2016年10月。アメリカ・ホワイトハウスが、太陽活動の異常について緊急の大統領発令を出していたことをご存じでしょうか?
それは、太陽が真っ二つに割れ始めているという何とも恐ろし気な内容だったのですが、実は太陽フレアや磁気嵐などによる異常活動を危惧したもので、今後において地球に甚大なる影響があり被害が出るかも知れないという緊急発令だったとの事でした。
ともかく幸いな事に、今現在においてそのような甚大な影響はありませんでしたが、米国政府が危機感を覚えるほどの太陽の異常事態とはいったいどのようなモノだったのか?気になります。
ここでは、当時起こっていたことを振り返り、太陽が異常となった状況を検証してみたいと思います。
太陽活動における大統領発令とは?
私たち日本人も何度かメディアを通して聞いた事がある「大統領令」。これは、アメリカの議会の立法手続きを経ずに、合衆国大統領が政府や軍に直接発する事が出来る行政命令の事です。
2016年10月、当時のオバマ大統領は、大統領が大統領令を発令するため、太陽活動の異変について署名しています。
その大統領令が出た太陽の異常活動とは、ここのところ不安定な活動をみせている太陽が、大規模な太陽フレアや磁気嵐を発生させる可能性があるという、アメリカは元より人類の文明に深刻な被害を及ぼす危険性があるとして警告をし、もしそれが起こった場合の被害を少しでも軽減するための発令を出した事です。
ちなみに、オバマ大統領が署名した大統領令は以下の内容だそうです。
この大統領発令により、アメリカ国民の命と財産を守ろうと太陽の異変に本気で取り組もうとした経緯があると言います。
こんなアメリカに対し、我が日本政府は国民に向け、正式にそのような太陽異変を知らせるような事はせず、ここに国家間の温度差を感じることも少し残念な気もします。
大統領発令が出るほどの太陽の異変とは?
実は、大統領令が出された2016年当時に限らず、近年、太陽活動に異変が生じていると言います。それは、太陽活動のバロメーター的現象でもある、黒点が異常に減ったり、
「Image Credit:黒点が減った太陽(The Daily Mailより)」
逆に、異常に巨大な黒点群が発生するコロナホールが観測されたりと、太陽表面で様々な動きが出ているようです。
「Image Credit:巨大な黒点群・コロナホール(NASA/SDOより)」
この巨大な黒点群が「太陽が真っ二つに割れ始めている。」と表現されたモノで、太陽の表面温度よりも低いため黒く見え、黒点が減少する太陽活動の低下、さらには黒点が増える太陽活動の異常な活発化により、異変が生じているとの考えもあり、これにより太陽表面で大規模な太陽フレアが発生し、地球の文明崩壊にも繋がるほどの強烈な磁気嵐に見舞われる可能性もあると示唆されると言います。
太陽フレアとは?
太陽フレアとは、一言でいうと太陽表面で発生する爆発の事です。爆発と言っても、それは太陽活動の中で必ず発生する現象で太陽が活発に活動している証拠でもあります。
しかし、その規模は想像を絶する大規模で、威力は水素爆弾の10万~1億個に匹敵するほどで、もし地球が太陽の近くにあったとしたらひとたまりもありません。
「参考動画:太陽フレアの映像」
この太陽フレアにより、太陽風というプラズマ化した高エネルギー荷電粒子が発生し地球にも到達。時には地球に被害を及ぼす場合もあります。
磁気嵐とは?
磁気嵐もまた、太陽フレアによってもたらされる現象の1つ。太陽風に乗った高エネルギーのプラズマが、地球の磁気圏に衝突し、磁場を乱す現象の事。
「Image Credit:磁気嵐のイメージ図(Wikipediaより)」
時に、この磁気嵐によって地上では美しい現象も観測出来ることがあります。
それがオーロラです。
「Image Credit:iStock」
太陽フレア・磁気嵐で起きる地球への影響とは?
太陽フレアによって発生する磁気嵐などで、地球が受ける被害の多くはインフラ被害によるもので、人工衛星などを含む通信設備、電子機器、電力供給への被害等様々で、これにより大停電を引き起こすこともあります。また、通信、電子機器に被害が起きた場合、航空機の運航や地上の交通にも被害が及び大事故を引き起こす可能性もあります。
このような太陽による”気象現象”で起きる被害は、大きく3つの種類に分類されます。
① デリンジャー現象
デリンジャー現象は、地球の大気の上層部にある電離層で起きる電波障害の事。この障害が起こるのは主に短波通信で、日中において数分~数時間程度の電波障害が発生し、数分程度なら年間、100回以上も起こる場合があると言います。
この障害もまた、太陽フレアが電離層を乱すことで、発生するモノと考えられています。
② 太陽高エネルギー粒子現象
太陽フレアによって発生した、プラズマ化した高エネルギー荷電粒子が地球の磁場を揺るがす磁気嵐。これによって、通信障害や電波障害を起こす原因とされています。
この障害の規模は、その影響度によってS1~S5までランク付けされており、
S1、S2クラスは、高緯度の極域で短時間、短波通信に影響が出る障害や、S3以上だと人工衛星の機能に影響を及ぼしてしまうほどの大きな障害もあり、S5クラスともなるとその影響度は甚大で、地球の衛星軌道上で活動する宇宙飛行士にも被ばくのリスクを生じさせる場合もあります。
③ 地磁気嵐
地磁気嵐は、最も被害が大きいとされ、人工衛星を含めた、地球上のインフラに多大な影響を与えてしまうとされています。地磁気嵐が起きているという警告は、あの美しいオーロラで、オーロラの規模が大きければ大きいほど、磁気嵐の規模も大きいとされています。
この地磁気嵐も、その影響度によりG1~G5までランク付けされていて、
- G1:送電網で小さな電圧の変動程度の障害。この磁気嵐は頻繁に起こっており、高緯度地域でオーロラを観測出来るときは、ほぼ間違いなくG1クラスの磁気嵐が発生しているものと考えてよいそうです。
- G2:高緯度地域の送電網障害等。高緯度地域における送電網障害で停電のリスクや、人口衛星に軽度の障害が起こる可能性。
さらには、緯度55度付近までオーロラが発生する可能性。 - G3:広い地域での送電網障害や通信障害等。比較的高緯度地域に限定されるが、送電網や通信障害が起こる可能性。
また、緯度50度付近までオーロラが発生する可能性。 - G4:人工衛星の機能障害等。人工衛星に深刻な被害や、船外活動中の宇宙飛行士に被ばくのリスク。
また、緯度45度付近までオーロラが発生する可能性。 - G5:世界レベルで送電障害による停電の恐れ、人工衛星が故障するほどの障害。G5レベルになると非常に深刻で、電子機器の障害や大停電が発生する可能性も!?さらには、北海道北部付近でもオーロラが観測されるほどの、磁場の乱れが起きることもあるようです。
このオーロラが観測出来るのは、G5レベルの磁気嵐が起こっていることもありますが、必ずしもそうではなく、太陽活動が極大期のときに稀に起きる現象とも言われています。
「Image Credit:北海道で観測された”低緯度オーロラ”(AstroArtsより)」
過去に起きた太陽活動異常
太陽活動が異変が見られたことで大統領令が出た理由には、過去に北米地域で発生した深刻な被害が原因との話もあります。それは、1989年3月に発生したカナダ・ケベック州大停電。
このときは、磁気嵐による影響で送電網に深刻な被害を受け、約600万世帯で大停電が発生。完全復旧まで数カ月もかかったと言います。
もし、このときのような被害がアメリカに起こった場合、経済にも大きな打撃を与え、さらには安全保障も含めた国家レベルの危機にも発展する可能性があるということで、ダメ-ジを少しでも軽減するために発令されたと思われます。