以前、1,000光年先に地球に一番近いブックホールが見つかったとしてご紹介した事がありましたが、後に誤報として訂正した経緯がありました。
しかし、今回お届けする「地球に一番近いブラックホール」は、間違いなく存在すると判断され非常に興味深い天体として注目されています。
約1600光年先に見つかった恒星質量ブラックホール
これまで地球に一番近い場所にあるブラックホールまでの距離は約3,000光年だとされていましたが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」による観測で、3,000光年の約半分の距離(地球から1,560光年)に新たなブラックホールが発見されました。「Image Credit:位置天文衛星「ガイア」(Wikipediaより)」
ブラックホールは、極めて高密度で強重力を持ち光すら脱け出せない究極の天体だと考えられ、電波や光等いかなる物質も発出されないという特性から観測が非常に難しく「見えない天体」としても知られています。
そんな「見えない天体」を探すために位置天文衛星「ガイア」によって行われた今回の観測では、無数の連星系の中から時間とともに星の位置がブレる約17万件のデータを探し出し、その中から強い重力の影響で恒星が振り回されているように見える連星に絞り込んだところ6つの候補が残ったという事で、これらの候補をさらに分析したところ、かなりの確率でブラックホールと思われる天体が1つ探し出されたといいます。
それが「へびつかい座」の方向約1,560光年の距離に位置する「ガイアBH1」と名付けられた、既知のブラックホールでは地球に最も近いブラックホールであるとして発見に至ったという事です。
「ガイアBH1」はかなりレアなブラックホールだった!?
地球から「へびつかい座」方向約1,560光年の距離にあるとされるブラックホール「ガイアBH1」。秒速30万キロで進む光の速さで1,560年もかかるワケですから、私たちの感覚で考えるととんでもなく遠いと思えるのですが、天文学的な距離感で言うと、この距離は同じ天の川銀河の太陽系周辺の限られた領域内にある、言わば”ご近所”とも呼べるような近い距離になります。
「Image Credit:ブラックホール「ガイアBH1」の想像図(ESA/Gaia/DPACより)」
現時点でわかっている「ガイアBH1」の概要は、質量が太陽の10倍程の恒星質量ブラックホールだと考えられ、その周りを太陽に似た伴星(G型主系列星)が185.6日周期で公転しています。
「Image Credit:ブラックホール「ガイアBH1」を公転するG型主系列星の想像図(国際ジェミニ天文台より)」
また、このブラックホール「ガイアBH1」は、これまで確認されて来たブラックホールとは異なり「休眠状態」にあると言います。
通常、ブラックホールを発見するに至る経緯は、ブラックホールの周囲を降着円盤と呼ばれる塵やガスが取り囲み、それらの物質がブラックホールを高速で周る事で発生する摩擦熱から強力なX線を放出され、そのX線を検出する事でブラックホールを特定するのですが、今回発見された「ガイアBH1」はX線を放出しておらず、発見が非常に難しいレアな休眠中のブラックホールだったようなのです。
「Image Credit:周囲の物質を巻き込み降着円盤を形成するブラックホールの想像図(Wikipediaより)」
地球の近くにはもっと多くのブラックホールが存在するかも知れない?!
今回、休眠中のブラックホールを発見出来たのはX線を検出するといった方法は使わず、ブラックホールが持つ強力な重力によって引き起こされる空間の歪みと、周囲にある恒星の不規則な動きが観測できた事が休眠型ブラックホール発見成功の要因だと言います。しかし、研究者たちの見解によると宇宙ではこのような休眠型ブラックホールはただ発見が難しいだけであり、決してレアな存在ではないと言い、私たちの天の川銀河内だけでも数億個に及ぶブラックホールが存在する可能性があると考えられています。
「Image Credit:天の川銀河に分布するブラックホール(YouTUBEより)」
このような考えが正しければ、今回見つかった「ガイアBH1」よりももっと近い位置にブラックホールが存在する可能性もあるワケで、一部では、初期宇宙に形成されたボウリング玉程度の非常に小さな原始ブラックホールが太陽系の外縁部に存在しているのでは?とウワサされてもいますが、もちろんこのウワサには何の根拠等はありませんが、検出が困難な休眠型のブラックホールであれば、今後において「ガイアBH1」より記録更新の近距離ブラックホール発見のニュースが流れるかも知れません。