する可能性を推定する「ドレイクの方程式」も刻まれているそうです。
このように「エウロパ・クリッパー」の探査では、何らかの生命の痕跡を発見出来ると確信を持つ専門家もいる程で、地球外生命発見へ大きな期待が寄せられています。
計画どおり順調に行けば、木星氷衛星探査機「JUICE」そして「エウロパ・クリッパー」は、2030年初頭には木星軌道に投入され本格的な探査ミッションを行う事になっています。つまり、私たちは10年以内に地球外生命に出会えるかも知れないのです。