以前紹介した地球に最も近いブラックホール情報ですが、詳しく観測した結果、どうもこの情報は間違いだったらしいと言うのです。
少し残念な気もしますが、そもそも宇宙の闇に隠れていて見つかりにくいブラックホールですので、間違いも仕方ない事なのかも知れません。
でもその正体は何だったのでしょうか?
そして、現時点で地球に一番近いブラックホールってどこにあるのでしょうか?
地球に最も近いブラックホールが発見された経緯
ぼうえんきょう座は南天の星座の1つのため、残念ながら日本からはほとんど見る事が出来ない星座ですが、そのぼうえんきょう座方向に、肉眼でも見ることができる5.3等級の明るさの天体「ぼうえんきょう座QV(HR 6819)」があります。「Image Credit:ESO/Digitized Sky Survey 2. Acknowledgement: Davide De Martin」
上画像中央の青く輝く星が「ぼうえんきょう座QV(HR 6819)」で、一見ひとつに見えるこの星ですが、実際は連星で太陽より重いB型星とBe型星の2つの恒星で形成されているとこれまでは考えられていました。
そんな連星をヨーロッパ南天天文台(ESO)らの研究チームが詳しく調べたところ、2つの恒星以外にもう一つ見えない謎の天体がある事がわかり、この天体の質量を見積もったところ太陽の4.2倍もある事が判明。
「Image Credit:ILLUSTRATION BY ESO/L. CALÇADA」
上画像の2つの青い軌道が目に見えるB型星とBe型の恒星ですが、もう一つの赤い軌道が太陽質量の4.2倍ある第3の目に見えない天体です。
研究チームによると、目に見える2つのB型恒星は太陽質量の5倍以上あり「B7型」という青白い星の恒星スペクトルを持っているのに対し、第3の天体はそういった恒星スペクトルが全く確認出来ないと言います。
この観測結果により研究チームは「太陽質量の4.2倍もある天体が恒星スペクトルを持たないのであればブラックホールに違いない。」と結論付け、恒星HR6819を2020年5月に地球に最も近い恒星質量ブラックホール候補として発表したのでした。
再検証で判明したブラックホール候補の正体
ブラックホールに違いないと結論付けたにせよ、あくまでもそれは候補としての話ですので、やはり確証を得るにはもっと詳しく検証する必要があり、今度はベルギーのルーヴェン・カトリック大学とヨーロッパ南天天文台(ESO)共同の研究グループが観測。その結果、「2020年に発見が報告された恒星質量ブラックホールらしき天体は存在しない。」との検証結果が発表される事となりました。それはいったい何故なのでしょうか?
再検証を行った研究グループによると、恒星系HR6819には目に見えない天体はなく2つの恒星が太陽〜地球間の3分の1ほどしか離れていなかったため、一方の恒星が伴星からガスを吸い取った直後のだったためだと考えるのが正しいのではという結論に至ったと言います。
その連星系の現象をCGアニメーションで再現したのがコレ↓。
このような現象は近接連星系では良く起こっており、これにより恒星が3つ存在するかのような錯覚を起こしていたのではないか?と考えられています。
本物の地球に一番近いブラックホール
残念ながら1,000光年先にブラックホールはなかったという結論になりましたが、それなら現時点で地球に一番近いブラックホールはどれくらい離れているのでしょうか?それは2021年4月21日、学術雑誌「王立天文学会月報」で発表された、一角獣(いっかくじゅう)座方向にある恒星質量ブラックホールで、一角獣座は北天の星座で日本では冬に南の夜空を見上げると見えるのですが、比較的暗い4等級の星で構成されていて目立たないため素人ではなかなか確認するのが難しい星座です。
そんな一角獣座方向に、地球から約1,500光年の距離に赤色巨星「V732Mon」と連星を成す恒星質量ブラックホールが潜んでいると考えられています。
「Image Credit:Lauren Fanfer」
このブラックホールの特徴は地球から一番近い事以外に、観測史上最も軽いブラックホールでもあります。
その質量は太陽質量の約3.04倍で、通常、恒星質量ブラックホールは太陽質量の5倍から数十倍と考えられており、実際、これまで5倍未満のブラックホールは発見されていませんでした。
今回、この発見で「ユニコーン」と愛称で呼ばれる事になったブラックホール。
発見される事になったのは、赤色巨星「V732Mon」が何かに引っ張られており、そのために歪んだり明るさが変化しているらしいことからデータ分析を行ったところ、太陽質量の3倍の天体が観測されたと言います。
とは言っても、まだユニコーンが恒星質量ブラックホールだと断定されたワケではなく、あくまでも候補として発表されたに過ぎません。
つまり、これからもっと詳しい観測が行われ、もしかしたら今後「HR6819」と同じように「ブラックホールではなかった」と訂正される可能性もあります。