誰もがその名前は知っているけど良く判らない「ブラックホール」という天体。
この天体はブラックホールという名前が付けられているだけあって、宇宙に開いた何でも吸い込む恐ろしい”黒い穴”的なイメージが一般的かも知れませんし、20世紀末までブラックホールは実在するか?どうかもわからない理論上の天体でした。
しかし21世紀となった今日。ブラックホールと思われる天体が実際に確かめられた事を皮切りに、観測研究も進んで少しずつ謎が解明されつつあります。
とは言っても、解明されたのはほんの一部に過ぎす、まだまだ謎のままである事は事実であり、その謎が多い故にブラックホールの存在自体を疑問視する声も一定数あるのもまた事実です。
18世紀から始まっていたブラックホール理論
ブラックホールが最初に提唱されたのは18世紀末。その後の20世紀、アインシュタイン博士が一般相対性理論にて「天体が質量そのままの状態である半径よりも小さくなった場合、その天体は超高密度で超重力の存在となり光さえも脱出出来ない重力場が存在する事になる。」と提唱。仮にその天体が太陽と同じ質量だった場合、光が脱出出来なくなる大きさ(半径)は3キロメートルほどだったと言います。しかし、この考えはあまりにも常識外れなため、ブラックホールの存在を提唱したアインシュタインでさえも、その後発表した論文で「ブラックホールが存在し得ない」と否定しています。
「Image Credit:iStock」
そんなブラックホールが実在するかしないか?の議論が続く中、観測技術が進歩するに連れ「ブラックホールは実在する」という考え方の方が大きくなり、実際にブラックホールとして史上初めて観測されたのが、地球から約7,300光年離れた位置で発見された「はくちょう座X-1」でした。
「Image Credit:連星を成すブラックホール「はくちょう座X-1」の想像図(Wikipediaより)」
「はくちょう座X-1」はブラックホール確実とされながらもまだ候補でしかなく、その後も候補としてのブラックホールはいくつも確認され続けて来ました。
ブラックホールの存在を確実にした!?直接撮影に成功!
これまで発見、確認されて来たブラックホールは、宇宙からやって来る電波を観測する事でブラックホールではないか?とされて来ましたが、その実態を誰も見た事がないため”候補”の段階から外す事が出来ないのが現状でした。そんな中、2019年4月。世界各国の科学者たちが協力し、地球上にあるいくつもの電波望遠鏡を結合させ、地球サイズの仮想電波望遠鏡を造り出すという「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」を実現し、これにより地球から5,500万光年彼方にある楕円銀河「M87」の中心部に存在する、太陽質量が65億倍もある巨大ブラックホールの撮影に成功し、その後も私たちの太陽系が属する天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール(太陽質量の約430万倍)の「いて座A*」の撮影にも成功。これによりブラックホールが実在する事を証明したとし、大きな話題になりました。
「Image Credit:EHTにより撮影されたM87中心部の超大質量ブラックホール(左)いて座A*(右)(Wikipediaより)」
ブラックホール誕生の謎
ブラックホールはどうやって創られるのか?この謎についてはこれまで何度も触れて来ましたが、現在の考えでは大質量恒星(太陽質量の30倍以上)が寿命を終え重力崩壊した末に誕生する、重力のみの塊である天体がブラックホールだとされています。すなわち、このような大質量恒星は宇宙の至る所に存在し、ブラックホールもまた宇宙の至る所に存在していると考えられており、天の川銀河内も少なく見積もって1億個以上はあると推測されているほど、常識外れな天体であるにも関わらずブラックホールは珍しくない存在だと考えられているのです。
根強く残るブラックホールは存在しない説
あまりに重力が強すぎる特異な天体のため、秒速30万キロもの速度を持つ光さえ抜け出す事が出来ないブラックホール。光速と重力の脱出速度(地球からの脱出速度は秒速約11キロ)が等しくなる地点は事象の地平面と呼ばれ、事象の地平面から内側は光が脱出出来ないため黒く見え、それがブラックホールの本体だと言われています。● ブラックホールの構造
「Image Credit:ESO,ESA/Hubble,M.Kormmesser/N.Bartmann」
また強重力の塊であるブラックホールの内部を知る事自体が理論的に不可能という事もあり、「本当はブラックホールは存在しないのでは?」と疑問の声が挙がっているのも事実です。
つまり、ブラックホールの存在を証明する証拠となる事象の地平面の内側の構造がわからない以上、ブラックホールが実在するとは言い切れず、尚且つ、現在の物理学では説明の出来ない天体である事も疑問視が挙がる理由になっているようなのです。
ブラックホールの代替天体
とは言え、ブラックホールは観測的な証拠がある事もあり、多くの科学者たちはブラックホールは実在すると断言しています。「Image Credit:ブラックホールをCGで表現した想像図(NASAより)」
しかし、それでも理論的に謎や問題点が多いブラックホールですが、そのような問題点に説明が付く代替天体(疑似天体)として2つの天体の存在も提唱されています。
それが「グラバスター」と「ネスター」と呼ばれる天体です。
2001年に提唱された代替天体「グラバスター」
グラバスターとは、一般相対性理論から導き出された仮説上の天体で、静的で安定でかつ球対称な天体として2001年に提唱されています。このグラバスターは重力真空星と呼び、大重力の恒星が重力崩壊して生まれた恒星質量ブラックホールと同じくらいにコンパクトな天体で、外見的にもブラックホールに似ており、強重力にて生じる空間の歪み等もブラックホールと同等とされているのですが、グラバスターの中心部には、宇宙の加速膨張の要因となるダークエネルギーが存在し、ブラックホールでは無限の重力場となる特異点が形成される事を防いでいるのではないか?と考えられ、これまでブラックホールとしか説明出来なかった天文現象は、クラバスターに置き換えても説明が出来ると言います。
「Image Credit:ESA/Hubble, Digitized Sky Survey, Nick Risinger (skysurvey.org), N. Bartmann」
また、ブラックホールには光が脱出出来なくなる境界面である事象の地平面がありますが、グラバスターにはそれは存在せず、代わりに表面には非常に薄い物質の層があり、限りなくゼロに近い薄さではないかと考えられます。
2024年に提唱された代替天体「ネスター」
ネスターは最近になって提唱されたブラックホールの代替天体で、グラバスターの中にグラバスターがある何重にも重なった、”入れ子構造”の性質を持つ天体がネスターであり、理論上はこのような構造を持つ天体が存在してもおかしくはないそうです。「Image Credit:ネスターのイメージ図(Daniel Jampolski & Luciano Rezzolla, Goethe-Universität)」