最近、報道ニュースでも取り上げられ話題性が高まっている小惑星「2024 YR4」をご存じの方も多いのはないでしょうか。
この小惑星が話題になっている理由は、2032年に地球に衝突する可能性があるという事で、一つの都市全体に甚大な被害をもたらす可能性がある「シティー・キラー」に分類される危険度の高い天体で、約100年前に起こった「ツングースカ大爆発」の再来か?と言われ、今後の動きが非常に気になるところです。
小惑星「2024 YR4」とはどんな天体なのか?
一般的にはあまり知られていませんが、私たちの地球の周りには、地球に接近する軌道を持つ数え切れない程多くの小惑星が存在しており、これらを総称して地球近傍小惑星 (NEO)と呼んでいます。今回紹介する小惑星「2024 YR4」は数多くある地球近傍小惑星の一つで、地球と火星の軌道を交差するカタチで周回しています。

「Image Credit:白線の軌道が「2024 YR4」で青線が地球の軌道(Wikipediaより)」
つまり、この小惑星が地球に接近するのは初めてではなく、これまでも幾度も接近しているワケですが、今回は「2024 YR4」が地球の軌道と交差する際に、たまたま地球と小惑星が最接近してしまうという、言い方は適切ではないかも知れませんが”絶妙なタイミング”になってしまったという事になるようなのです。

「Image Credit:白線の軌道が「2024 YR4」で青線が地球の軌道(Wikipediaより)」
直径が40~90m程の大きさと見られるこの小惑星が、もし地球の陸地に落下してしまった場合、約7.6メガトン(Mt)相当のエネルギーを放出すると見積もられており、この衝突エネルギーは、1908年にシベリア(ロシア)で起こった「ツングースカ大爆発」に匹敵するのでは?!と推測されているのです。
ツングースカ大爆発とは?
1908年6月30日早朝7時過ぎ、ロシア領北シベリアのポドカメンナヤ・ツングースカ川上流域付近で突然の大爆発が発生。爆心地から半径約30~50キロ四方の森林が炎上し、東京都とほぼ同じ面積に相当する約2,150平方キロメートルの範囲の樹木がなぎ倒されるという被害が起きてしまいました。ただ、幸いにも爆心地が居住区から遠く離れた山奥だったため人的被害は起きなかったとされていますが、それでも1,000キロも離れた民家の窓ガラスが爆発の衝撃波で割れてしまうほどの威力だったそうです。
「Image Credit:ツングースカ大爆発によってなぎ倒された森林(Wikipediaより)」
誰も目撃者がいなかったという事もあり、つい最近まで”世界の7不思議”にも数えられるほど謎に包まれていましたが、専門家たちの調査によって爆発原因の断定は出来ないものの、おそらくは30~70メートルほどの小惑星が地球に落下した際、地上に衝突寸前に大爆発を起こした事によるものだと推測されており、その爆発エネルギーは広島型原爆の約30倍に匹敵する威力があったとされています。
つまり、2032年に地球落下の危険性がある小惑星「2024 YR4」も、ツングースカ大爆発の時の小惑星とほぼ同じサイズという事になり、それがもしシベリアのような山奥でなく人口密集地だった場合、その被害は想像を絶するモノになることは間違いないでしょう。
地球衝突確率が変動する小惑星「2024 YR4」
ニュースでも取り上げられるほど話題になっている小惑星「2024 YR4」。その理由はこの小惑星が2032年12月に地球最接近する際、最接近でなはなくそのまま地球に衝突してしまうという確率が約1%程とされていたのに対し、その後の予測で3.2%まで上昇。この分析結果をNASAが公表するが否やマスコミが飛びつき一斉に報道。人々の不安を煽るカタチになってしまいました。All rights reserved.」
しかし、NASAはその後分析結果を訂正。衝突確率は1.38%まで下がり、今後もさらに確率が減少し、最終的には確率ゼロになる可能性が高いとしています。
もし小惑星「2024 YR4」が地球に衝突したらどうなる?
小惑星「2024 YR4」の地球衝突確率が下がった事は一安心ですが、それでも少なからず危険性は残っているワケで、もしこの小惑星が地球に衝突した場合はどんな被害が出てしまうのでしょうか?その被害については前記したツングースカ大爆発と同程度だと推測されますが、このような小惑星による衝突が人口密集地で起こった場合、爆発の規模こそ違いはありますが、参考となるのが2013年ロシアで起こった「チェリャビンスク隕石爆発事件」ではないでしょうか!?
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この時は、大きさが約20メートル程の隕石が落下し、ロシアのチェリャビンスク州の上空約20キロメートル付近で、TNT火薬約500キロトン相当の爆発し、チェリャビンスク地方を中心に自然災害をもたらしました。この時の主な被害は爆発による衝撃波で、7,000棟以上の建物を損壊させ、また割れたガラスを浴びるなどで約1,500人が重軽傷を負ってしまいました。
NASA等の専門家の話によると小惑星「2024 YR4」は、チェリャビンスク隕石爆発事件と同様の現象が起きるモノの、その被害はツングースカ大爆発並みかそれ以上。すなわち、甚大な被害の可能性が非常に高い事もあり得るそうなのです。
小惑星地球衝突を回避する方法はあるのか?
実は、このような小惑星衝突の危機を回避すべく、NASAは2022年にある実験を行っています。その実験の名は「DART計画」。DART計画では、地球から約1,100キロ離れた場所にある小惑星「ディディモス」を周る直径170メートル程の衛星小惑星「ディモルフォス」に質量500キロの探査機を激突させ、ディモルフォスの軌道を変えさせるという試みでした。

「Image Credit:二重小惑星ディディモス(左)と衛星ディモルフォス(左)に接近するDART探査機の想像図(Wikipediaより)」
実験結果は大成功。当初の計画では衛星小惑星「ディモルフォス」の公転周期を73秒遅らせる事が出来れば成功としていましたが、結果は予想を遥かに上回る32分の短縮に成功!すなわち、人工物(探査機)を目標の天体に激突させ破壊するのではなく、その衝撃で軌道を変えるというモノ。
この実験はあくまでも対象天体が小質量であり、なおかつ、遠方にある時のみ有効との事なのですが、小惑星「2024 YR4」は小質量ではあるモノの、今からこの小惑星に向かって激突させる探査機を打ち上げて、さらに小惑星とシンクロさせる軌道に乗せる事は至難の業だと思われます。
NASAはDART計画での実験成功を、今後どう役立てていくかはわかりませんが、今のところ衝突確率が低い以上は、莫大な費用がかかるこの計画を実施する予定はないと思われます。