不可能と思われた探査ミッションを見事にやり遂げた日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」。
「はやぶさ」は2号機が新たなる小惑星探査ミッションに挑み、1号機と同じく小惑星のサンプルを地球に持ち帰るという非常に難しいミッション・サンプルリターンを成功させました。
しかし、JAXAの計画するサンプルリターンは「はやぶさ」だけではなく、今後はさらに困難なミッションも計画されています。
その困難なミッションとは何なのでしょうか?「はやぶさ計画」を振り返りながら調べてみたいと思います。
サンプルリターンミッションとは?
JAXA宇宙航空研究開発機構の「はやぶさ計画」は度重なる困難を乗り切り、感動的な成果を残したことで大きな話題となった事で映画化もされ多くの人が知る事となりました。そんな「はやぶさ計画」の概要については、この動画をご覧いただければ思い出すのではないでしょうか?
「はやぶさ計画」の目的は、小惑星の試料(サンプル)を採取し地球へ持ち帰る事(リターン)でした。
サンプルリターンの探査は技術的にも非常に難しく、これまでの成功例は、1969~1972年に行われた有人月面着陸の「アポロ計画」と旧ソ連の無人月面探査「ルナ計画」の月面でのサンプル採取でしたが、2001年にNASAが実施した太陽風のサンプルを採取した探査機ジェネシス。2004年にヴィルト第2彗星の核から噴出した粒子を採取したNASAのスターダスト等といった、これまで数多く行われた宇宙探査では合計10回ほどしかない非常に少ないミッションです。
そんなサンプルリターン探査が少ない理由は、単純にその技術の難しさにあり、サンプル採取を目標とする天体(現場)へ行き、無事に地球へ帰って来るといった探査は技術的に難しく、尚且つ限られた予算の中で行うには技術者たちの血のにじむような努力が必要になると聞きます。
サンプルリターンのメリットとデメリット
技術的に難しいため、通常の宇宙探査より失敗する可能性が格段と高いサンプルリターンミッション。このリスクは、この計画の大きなデメリットと言っても良いのですが、それでもなおサンプルリターンを実施する目的とは何なのでしょうか?
それは、片道切符の探査機で天体の調査をすることはあくまでも遠隔で探査をするワケであり、その調査結果も限界があり詳しい分析が難しい事にあります。
しかし、試料を地球に持ち帰ることが出来れば詳細な分析が出来ることはもちろんの事、持ち帰った試料は人類の宝にもなります。
実際、月面に降り立ったアポロ宇宙飛行士が持ち帰った「月の石」は、見た目こそ「ただの石」でしかないのですが、そこから得られる情報は非常に貴重で、「ただの石」も地球上ではとてつもない価値があるモノとなります。
「Image Credit:アポロ飛行士が持ち帰った月の石のサンプル(Wikipediaより」
非常に難しいミッションですが、メリットはそれ以上に大きいサンプルリターン。
しかし、サンプル採取をしてもそれが実際に分析したい試料とは限りません。
現に、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った試料は顕微鏡でしかわからないほど極微量の微粒子で、本来は、もっと多くの試料を採取する予定でしたがなかなか計画どおりには行かず、それでも採取した試料からは多くの情報を得られたとの事です。
ただ「はやぶさ1号機」のミッションは人類初の成功だった事もあり、それだけでも十分なほどの成果を得られたワケで、この成功で次に繋げることも出来、成功した技術とノウハウは次の2号機へと受け継がれています。
JAXAが次に行うサンプルリターンミッション「MMX計画」とは?
JAXAのサンプルリターン計画は「はやぶさ2号機」へと受け継がれミッションを遂行し成し遂げましたが、他にも2020年代の計画実行を目標とした「MMX計画」というモノがあります。「MMX計画」とは火星衛星探査計画(Martian Moons eXploration)の略称で、その名のとおり火星の衛星へ行きそのサンプルを採取して地球に持ち帰るという計画で、JAXAが単独で行うモノではなくフランス国立宇宙研究センター(CNES)と共同で実施する計画です。
「Image Credit:「MMX」計画の想像図 (JAXAより)」
火星には、フォボスとダイモスという2つの衛星があります。
これまでは、惑星の火星に比べ衛星のフォボスとダイモスはあまり注目されて来ませんでしたが、MMX計画ではこの2つの衛星をターゲットにし、その試料を採取して地球に持ち帰ろうというモノで、この採取した試料で火星や衛星の起源、そして火星圏の進化の過程を調べることで太陽系の惑星形成の謎を解く鍵を得ることが出来るのではないか?と期待されています。
火星の衛星・フォボスとダイモスとはどんな天体?
そもそも火星の衛星フォボスとダイモスとは、いったいどんな天体なのでしょうか?この情報については、ウィキペディアを参照していただいても良いですが簡単に概要をご説明します。
第1衛星「フォボス」
衛星フォボスは直径が約22キロで、火星に最も近い軌道を周る衛星。その距離は火星の地表から約6,000キロと衛星としては非常に近い低軌道を公転しています。
「Image Credit:衛星フォボス(Wikipediaより)」
フォボスの特徴は低軌道を周る以外に公転スピードも速く1日に2周火星を周っており、この異常とも言える公転軌道のため、やがてロッシュ限界に達し、3,000万~,000万年後には火星の表面に激突するか潮汐力でバラバラに破壊され火星のリング(環)になってしまう運命にあると考えられています。
第2衛星「ダイモス」
ダイモスは、火星から平均で約23,000キロの距離を約30時間ほどで公転しています。「Image Credit:衛星ダイモス(Wikipediaより)」
大きさはフォボスよりもだいぶ小さく直径は12キロほどで、フォボス・ダイモスともに小さな衛星ですが、これらの衛星の起源みは有力な説が2つ程あります。
① 元々は火星と木星の間の軌道上にある小惑星帯にあった天体で、何かの理由で火星の重力に捕らわれ衛星になったとの説。
② 火星に巨大な天体が衝突し、その破片がフォボスとダイモスの衛星になったとの説。
この2つの起源説については「MMX計画」でも迫る予定で、ミッションが成功した場合は決着が付くものと考えられます。
「MMX計画」のミッション概要
火星の衛星フォボスとダイモスをご紹介しましたが、「MMX計画」ではフォボス、ダイモスのどちらかの衛星に探査機を着陸させ試料を採取させる計画になっているようです。「Image Credit:毎日小学生新聞」
打ち上げ予定は2024年。
おそらく日本のロケットを使用して打ち上げられ火星に向けて旅立ち、火星軌道に到着したMMXの探査機はフォボス、ダイモスのどちらかに着陸し、2029年に試料を積んで地球に帰還する予定となっています。
「Image Credit:火星衛星探査計画(MMX)ウェブサイトより」
2020年代は火星がアツい!?
2020年代(特に後半以降)は火星がクローズアップされることになるかも知れません。MMX計画も2020年代に実施されますが、アメリカの宇宙ベンチャー企業・スペースX社も2029年前後に有人火星飛行を計画していると発表しています。
さらには、やはりアメリカ航空宇宙局(NASA)の動きも気になるところ。
NASAもまた、2020年代は本格的に火星有人探査計画を推進していく予定になっています。
そもそも、資金も経験も乏しい民間がNASAよりも先に火星に行くというのは、かなり疑問な点は残りますがその疑問は2020年代に入れば明らかになるハズです。
とにかく、宇宙開発において2020年代は大きなキーポイントになるハズ。
サンプルリターンも無人機が採取するのではなく、近い将来、直接人が行って採取する時代がやって来るかも知れません。