2016年2月に、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 (JAXA/ISAS) が中心となり打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)。
しかし、いきなりトラブル続出で前途多難な状況に陥り、なかなか新たな発見をするまでに至っていませんが、「ひとみ」が観測ミッションの1つにブラックホールの謎を解明するという目的があります。
ブラックホールは、光さえも脱出出来ない極めて高密度で強い重力の天体として、20世紀から理論上存在すると考えられて来ましたが、その存在が明らかになったのはつい最近の事で、まだ全貌はほとんど解明されていない謎の天体です。
ここでは、現在分かっている範囲内でブラックホールはどういった天体なのか?また種類はいくつあるのか?などについて解説してみたいと思います。
※ 追記:X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)は、不具合が解消出来ずに短期間(2016年4月末)で運用を終了していますので、この記事での解説は省きます。
ブラックホールの発見の歴史
ブラックホールからは、どんな物質や電波等が発出されないという特性があるため、直接的に観測を行うことは困難とされています。そんな”目に見えない”ブラックホールですが、この存在を示す理論は古く、1783年イギリスの天文学者ジョン・ミッチェルによって理論化された天体です。
「Image Credit:ブラックホールの想像図(Wikipediaより)」
その後、長い間ブラックホールは仮説の天体とされて来たのですが、はじめてそれらしき天体が発見されたのは1970年代になってからで、はくちょう座方向に目には見えないが激しくX線を放射する物体を確認したことで、これがブラックホールではないかと推測されるようになりました。
「Image Credit:X線観測衛星「チャンドラ」が撮影したはくちょう座X-1(左)とその想像図(右)(Wikipediaより)」
のちに、はくちょう座x-1は正式にブラックホールとして認められ、それ以降いくつものブラックホール候補が発見されており、私たちの太陽系が属する天の川銀河の中心にも、巨大質量のブラックホールが存在することも確認されています。
※ 補足:2022年5月に、撮影に成功したと発表された天の川銀河中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の実際の画像。
「Image Credit:Wikipedia」
「いて座A*」は、地球から約2万7,000光年の距離にあり、質量は太陽の約430万倍と見積もられています。
ブラックホールとはいったいどんな天体なのか?
ブラックホールは極めて高密度で大質量の天体です。そのため周りにあるものを全て飲み込むほどの凄まじい重力を持ち、それは光さえも脱出することが出来ないというほどの天体です。良く人間がブラックホールに吸い込まれたらどうなる?等と言うことがありますが、実際のブラックホールでは吸い込まれるというような生易しいものではなく、それはとてつもない巨大な重力で、物質の原子も残さずに潰されるという表現の方が正しいとされています。
「Image Credit:YouTube」
その巨大な重力とは、具体的に表現するとどういう事なのでしょうか?
例えば、地球をブラックホール化するとしたら。パチンコ玉くらいの大きさまで押し潰せば、地球もブラックホールになるとされ、とてつもなく巨大な重力の作用により重力波が発生し、時空に歪みを生じさせるほどだと考えられています。
なお、最近の観測によりブラックホールには大きく分けて大・中・小3つの種類があるとされています。
ブラックホールの種類「恒星質量ブラックホール」
宇宙で、最も多く存在すると考えられているのが小型のブラックホール。これは、太陽質量の30倍以上の恒星が寿命を終え、重力崩壊(超新星爆発)の末に形成されるのが小型のブラックホールで、恒星質量ブラックホールとも呼ばれており、太陽の10倍前後の質量を持っていると考えられています。このタイプのブラックホールは非常に多いとされ、私たちの住む天の川銀河内にも数千万個以上は存在するのではないかと考えられています。
ブラックホールの種類「中間質量ブラックホール」
恒星質量ブラックホールにしては大き過ぎ、質量は太陽の10倍~数十倍と推測され、形成のメカニズムに不明な点が多く謎は解明はされていません。ブラックホールの種類「超大質量ブラックホール」
超大質量ブラックホールは、少なくとも太陽質量の100万倍以上はあると考えられており、私たちの天の川銀河を含め、ほとんどの銀河の中心に座しているとされています。また最近では、太陽質量の400億倍もの想像を絶するとてつもないブラックホールも発見されていて、このような巨大なブラックホールはどのようにして形成されるのか?
まだその謎の解明には至っていませんが、おそらくは、ブラックホール同士が合体融合を繰り返し成長した姿が超大質量ブラックホールではないか?と推測されています。
「Image Credit:Matthias Kluge/USM/MPE」
参考画像↑:2019年に発見された、太陽の400億倍もの質量を持つ巨大銀河「Holm 15A」の中心ブラックホール。画像の中心に見えるのが巨大銀河「Holm 15A」で、くじら座の方向約7億光年の距離に位置する「エイベル85」と呼ばれる銀河団のひとつ。
ブラックホールはいつかは消滅する!?
全てを吸い込むとされるブラックホールですが、そのエネルギーも莫大で少しずつ放出していると考えられています。このエネルギー放出をホーキング放射と呼び、1970年代にスティーブン・ホーキングらにより理論付けされました。
詳しい理論は量子力学によるもので非常に難しい解説になりますので、コチラの動画↓を参考にしていただけると良いかと思います。
良くカタチあるものはいずれ滅ぶとも言いますが、それはブラックホールも例外ではなく、ホーキング放射によって少しずつ長い時間をかけて衰退し、いつかは消滅する運命にあります。