スペースXやブルーオリジン等、近年において宇宙進出を目指す民間企業が、世界規模で飛躍的な成長をみせている中、アメリカや欧州には及ばないものの、日本国内の民間会社もビジネスチャンスを宇宙に見出し進出して以降という動きが活発になりつつあります。
そんな中、インフラ整備のスペシャリストである大手ゼネコン各社も、本気モードで宇宙開発に向けた構想を次々に打ち出しています。
今回は、そんな宇宙進出を目指す大手ゼネコンの、夢ではなく本気で取り組んでいる宇宙開発構想をいくつかご紹介します。
拡大を続ける宇宙ビジネス市場の今後
まず、近年において何故、民間企業が宇宙関連ビジネスに乗り出し飛躍を見せているのか?20世紀末までは国家主導で行われていた宇宙開発も、21世紀に入り様々な民間ベンチャーが宇宙にビジネスチャンスを見い出し、ロケットや人工衛星の開発・製造、衛星通信サービス、さらには宇宙への人や物資の運搬等、様々な宇宙関連でビジネスが行われるようになって来ており、その市場規模は2010年では約27兆円だったのに対して、そこから急成長を見せ2020年代後半には約200兆円を超える市場が広がると予想されています。
「Image Credit:SpaceX」
現在、宇宙ベンチャー企業として最先端を走り主導しているのはアメリカであり、スペースX社やブルーオリジン等が有名ですが、世界に少し遅れはしましたが、日本でも宇宙ビジネスに乗り出す企業が増えて、現在では20社を超える企業が名乗りを挙げてビジネス展開を行っています。
宇宙ビジネスにはどんな種類があるの?
民間が参入する事で注目を浴びつつある宇宙ビジネスも、成長を見せて来ているとはいうもののまだ発展途上で言わば”創成期”の段階。その事業形態もグローバルスタンダードとして定まってはおらず、それぞれに国や参入する企業が定義しながら、多種多様なビジネスを展開していっています。そんな中で、現時点で展開を行っている宇宙ビジネスの形態(業種)が以下となっています。
- 製造・開発:衛星やロケット等、宇宙機の製造・開発販売を行う業種。
- 宇宙輸送:人(宇宙飛行士等)や人工衛星等を含む物資を宇宙まで運搬、回収する事業。
- 宇宙旅行::宇宙空間での滞在や宇宙を経由した移動といった娯楽体験を提供。
- 宇宙探査::無人または有人探査機によって、宇宙空間や地球以外の天体などの調査を行う。
- リモートセンシング::人工衛星が放つ電磁波を使用して地球の地形等の詳細を観測する。
- 通信::地球低軌道(高度2,000キロ以下)に打ち上げられた衛星でインターネット通信網を提供する事業。
- 軌道上アフターサービス::打ち上げ後の衛星メンテナンス、衛星の寿命延命、軌道上のゴミ処理を行う業務。
「Image Credit:人工衛星による通信網を構築するイメージ図(東京エレクトロンより)」
このような宇宙ビジネス形態において、日本では衛星を利用したソリューション事業や今後の月面調査・支援。データ収集、また宇宙資源活用に向けた企業マーケティング等、様々なビジネスを展開する動きが出て来ており、市場規模も2020年代半ばには5兆円超えまで伸びる事が予想され、ビジネス形態も今後さらに増えて行く事も予想されています。
日本の大手ゼネコン4社の超未来的インフラテクノロジー構想
人類の宇宙進出は、地球低軌道から月へ~そして、おそらく今世紀半ばには火星へと続いて行く事が予想されます。ただそれでも、現時点では宇宙はアメリカが主導していると言わざるを得ず、それに追随して中国等も虎視眈々と宇宙進出をも目論んでいます。
ですが、日本も遅れをとっているとは言え民間企業も宇宙を目指したチャレンジをしており、その中でも国内大手ゼネコン4社が打ち出している宇宙構想が画期的で、超未来的インフラのテクノロジーだと話題になっています。
そこでここでは、大手ゼネコン4社が本気で考え実現可能だとされる未来インフラをご紹介してみます。
大林組:地上と宇宙を繋ぐ「宇宙(軌道)エレベーター」構想
まず、以前もご紹介した大林組の宇宙(軌道)エレベーター構想です。宇宙エレベーターとは、その名のとおりエレベーターで地上と宇宙を行き来する設備の事なんですが、「えっ、エレベーターで宇宙に行くってどういう事?」と思う人も当然いるでしょう。
実は、地上と宇宙を結ぶエレベーターは、荒唐無稽な話ではなく理論的には実現可能なのです。それを構想とはいえ、将来的に建設しようと考え具体的なカタチにしてくれたのが大林組で、実に科学的でリアル(現実)に建設する事が可能として真剣に検討されているのです。
「Image Credit:宇宙(軌道)エレベーター想像図(㈱大林組 季刊大林より)」
通常のエレベーターは、地上と高層建築物との上階の行き来を楽にするために造られていますが、宇宙(軌道)エレベーターにおいて高層建築物の上階に該当するのが、静止軌道と呼ばれる地球の赤道上空約36,000キロの領域であり、この軌道は地球の重力と自転による遠心力が同期している領域で、ここに人工衛星を投入すると上空に静止しているように見えることから静止軌道と呼ばれており、気象衛星等が常に日本上空にいるのは静止軌道に投入されているからです。
「Image Credit:静止軌道のイメージ動画(Wikipediaより」
すなわち、大林組の構想は、この高度36,000キロの静止軌道上に巨大な宇宙ステーションを造り、そこから地上に向けてケーブルを降ろし、さらにケーブルの垂みを軽減しバランスを維持するため、高度96,000キロまで延長した先に宇宙ステーションを建造する構造になっています。
なお、詳しい説明は大林組のYoutube公式チャンネルで公開されています。
鹿島建設:月面に立つ人工重力居住施設「ルナグラス」構想
「アルテミス計画」によって人類は再び月面に立ち、その後は多くの人々が月に渡り長期滞在、もしく移住する時代がやって来るでしょう。しかし月面は地球の6分の1程しか重力がありません。人間がこの低重力下で長期間生活をするとなった場合、骨や筋力のみならず身体に様々な悪影響が出てしまい健康な状態ではいられなくなってしまう可能性が高いと思われます。
そんな低重力環境の月面で地球と同じような重力を造り出す事が出来ないか?と人工重力施設構想を発表したのが鹿島建設と京都大学の共同研究チームの「ルナグラス」構想です。
ルナグラスは、月面に垂直に建つ花瓶型の形状(直径100m、高さ400m)をしており、この施設が20秒間で1周する遠心力を利用し、内部に地球上と同じ1Gの重力を造り出す設計になっています。
ですが、地球の6分の1とは言え月には重力があります。なのに回転してるとは言え、月の重力に逆らって垂直に建っているルナグラスの中で人が暮らせるのか?と疑問に思ってしまいますが、その疑問には「合力」という作用が答えを出してくれるそうなんです。
「Image Credit:回転するルナグラス®の人工重力概念図(TECTURE MAGより)」
「合力」について上画像で解説していますが、月面では上に上がれば上がるほど重力が弱くなるため、月面に近い場所(6分の1重力)は円筒部が狭まり、回転による遠心力を6分の5になるよう調整します。そこから合力作用を利用し、少しずつ円筒部を広げて行く事で施設が花瓶のような形状になるとの事なのです。
なお、人工重力施設は火星の3分の1の重力にも適用できる「マーズグラス」構想もあるとの事です。
清水建設:宇宙ホテル構想
今回ご紹介するゼネコン各社の中で、一番最初に「宇宙開発室」を立ち上げたのが清水建設でした。清水建設は、今後人類が宇宙進出をする時代において建設会社がどうのように貢献できるか?を考え、1988年には既に「宇宙ホテル」構想を発表し、その後も研究を続け未来的な展望ではなく、現代の技術でどんな宇宙ホテルを建造出来るかの構想を打ち出しています。
「Image Credit:宇宙ホテルのイメージ図(清水建設H.P.より)」
それが地球低軌道に浮かぶ、全長240mというかなり大型の宇宙構造物で、展開型の太陽電池パネルとバッテリーを装備した電力装置、客室モジュール、パブリックモジュール、輸送用の宇宙船が離着陸するプラットフォームと行った4つのモジュールで構成された現実的な宇宙ホテルとなっています。
「Image Credit:宇宙ホテルの客室モジュール(左)とパブリックモジュール(右)(清水建設H.P.より)」
また、客室モジュールは直径140ⅿのリング構造になっており、リングを1分間に3回転させる遠心力で0.7Gという地上に近い重力を実現出来るとの事です。
竹中工務店:宇宙農場システム
竹中工務店は、東京理科大学のスペース・コロニー研究センターに参画し、宇宙で長期滞在するために必要な技術研究開発に取り組み、中でも宇宙での衣食住に重点を置いて研究しているといい、その一環で考え出された「宇宙農場システム」構想は、食糧補給を地球に頼らず現地(月面等)生産するための仕組みづくりに取り組んでいるそうです。「Image Credit:宇宙農場システムのイメージ図(竹中工務店H.P.より)」
具体的には、多品種密閉型栽培の袋培養技術を用い、高クリーン度・低圧環境内で食用植物を栽培し、無菌で安全で新鮮な食糧が供給できるシステムを構築するとの事です。
また、将来的には月面に大規模農場を設営し、大量供給を実現する事で供給できるよう想定しているそうです。
大手ゼネコン4社が構想する宇宙インフラの実現度は?
以上、国内の大手ゼネコン4社による宇宙インフラ構想の紹介でしたが、大林組と鹿島建設の構想は莫大な費用と高度な技術力が必要ですが、実現不可能なモノではなく研究が進むと実現に近づいて行く事が期待されます。一方、清水建設と竹中工務店の構想は、近い将来には実現可能とされており、アルテミス計画を含めた今後の宇宙開発計画の進捗次第で、この案が現実味を帯びて来る事はあるかも知れません。
いずれにしても、この4社の構想は、これから本格的な宇宙時代を迎える人類の生活には欠かせない、インフラ建設支援である事は間違いなのでのはないでしょうか。