「近い将来、人類は火星を植民地化し移住を実現する。」と高らかに宣言し計画を実行するとしている某民間宇宙企業の代表。とても夢のある話で、期待に胸を躍らされる人も多いか?と思います。
しかし、その一方で「人類が火星に移住する事は難しい。」という声もあり、このブログでも何度もその話題を取り上げて来ました。
そんな中、火星移住を困難にさせるかも知れない新たな事実が判明。今回はその判明した事実をお伝えするとともに、本当に人類が火星を植民地化する事は可能なのか?現実的な問題点を挙げてみたいと思います。
現実に存在する火星移住計画の検討
今やあのNASAを凌ぐとまで言われているアメリカの民間宇宙企業スペースX社。その勢いは凄まじく、驚異的な開発スピードで宇宙を目指しており、現在では「スペースXがなくなったら宇宙開発が停滞する」とまで言われるほど、現在においては宇宙開発で断トツトップに君臨しています。そんなスペースXの創始者でCEO.のイーロン・マスク氏は、本気で火星に人類を移住させるという植民地化計画を掲げ目標にしており、「2050年までに火星に100万人が住めるようにしたい。」とまで言っています。
確かに、21世紀に入ってからスペースX社のような民間企業が宇宙事業に乗り出し、かなりのスピードで宇宙開発は進んではいますが、それでも現時点では火星どころか月にも開発の手は伸びていない状況の中、わずか四半世紀後には100万人が火星に住んでいる等と個人的にはとても想像出来ません。
果たして、イーロン・マスク氏が考えているような事は本当に可能なのでしょうか?
月の開発とは段違いにレベルが違う火星開発
地球から月まで平均で38万キロ。また、地球の衛星である月は地球の周りを回っているので常にこの距離は変わらず、ロケットを打ち上げれば3~4日程度で月まで行く事が出来ます。「Image Credit:1972年アポロ17号が月面に着陸した様子(JAXA 宇宙情報センターより)」
しかし、火星は地球と同じ惑星のため、地球と火星の距離はもっとも接近した時で約6,000万キロ。最も離れた時で約4億キロと大きく変動するため、火星へ向かうロケットはいつでも打ち上げるワケには行かず、地球と火星が接近するタイミングに合わせる必要があり、しかもそのタイミングは2年2カ月に1回しか訪れず、接近した時にロケットを打ち上げても、火星に到着するまで最低でも半年以上はかかってしまい、またその間、火星行きの宇宙船乗員は、長期間の無重力に耐え続けないと行かず、さらには有害な宇宙線に晒され続ける事も考慮した上で火星までの道のりとなってしまうでしょう。
「Image Credit:NASA/JPL-Caltech」
そして、火星に到着した時も月とは大きく異なり、重力が地球の約6分の1で大気のほとんど存在しない月面に着陸する場合は、ゆっくりと月面に接近し宇宙船の逆噴射で降りる事が出来るのに対し、重力が地球の半分以下で希薄ながらも大気の存在する火星で、逆噴射で着陸する事は非常に困難。重量の軽い無人探査機であればパラシュートと逆噴射の併用で着陸する事も可能ですが、人を乗せた重く大きな宇宙船をこの方法での着陸は現実的ではなく、大きな危険が伴うため他の方法を考える必要があるでしょう。
「Image Credit:火星無人探査機パーサヴィアランスの実際の着陸方法(NASAより)」
そもそも何故火星移住計画が検討されているのか?
おそらく、人類が火星に行くためにはかなりの技術と莫大な費用、そして危険が伴って来る事が考えられます。では何故、このようなリスクがあるにも関わらず火星に行き、そして移住する必要があるのでしょうか?そのひとつは、イーロン・マスク氏等の実業家が目指す巨大なビジネスチャンスではないでしょうか?
火星移住までの道のりは相当険しいですが、実現出来れば莫大な利益が期待出来、また宇宙という未開発な分野を独占する事も可能です。
「Image Credit:SpaceX」
2つめは、過剰な人口増加による地球環境破壊への懸念。火星といった他の天体に人口を分散させて増加問題を緩和させる目的もあるでしょう。
「Image Credit:iStock」
3つめは、枯渇しかけて」いる地球資源から、無限に眠るであろう宇宙資源の活用。
月面もそうですが、火星にも手付かずの資源が多く眠っています。それを採掘し利用するのも目的のひとつとなるでしょう。
他、火星に進出する事で、木星圏や土星圏等、さらに外側の宇宙へ進出する足掛かりにもなるでしょうし、さらにはイーロン・マスク氏が掲げるような”夢・ロマン”もそのひとつではないでしょうか?!
夢があっても火星移住は無謀かも知れない!?
人類が火星に移住する事は大きなメリットがあるかも知れません。しかし、現実的に考えれば、技術的な難しさ、そして相当な危険が伴う事も事実です。◆ 関連記事:火星移住プロジェクトが現実的に困難な8つの理由
そんな中、「火星移住は無謀?!」と思えるような新たな事実が判明。
それは2018年から2022年までの4年間に渡り、火星の地表や地下の探査を行った探査機「インサイト」による地震(火震)データを分析結果から判明したモノで、火星ではバスケットボールほどの隕石が毎年280~360個衝突しているとの事。
「Image Credit:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona」
上画像↑↑は、インサイトの火震計で検出された最近火星に落下した隕石衝突跡(クレーター)を、火星上空を周回する探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」が高解像度画像科学実験(HiRISE)カメラを使って撮影したモノで、それぞれのクレーターは直径8メートルを超えていると言います。
実際、地球にも毎年数千〜数万個の隕石が落下していますが、そのほとんどは地上に落下する前に燃え尽きてしまいます。つまり、地球の大気が隕石の防御シールドとなり地上への悪影響を防いでいる事になるのですが、地球の大気圧(1,013hPa(平均))に対し火星の大気圧の平均は約7hPa。つまり火星の大気圧は地球の100分の1以下とかなりの希薄。そのため、多くの隕石は大気中で燃え尽きる事なく地表に落下してしまうのです。
またインサイトの分析によると、直径30メートルを超える大型のクレーターも月に一度の頻度で出現していると推定されており、もし今後、人類が火星に移住したとなれば、隕石が居住エリアに落下し大きな被害をもたらす事も十分考えられるワケで、この現実を考慮したら火星の植民地化は困難というより無謀ではないか?!とも言えるのかも知れません。