2020年5月以降、日本でも肉眼で見えるかも知れないと噂されている「アトラス彗星」。
もしこの彗星が肉眼で見えれば、間違いなく2020年一番の天体ショーになるのですが、しかしながら観測の期待には暗雲も立ち込めており、太陽最接近まで約1カ月となった現在でもどうなるのか?不明。
それでも、新型コロナウイルスの影響で外出を自粛している中、自宅からでも肉眼で見えるかも知れないアトラス彗星は、楽しみのひとつになってくれるかも知れません。
大彗星候補だった?アトラス彗星とは
アトラス彗星については、このサイトでも何度かご紹介していますが、はじめてこの彗星ついて耳にしたという方に向けもう一度簡単にご説明します。アトラス彗星(C/2019 Y4)が発見されたのは2019年12月28日。
太陽系の遥か外縁部(太陽から約920億キロの距離)からやって来た長周期彗星です。
彗星は太陽の光が届かない冷たく暗い太陽系外縁部からやって来るため、その構造は氷と岩石で出来ています。
大きさは大小様々ですが、一般的な大きさは数百メートル~数キロ程度で、これは彗星のコマ(核)と呼ばれており、コマが太陽に接近し激しく熱せされ多くのガスや塵を噴き出す事で見た目上大きく膨れ上がります。
「Image Credit:彗星探査機ロゼッタが撮影した「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」のコマ(核)(ESA/Rosetta/NAVCAMより)」
そこで、アトラス彗星のコマの大きさはどれくらいあるのか?調べてみましたが、残念ながら見つける事が出来ず不明。
大彗星になるにはコマの大きいという条件がありますので、その要素を持っている事が判っているアトラス彗星は、おそらく数キロ程度以上の大きさはあるものと思われます。
この彗星は2020年5月23日に地球に最も近づき、1週間後の5月31日には太陽まで3,780万キロまで接近する近日点を通過します。
つまり、アトラス彗星の軌道は非常に良い条件であり、期待どおりに成長すれば満月よりも明るく輝く史上最大級の大彗星が出現するハズなのです。
核が分裂し崩壊してしまったアトラス彗星
大彗星の期待高まるアトラス彗星。ところが太陽に接近するに連れ、様子がおかしくなって行きます。
そのおかしな様子は4月に入ってから現実味を増して来ました。
何と!コマがまさかの分裂崩壊!
その様子は地球からの観測でもハッキリとわかるようになって来ました。
「Image Credit:Milen Minev, Velimir Popov & Emil Ivanov 2020」
上の画像は4月12日に撮影されたアトラス彗星(中央右側)。
画像でもハッキリとわかるほどコマ(核)が分裂している様子が伺えます。
何故、分裂崩壊してしまったのかは不明ですが、おそらく、アトラス彗星のコマには増光の元となるガスや塵がそれほど多く含まれておらず、またコマそのものが脆い構造だった事も考えられ、太陽に接近し急激に熱せられた事でガスや塵の量が不足し、崩壊に繋がったのではないか?と推測されます。
崩壊してもまだ期待できるかも?
残念ながら分裂崩壊し、大彗星の期待が断たれてしまったと思われるアトラス彗星。ですが「まだ諦めるのは早い!?」という声も多くあります。
というのも、分裂崩壊により減光に転じてしまったアトラス彗星ですが、4月中旬以降その減光が止まり再び増光に転じつつあるとか!?
この情報を聞いて期待度も高まるのですが、当初の期待どおりには流石になりそうもなく、現時点での予想はマイナス1~2等級程度。
具体的な明るさでいうと、全天で太陽の次に明るいおおいぬ座のシリウス程ではないか?と予想されています。
ただ、彗星星観測で難しいのは、彗星の光度は予測しにくいって事で、実際にはそのときになってみないとわからないという事です。
また、シリウス程度まで光度が増せば、彗星の特徴である長い尾もハッキリと確認出来るかも知れません。
アトラス彗星が見える時期と方角は?
さて、コロナウィルスの影響で自宅で過ごす時間が多くなり刺激の少ないこの時期。期待外れとは言っても、肉眼で見える可能性のある彗星を観測出来るのは、少しでも刺激になってありがたい事ではないでしょうか?
では、アトラス彗星の出現はいつなのか?
またどの方角を見れば彗星を観測出来るのか?についてですが、基本的には、日没後の西の空を見上げると良いでしょう。
もしアトラス彗星が肉眼ではっきりと見えるようなら、特徴的な長い尾まで確認出来るのでひと目で彗星だとわかるでしょう。
また、念のために補助の観測道具として双眼鏡を用意しておくのも良いか?と思います。
但し、この時期、西の空には彗星より遥かに目立つ金星(マイナス4等級)も輝いています。
金星も観測対象として眺めるのも良いですが、それを彗星と間違えないようにしましょう。
観測時期は4月の中旬から6月にかけてで、最も明るく輝くのは近日点を通過する5月31日だとされています。
「Image Credit:Gerald Rhemann」
いずれにせよ過度な期待はしない方が良いですが、それでも自宅またはその周辺からでも観測出来るであろう天体ショーを楽しむのは、外出制限の中ひとつの清涼剤になるかも知れません。