目には見えない重力だけの天体・ブラックホール。
所謂、天体としては究極とも言えるのがブラックホールですが、そんな天体が地球の近くにあったらどうなるのか?と気にもなりますが、最新の観測技術によって地球にかなり近い距離でブラックホールが発見されたとのニュースが話題になっています。
これまでで最短の距離に見つかったブラックホール
人類がこれまで発見したブラックホールは候補を含んでも百数十個程度ですが、そんな中、最も地球に近いとされたのが「いっかくじゅう座X-1」と呼ばれるブラックホールで地球からの距離は約3,000光年でした。しかし、このブラックホールよりもさらに近い距離(約1,000光年)で見つかったのがHR6819という連星系に存在するかも知れないブラックホール。
というのも、冒頭でも触れたようにブラックホールは目には見えない天体のため、本当にそこにあるのかは明確にはなっておらず、おそらくブラックホールではないか?との見解で発表されています。
「Image Credit:ILLUSTRATION BY ESO/L. CALÇADA」
この星系に存在するのでは?とされるブラックホールですが、その根拠は、HR6819は地球から見て「ぼうえんきょう座」(南半球で冬に見える星座)方向約1011光年の距離にあり、実際に確認出来る恒星は2つ。
つまり連星系というワケで、上図を見ていただければわかるかも知れませんが、目に見える2つの恒星の軌道(青色の軌道)にを説明付けるには、もうひとつの強重力の天体が無いと説明が付かない。この事からHR6819は2連星ではなく、もうひとつの天体・ブラックホール(赤色の軌道)から形成される3連星ではないかと推測される事になります。
地球に最も近い静かなブラックホール
人類がこれまで発見して来たブラックホールは、周りのガスや塵を巻き込んで回転する降着円盤を形成しているブラックホールがほとんどです。「Image Credit:降着円盤を纏ったブラックホールの想像図(Credit: Jingchuan Yu / Beijing Planetariumより)」
降着円盤はブラックホールの強い重力の影響で高速回転する事でX線を放出し、このX線を観測する事でそこにブラックホールが存在するかどうかがわかります。
しかし、今回見つかったのはX線を放出していない、言わば静かなブラックホールです。
このような静かなブラックホールは発見が極めて難しく、HR6819にあるだろうと推測されるブラックホールも詳しく調べると、計算上、目には見えない天体の質量は太陽の4.2倍以上はあり、可能性としてブラックホールの存在が浮上した事になったのです。
銀河系だけでも数え切れないほど存在するブラックホール
現在、人類が発見しているブラックホールの数は百数十個程度で、それは私たちの住む天の川銀河(銀河系)の外にあるブラックホールを含めての数です。ですが、ブラックホールはHR6819のような見えない静かなブラックホールも多く含まれており、これらのブラックホールを発見するには今の人類の観測技術では限界があります。
つまり、今発見されているブラックホールはほんのわずかにしか過ぎず、推定では、私たちの住む銀河系だけでも1億個以上のブラックホールが存在するのでは?と言われています。
「Image Credit:天の川銀河内のブラックホール分布(想像)(YouTUBEより)」
最も地球に近いブラックホールは太陽系の中にある?
今回、発見されたとされるHR6819のブラックホールまでの距離は約1,000光年。秒速30万キロで移動する光の速さで1,000年もかかる距離にあるワケですから、私たちの感覚ではとてつもなく遠い距離に感じるでしょう。
しかし、宇宙の距離感覚で言えば1,000光年はそれほど遠くはなく、むしろかなり近い距離だと言えます。
そんな宇宙感覚では近い距離で見つかったとされるブラックホール。
今後の観測技術の発達次第では、もっと近い距離で見つかる可能性もあるでしょう。
ところが、地球に一番近いブラックホールは”灯台下暗し”で太陽系の中にあるのでは?というとんでもない説も浮上しているのです。
それが近年話題になっている第9惑星の存在。
第9惑星はほぼ確実に存在しているとして、科学者たちは懸命にこの惑星を探していますが発見には至らず困難を極めています。
そんな中浮上したのが「第9惑星=原始ブラックホール」説。
そもそも第9惑星存在説が浮上した理由は、太陽系外縁にある複数の天体の軌道が、強い重力を持つ何らかの天体の影響を受けて歪められている事にあり、計算上少なくとも地球の10倍の質量を持つ天体の影響を受けていると推測されているからです。
この地球の10倍はある強い重力を持つ天体が見つからない事から、第9惑星の正体は見えない天体であるブラックホールではないか?との学術論文が発表されているのです。
ですが、通常ブラックホールの質量は少なくとも太陽質量の数倍はあります。
なのに、論文で発表されているブラックホールの質量は地球の10倍程度。
これではブラックホールが第9惑星であるというのには無理があるのですが、ここで浮上して来たのが原始ブラックホール。
原始ブラックホールは理論上の天体であり、宇宙創成期に誕生した非常に小さなブラックホールで、質量は地球の数倍~数十倍程度。
大きさにしてボウリングの玉程度の極小ブラックホールだという事です。
論文によると、たまたま太陽系の近くにあった原始ブラックホールが、太陽の重力に捕らえられ太陽系外縁部を公転するようになったのでは?という事のようです。
しかしこれは論文とは言えど、ひとつの説に過ぎず、異論を唱える人も多くいる事は事実です。
いずれにせよ、ブラックホールは私たちが考える以上に多く存在する事が考えられ、もしかしたら今後、さらに地球に近い距離でブラックホールが見つかる事も十分あり得る事です。