木星圏には、これまで数多くの探査機が送り込まれ調査を行っており、その調査の中で生命存在の可能性が示唆されていたものの、本格的な生命調査は行われて来ませんでした。
そんな中、いよいよ木星の衛星に生命が存在する可能性があるのか?の本格的な調査が始まります。
その生命探査に送り込まれる探査機は「エウロパ・クリッパー」。そう!木星圏でで最も生命存在の可能性が高い衛星「エウロパ」へと旅立つ事になるのです。
衛星エウロパの地下には莫大な水(海)が存在している
太陽系で最も巨大な惑星・木星には、現在確認されているだけで95個(2023年現在)の衛星が存在し、その中でガリレオ衛星と呼ばれる4つの衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、市販の望遠鏡でも見えるほど大きな衛星です。そのガリレオ衛星の中で、最も注目を集めていると言っても過言でないのがエウロパではないでしょうか。
「Image Credit:木星のガリレオ衛星とエウロパ(Wikipediaより)」
ガリレオ衛星の中で、火山活動が活発なイオ以外は表面を厚い氷で覆われており、大気もほとんど存在しない無機質な天体だと思われていましたが、近年の詳しい調査で、その厚い氷の下には大量の液体の水が存在する事がわかって来ており、特にエウロパは、直径が約3,100キロと地球の衛星である月よりもやや小さいにも関わらず、厚さ3~30キロと推定される厚い氷殻の下に、深さが平均100キロ程もある地球の海と同様に塩分を含んだ内部海が広がっていると推定され、その海水の総量は地球のすべての海水の2倍に相当する程だと考えられています。
「Image Credit:spacetelescope」
また、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で、エウロパの撮影観測を行ったところ、南極域に間欠泉のような高さ200キロまで達する水蒸気の噴出を検出し、これによりエウロパの地下には液体の水が存在する決定的な証拠が見つかっています。
衛星エウロパに生命存在の可能性が高いと言われる3つの理由
木星の衛星エウロパの地下には大量の液体の水が存在している事はぽぼ確定的とされていますが、それだけでは地下の水の中に生命がいると確信できるモノではありません。しかし、エウロパの調査を進めていく中で、生命が居る可能性が高い不可欠な要素がいくつか確認されているのです。
エウロパには磁場がある
通常、エウロパのような小さな天体には磁場は存在しないとされていましたが、NASAの木星探査機ガリレオの調査データにより、エウロパには磁場がある事が明らかになっています。では何故、エウロパに磁場が存在するのでしょうか?その理由として考えられるのが、氷殻の下に大量の水に濃度の濃い塩水があれば磁場が発生する可能性が高いと専門家により示唆されているのです。
エウロパ表面に浮き出た赤い模様が証拠になる?!
エウロパの特徴の一つでもある表面に浮き出た模様。これは塩化ナトリウム(食塩の主成分)もあることが判っていると同時に、地下から有機物が湧き出て来た事による模様ではないかとも推測されているのです。「Image Credit:NASA/JPL/University of Arizona」
つまり、エウロパの地下には地球の海と似た”海”が存在する可能性が高く、さらにそこに有機物があるのであれば生命が居る可能性もあるという事になり得るのです。
エウロパは1日に1千トンの酸素を生成している?
エウロパの海には塩分と有機物、そして生命に不可欠なのは酸素が必要。この酸素については、木星圏で探査を行っている探査機「ジュノー」から送られて来た観測データを分析したところ、エウロパでは1日に約1,000トンもの酸素が生成されているのではないかとの結果が導き出されたと言います。「Image Credit:NASA/JPL」
エウロパで酸素が生成される原理は上画像↑↑であるように、木星から飛んで来る荷電粒子が、エウロパの表面に衝突して氷の水分子を酸素分子と水素分子に分解する事で、生成された酸素の一部が地下の海に入り込む可能性があると考えられているそうなのです。
生命存在の証拠を探る探査機がエウロパへ向けて出発!
以前から生命存在の可能性が高いと考えられ来た木星の衛星エウロパ。その可能性を確定的にするため2024年10月14日にNASAの探査機「エウロパ・クリッパー」が無事に打ち上げられました。人類はこれまで多くの無人探査機を打ち上げて来ましたが、エウロパのような内部海を持つ氷の天体のための探査ミッションは”初”。つまりエウロパ探査のためだけに開発されたこの「エウロパ・クリッパー」の任務は、まだ推測の域を出ていない氷殻の厚さや内部海の成分と深さ、そして海底には生命にエネルギーを与えうる地熱活動があるのか?、エウロパの表面にある有機物は内部海の生命の餌になりうるのか?等、こうした疑問を解決する目的があります。
「Image Credit:NASA/JPL」
本来は、エウロパの厚い氷を掘削し、氷殻の下にある海を直接確かめたいところですが、流石に現在の技術ではそれは不可能。そのためエウロパ・クリッパーが行うのは、エウロパの上空から9台搭載されている最新の観測機器を駆使して出来る限りの詳しいデータを取る事にあります。
ちなみに、エウロパ・クリッパーの大きさは、NASAがこれまで開発した探査機の中では最大で、ソーラーパネルの大きさはバスケットボールコートほどもあると言います。
また、エウロパ・クリッパーはエウロパに着陸したり、直接エウロパを周回したりはしません。何故なら、地球の約2万倍という木星の強い磁場が造り出す放射線は強烈で、長時間に渡り木星の磁場に晒され続けると観測機器に支障が出てしまう恐れがあるため、エウロパ・クリッパーは木星の周りを大きな楕円軌道を描きながら、何度もエウロパをかすめながらのフライバイを行い探査を行うという方法を取りながら、詳細なデータ収集、そして表面の95%について高解像度写真を撮影する事になっています。