「ブラックホール」という天体の名前は誰もが聞いた事はあるかと思いますが、宇宙について特に詳しくない一般人からすると「ブラックホールって何でも吸い込む宇宙に開いた穴」的なイメージを持っているのではないでしょうか?
確かにブラックホールは謎だらけで、まだその正体のほとんどはわかっていませんが、それでも一般の人はブラックホールについて根本的な誤解があるようです。
ここではそんなブラックホールの誤解を、現時点で判明している範囲内ではありますが、簡単に解いて行きたいと思います。
ブラックホールは渦や穴などではない
一般に「ブラックホール」と聞くと、宇宙空間に開いた何でも吸い込む巨大で恐ろしい渦を巻く穴のようなイメージを持っているかも知れません。「Image Credit:iStock」
まぁ、このようなイメージを持ってしまう原因はSF映画やアニメ等の影響があるのかも知れませんが、そもそもブラックホールは渦や穴等ではなく天体であるため地球や太陽のような「球体」をしているのです。
では実際、ブラックホールとはどんな形状なのか?についてですが、NASAが物理的な見解から、ブラックホールのCGアニメーションで映像化していますのでご覧いただければと思います。
「Image Credit:NASA」
このCG映像について少し解説をしますと、まず真ん中の黒い部分が球状をしているブラックホールの本体です。
また、周りを取り巻くオレンジや黄色の渦が、ブラックホールを取り巻く摩擦による数千万度~数億度の超高温を持つ「降着円盤」と呼ばれるガスや塵の集合体ですが、ブラックホールの重力があまりにも強いため、降着円盤の後方部分が重力の歪みによって周り込み、ブラックホール本体を包んで渦を巻いているように見えています。
そして、2019年に実際の画像として捉えられたブラックホール。史上初の快挙としてセンセーショナルにメディア等で取り上げられましたのでご存じの方も多いと思いますが、この画像を見てもブラックホールが球体である事が確認出来るのではないでしょうか。
「Image Credit:地球から約5,500万光年先にある超大質量ブラックホール(M87銀河中心)実際の画像(Wikipediaより)」
「ブラックホールに吸い込まれる」という概念は誤解?!
良く「ブラックホールに近づくと吸い込まれる」と言いますが、正確に言うとそれは正しくはないでしょう。確かに、直線的に近づいた場合はブラックホールに落ち込んで行きますが、近づいたモノが何でもかんでも吸い込まれるというワケではなく、ブラックホールも天体ですので、地球が太陽を周っているように安全な距離を保ち、一定速度での軌道で周回すればブラックホールに落ち込む事はありません。
ですが仮にブラックホールに近づき過ぎて、落ちて行ってしまった場合はどうなるのでしょうか?
とは言ってもブラックホールに落ちた人など居るハズもありませんし、今の人類では直接ブラックホールに落ち込んで行く様子を観測する術などはありませんが、これを物理の法則に基づいて計算すると、人がブラックホールに近づいた場合、事象の地平線を通過する前にブラックホールの中心(特異点)に非常に近づくことになってしまうと言います。
その原因は、ブラックホールの重力があまりにも強いため、中心に向かって引き込むチカラが自由落下速度を遥かに超え、落ちて行く人の身体はスパゲッティのように細長く引き伸ばされてしまうと考えられています。
「Image Credit:Leo Rodriguez and Shanshan Rodriguez, CC BY-ND」
ブラックホールに吸い込まれた後は跡形も残らない
SF的な発想で言うと、ブラックホールに吸い込まれたら時空を超えて違う世界に出てしまう等と言う人もいますが、それもまた正しい考え方ではないでしょう。そもそもブラックホールの正体は、凄まじい重力の塊でとてつもない圧力がかかった超高密度の天体であると考えられています。
ではその密度とはどれくらいのモノなのか?わかりやすく例えてみると、地球をブラックホール化するとした場合、もちろんそのままでは地球をブラックホールにする事は出来ませんので、地球にとてつもない圧力をかけて圧縮し潰して行き、半径9mm程になった時点でようやく地球はブラックホールになります。
すなわち、半径6,371キロもある地球をギュッッー!と果てしなく圧縮して行き、半径9mmのビー玉程までのサイズにする事が出来たら、地球はブラックホールになってしまうという事になるのです。
つまり、もしブラックホールに吸い込まれてしまったなら、この凄まじい重力であらゆる物質は原子レベルまで潰されてしまい、跡形も無く消滅してしまう事になるのです。
ブラックホールは特別な天体ではない
想像を絶する凄まじい重力の塊であるブラックホール。普通に考えるとこの天体は特別なように思え、宇宙で稀な存在と思ってしまうかも知れませんし、実際、太陽系の近くにブラックホールがあるなどと聞いた事もありません。しかし、ブラックホールがどのようにして生まれるか?を知ってしまったら、その存在は稀ではなく宇宙に多くあるモノと考えた方が自然だと思えるでしょう。
何故なら、ブラックホールは太陽の30倍以上の質量を持つ恒星が寿命を終え、重力崩壊を起こしてしまった後に残る、言わば”恒星の成れの果て”の天体であり、その30倍以上の質量を持つ恒星は私たちが居る天の川銀河内だけでも相当数存在しており、またそのような重い恒星の寿命は短く数百万年~数億年で寿命が尽きてしまいます。
そのため、宇宙が誕生して約138億年の間には数え切れない程のブラックホールが生まれていると想定されており、天の川銀河内だけでも数億個のブラックホールが存在すると考えられているのです。
「Image Credit:YouTUBE」
また、上画像↑であるように、ブラックホールには恒星が寿命を終えた時に誕生する「恒星質量ブラックホール」と、正体は明確ではありませんがブラックホール同士が合体融合して巨大化した「中質量ブラックホール」「超大質量ブラックホール」が存在するとされ、天の川銀河の中心には太陽の400万倍を超える超大質量ブラックホール(いて座A*)が存在する事もわかっています。
「Image Credit:天の川銀河中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の実際の画像(Wikipediaより)」
ブラックホール存在の理論を実証したのはアインシュタインではない
「相対性理論」を発表し20世紀の天才と称される物理学者アルベルト・アインシュタイン博士がブラックホールの存在を提唱したとされています。ただ、彼が発表した「一般相対性理論」の中でブラックホールが存在する根拠は出されてはいるモノの、アインシュタイン自身はブラックホールが存在し得ないと否定しています。「Image Credit:iStock」
そんなアインシュタインに対し、ドイツの天体物理学者シュバルツシルト博士は、アインシュタインのブラックホールを重力方程式を編み出しから仮説を立て、天体をどれだけ圧縮するとブラックホールが出来るかを算出し、理論上ブラックホールが存在する可能性を示しています。
そのシュバルツシルト博士の理論を基に初めてブラックホール(候補)が観測されたのが1971年。それ以降、数百にも及ぶブラックホールが発見されています。
「Image Credit:初めてブラックホール候補として発見された「白鳥座X-1」の想像図(Wikipediaより)」
ブラックホールは”終わり”ではなく”始まり”の存在だった
最後に「誤解しやすいブラックホールの豆知識」としてご紹介するのが、ブラックホールはあらゆる物質を吸い込む「魔の天体」ではなく、星の誕生を促す「聖の天体」だったというお話です。全てのブラックホールではないですが、ブラックホールは凄まじい重力を持つ天体であるが故に、それを取り巻く磁場も強力で、その磁場が暴走し高エネルギーのジェットが噴射されている事がわかっています。
このジェットには、様々なガスや塵が含まれており、その中には新たに星を造り出す物質も多く存在していると考えられています。
つまり、ブラックホールは物質を吸い込む一方で、物質を吐き出し宇宙に巻き散らす役割も果たしており、その巻き散らされた物質の一部が私たち生命の源になっている可能性もあると考えられているのです。
以上、ブラックホールについての誤解を解く豆知識を5点ご紹介して来ましたが、宇宙には一般の人が誤解している事がまだまだあります。
このサイトではそんな宇宙の誤解について随時解説して行きますので、興味のある方、また私の解説が間違っていると指摘される方もコメントをお持ちしております。