先日打ち上げに成功したJAXAの水星探査機「みお」
「みお」は約7年という年月をかけて太陽系第1惑星・水星に向かうワケですが、そもそも水星は太陽系の惑星の中で最も小さい天体で、しかも大気もほとんど無く、生命存在など絶望的で特別な資源が眠っているワケでもないと考えられているのですが、にも関わらず人類は多額の資金を継ぎ込みこの惑星に探査機を送っているのです。
いったいその理由とは?何なのでしょうか。

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これまでの水星探査

水星探査を行うために、2018年10月に地球を旅だった日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星磁気圏探査機「みお」。

「Image Credit:JAXA宇宙科学研究所
今回打ち上げられた「みお」(ベピ・コロンボ計画)で、人類が水星に向けて探査機が送られたのは今回で3回目です。

この探査回数は、太陽系惑星の中では地球から遠く離れた天王星や海王星を除いて最も少ない探査回数ではあり、最も多い火星の35回(失敗は除く)比べると圧倒的少ない数です。

これまで行われた水星探査は、1973年に打ち上げられたNASAの「マリーナ10号」で、同機はは水星(金星も含む)大気、地表、物理的性質の観測を行っています。
続いてが、2004年打ち上げのNASA「メッセンジャー」で、水星を構成する物質、磁場、地形、大気の成分等が調査が行われています。

「Image Credit:マリナー10号(左)とメッセンジャー(右)(Wikipediaより)」
つまり、人類の宇宙探査が行われるようになってから半世紀以上経っている事を考えると、水星探査は非常に少ないワケでそれには探査機を積極的に送れない理由があるようです。

水星探査が少ない理由とは?

水星は、惑星と呼ぶにはあまりにも小さく地球の5分2ほどしかありません。
また、この惑星の表面を見てもそれほど特徴があるとは思えず、天文知識の無い人が見ると”月”と見間違うかも知れません。

「Image Credit:Wikipedia」
こういった点からも、あまり魅力が無い天体と言っても過言でないほど一般的には思われるのでは?と、水星があまり探査されない理由として挙げられるのですが、実はそうではなく、水星探査は他の惑星探査に比べ非常に難易度の高い探査になってしまうのが大きな理由になります。
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非常に難しい内惑星探査ミッション

地球と水星の距離は、最も接近したときで9,150万キロで、10回以上行われている木星探査の約6億3,000万キロ(最短)に比べると相当近い距離と言えます。

地球から近い?のに、水星に探査機を送るのは何故難しいのでしょうか?
その大きな理由は太陽です。

水星や金星といった地球より太陽に近い内惑星に探査機を打ち上げる場合、太陽に近いほど位置エネルギーが低いため巨大な重力を持つ太陽に引っ張られて探査機は加速してしまいます。
つまり、太陽の重力を考慮しないで探査機を内惑星に向けて打ち上げると、坂道を転がり落ちるように太陽に引かれていってしまうのです。
しかも、太陽を僅か88日で周回する水星に対し、この周回スピードにも合わせないと水星軌道にたどり着くことはできません。

このような条件があることで、探査機を水星まで到達させるには膨大なエネルギーを必要とすることになり、結果として水星への旅は近くて遠い険しい道のりになるのです。

そんな”険しい水星への旅”を可能にするためにとった手段は、地球や金星といった惑星の重力を利用する航法・スイングバイを行う事でした。


「Copyright ©:jaxasgm – JAXA相模原チャンネル All rights reserved.」
このスイングバイを行えば少ない燃料でも水星軌道投入が可能になるのですが、代わりに大きく遠回りをするため、最大でも2億キロしかない地球と水星の距離はスイングバイを行うことで70億キロにもなってしまい、到着するまで7年もの年月もかかってしまいます。
ただ、このスイングバイによる航法は水星や金星といった内惑星だけでなく、木星や土星などに行く外惑星探査にも利用されていますが、探査機「みお」が行うスイングバイが合計9回にも及びこれは史上最多だという事です。
さらにスイングバイには、非常に高度な技術が必要となるため、結果、探査機「みお」の水星までの道のりは困難を極めるモノとなっています。

小さな惑星・水星を探査する必要性

前述もしましたが水星は太陽系の中で最も小さな惑星です。
また、太陽に近いため表面温度は摂氏450度近くにも達し、大気や水の存在の期待もほとんど無く(実際は希薄な大気と、日の当たらない影の部分に水(氷)の存在が確認されています。)、さらには探査の難易度も高い。
このような悪条件から、これまで水星探査にはあまり目が向けられておらず、それ故に、水星に関する十分な探査データがなく未だ謎多い惑星のひとつでもあります。

「Image Credit:人類最初の水星探査機・マリナー10号(Pics about Spaceより)」
さらに、太陽系の岩石惑星(水星・金星・地球・火星)の中で固有の磁場を持つは地球と水星だけであり、通常、質量の小さい天体には磁場は存在しないと考えられていますが、水星はそれに該当していないためその謎を探るのも今後の大きな課題となっています。
他、太陽系の惑星で最期に誕生したと考えられている水星には、太陽系形成の謎も眠っていると期待されており、小さな惑星ながらも重要な謎を秘めていることに探査を行う必要性が出てきているのです。

今回の水星探査は二段構えで実施

JAXAの水星探査機として打ち上げられた「みお」。
これは日本が開発した探査機だけに日本では「みお」が大きくクローズアップされていますが、この打ち上げには「みお」以外にもう一つの探査機が積まれており「ベピ・コロンボ計画」と呼ばれている探査計画です。

「ベピ・コロンボ計画」~これは欧州宇宙機関 (ESA) の共同プロジェクトによる水星探査計画で、水星に向けて打ち上げられた探査機は水星軌道に到達後2機の探査機に分離されます。
その2機のウチの1機が水星磁気圏探査機「MMO」~通称「みお」なワケで、その名のとおり水星の磁場を観測するために送り込まれた探査機です。

「みお」は水星最大の謎とされる磁場の解明に挑み、その他、希薄な大気の分析、太陽から届くプラズマ、ダストの調査を主なミッションとしています。

そして、もう1機が欧州宇宙機関 (ESA)が開発した水星表面探査機(MPO)。

「Image Credit:水星表面探査機(MPO)(ESA/ATG medialabより)」
MMOは水星表面と内部を主に調査するのが任務となっており、水星の表面にある地形がどのようになっているのか?どんな鉱物があり化学組成はどのようになっているのかを探査します。

「画像参照:JAXA/ESA」
また、水星には星全体の半分以上を占める巨大な核が存在し、太陽系の惑星の中で地球に次ぐ密度を持っています。
おそらくは、その密度が水星に磁場を発生させている要因になっていると考えられていますが、それを調べるためのミッションもMMOには課せられています。
小さいながらもその探査は太陽系のみならず、太陽系外の惑星形成を知る上で重要な意味を持つと期待されている水星の謎解明。
ベピ・コロンボ計画で打ち上げられた2機の探査機。2025年に水星に到着し約1年間に渡り探査・観測を行います。
この探査で、水星の謎をどこまで解明出来るか?期待は高まるばかりです。
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