もしかしたら数年、いや数カ月以内に人類は太陽系系外惑星に大気や水、そして地球外生命体存在の証拠を見つけることが出来るかも知れません。
そんな大きな期待が寄せられているのが最近発見されたばかりの「トラピスト1惑星系」。
いったい「トラピスト1惑星系」が期待されている理由は何なのか?
そしてこの系外惑星にどんな秘密があるのか?少し調べてみようと思います。
「トラピスト1惑星系」とは?
2017年2月。NASAから重大発表された「トラピスト1惑星系」の発見のニュース。トラピスト1は地球から約40光年離れた場所にある恒星の事で、私たちの太陽より10分の1程の大きさで、明るさに至っては1,000分の1ほどの赤色矮星と呼ばれる小さく暗い天体です。
「Image Credit:ESO」
この恒星・トラピスト1を観測したところ、何と地球に似たサイズの岩石惑星が7つも周回していることを発見。さらに、そのうちの3つの惑星が水が液体で存在することが可能な、いわゆる生命生存可能領域「ハビタブルゾーン」内にある事も判明したのでした。
これが大ニュースとなり、世界中に大々的に発表されることとなります。
他にも地球に近い場所で見つかっている系外惑星
「トラピスト1惑星系」の発見は大きく報道されましたが、ハビタブルゾーン内に見つかった地球に近い場所にある太陽系外の岩石惑星は他にもあります。例えば、約14光年先にある赤色矮星・ウォルフ1061の周りを回る惑星「ウォルフ1061c」。
この惑星の質量は地球の4倍前後で、スーパーアース級の天体ではないか?と推測されていますが、現時点ではまだ詳しい調査結果が出ていませんので、何とも言えないところではあります。
他、これも大きなニュースとして伝えられた太陽系の隣りにある、地球からわずか4.25光年の場所にある惑星系の1つで、同じく赤色矮星のプロキシマ・ケンタウリを周回する「プロキシマb」。
「Image Credit:プロキシマbの想像図(Wikipediaより)」
など、近年の観測技術の進歩により地球型惑星はいくつも発見されています。
「トラピスト1惑星系」が他の系外惑星の発見と異なる理由
トラピスト1惑星系以外にもハビタブルゾーン内を公転する地球型惑星は見つかっていますが、「トラピスト1惑星系」は別格だと言われています。その理由は、これらの惑星が発見された観測方法にあります。
惑星は恒星とは違い、自ら光を放たないため発見すことは困難で、遠く離れた系外惑星に至っては単独で発見することはほぼ不可能と言えます。
そのため、系外惑星を見つけるには、光を放つ主星の恒星に目を向けて観測します。
観測方法はいくつかありますが、今回は以下の2つについて解説します。
まず、トラピスト1よりも近い距離にあるプロキシマbやウォルフ1061cは「ドップラー法」という観測方法で見つかっており、一方のトラピスト1惑星系は「トランジット法」という観測方法で見つかっています。
ドップラー法を使った惑星の発見方法
ドップラー法の観測では、中心にある恒星がその周りを回る惑星の重力によって引っ張られ揺らいで見え、その揺らぎを観測することで、恒星が持つ惑星の存在を検出することが出来るのです。「Image Credit:ドップラー法のイメージ(Wikipediaより)」
この観測方法で判ることは惑星の大まかな大きさと質量のみで、詳細な分析まですることは出来ません。
トランジット法を使った惑星の発見方法
トランジット法の観測では、主星の前を惑星が横切ったとき一時的に光が遮られ、この光の強弱を観測することで、そこに惑星があるという事を確認出来るのです。「Image Credit:トランジット法のイメージ(Wikipediaより)」
このトランジット法の観測では、惑星の大きさや質量はもちろんの事、詳細な大気の分析まで出来るとの事です。
今後の「トラピスト1惑星系」の観測にかかる期待
残念ながらトラピスト1より近いプロキシマbなどは、地球からの観測で惑星が恒星の前を横切るような軌道になかったため、トランジット法での観測が出来ませんでした。トランジット法の観測が出来る軌道にあった「トラピスト1惑星系」は、地球から詳細な惑星の分析が出来、さらに「トラピスト1惑星系」には7つも惑星があり、これらをまとめて観測することが出来ます。
これにより、今後の観測に期待が大きく高まっています。
詳細な分析で、大気や水の存在の検出が出来れば高まるのは生命存在の期待ですが、もしかしたら近日中に、人類ははじめて他の星に生命がいるという歴史的な発見をするかも知れません。
第二の地球として期待するのは早い?
今後「トラピスト1惑星系」は、詳細な分析で様々なことが判ってくると思いますが、この惑星系を生命が存在する第二の地球として期待するのは少し早いかも知れません。星が若過ぎる?
当初の発表では主星である赤色矮星・トラピスト1について、年齢が5億年ほどと推定されると言われていましたが、最近ではそれが訂正され30~80億年の年齢との見積りもあります。もし、トラピスト1が5億歳とした場合は生命が育まれるには時間が短すぎるとの声もあります。
実際、私たちの太陽の年齢は約46億歳で、太陽が生まれてから地球に原始的生命が誕生するまで10億年近くかかっており、知的生命体である人類誕生はわずか30万年前の事ですので、その事と照らし合わせると、やはり5億年では生命誕生は厳しいか?とは考えます。
とは言えトラピスト1が太陽系と同じ時間サイクルとは限りませんが、5億年ではまだ生命は生まれていないかも知れませんし、一方、80億歳だとすると、人類以上に文明が発達した知的生命体も存在する可能性だってあります。
赤色矮星に生命が誕生するのか?
生命に溢れた地球を育む太陽とは大きな違いのある赤色矮星・トラピスト1。それは、赤い光を放つ温度が低い小さな恒星です。
ある専門家も言っていましたが、赤色矮星から惑星に降り注ぐ日光はわずかなモノで、植物が光合成を出来ない可能性があるとも懸念しています。
植物が育たなければ、他の生物も生きられないのでは?という考え方もありますが、あくまでも地球環境基準で考えれば、そのような懸念も生まれるかも知れません。
潮汐ロックで住めない環境か?
「トラピスト1惑星系」は恒星に非常に近い距離を公転しています。そのため、惑星は強い重力の恒星の影響を受け、公転と自転が同期する潮汐ロックがかかっている可能性があり、それは常に同じ面を地球に向けている月と同じ状態です。
惑星が常に同じ面を恒星に向けているとどうなるのか?
恒星に向けている面は、恒星からの熱で、とても生命など生きられない高温な状態になり、裏面は光の指さない極寒の環境になっている可能性もあります。
しかし、ある科学者の研究によると、
例え潮汐ロックがかかっていたとしても、その惑星に十分な大気と水が存在すれば、それらが惑星全体に循環し、生命の住める適温な環境になっているとの推測も出ています。
今後の「トラピスト1惑星系」の観測はどうなるのか?
トランジット法によって地球から詳細な観測が出来る「トラピスト1惑星系」。生命存在の有無が判明するのも、今後の観測にかかっています。
観測にあたっては、地上からの観測も可能ですが、それ以上にこれから投入される予定の「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」に期待が寄せられています。
「Image Credit:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Wikipediaより)」
2021年末に打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」。
これまでにない高性能な赤外線観測装置を搭載し、地球衛星軌道上ではなく地球を追尾するラグランジュ・ポイントに投入され、トラピスト1を含めた系外惑星探査はもちろんの事、深宇宙に向けても観測を行う予定になっています。
この新世代の宇宙望遠鏡の投入で宇宙観測がどう変わるのか?
宇宙の新しい事実が発見される事は間違いないと思います。