史上最高の開発費を投じ、約10年の歳月を費やし建造されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。
その打ち上げも伸びに伸び、ようやく2021年12月に打ち上げられ無事軌道投入に成功。観測のための様々な準備調整を行った後、翌2022年7月から運用を開始していますが、これまでの宇宙望遠鏡とは比べモノにならないくらいスゴイ高性能を持っていると言われるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠っていったい何がスゴイのでしょうか?
運用期間約10年の超高額で超高性能なジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠(以降JWSTで表記)は、アメリカ(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)が主体となった共同プロジェクトで開発された次世代型の高性能宇宙望遠鏡で、その開発費は、ハッブル宇宙望遠鏡の5倍以上にもなる、約100億ドルもかかっている超高額な観測機器です。「Image Credit:NASA」
何故、JWSTにこれほどの開発費がかかってしまったのか?その最大の理由は、宇宙誕生ビッグバンの約2億年後以降に輝き始めたとされるファーストスターを発見し観測することで、これまで人類が見た事のない深宇宙の姿を捉える事を目的として開発された事にあります。
また、ハッブル宇宙宇宙望遠鏡は地球上空約600キロに設置され地球を周回しながら観測を行っていますが、JWSTは地球から約150万キロも離れたL2ラグランジュ点に設置されています。
「Image Credit:NASA」
JWSTがこのような地球から遥かに離れた地点に設置された理由は、L2ラグランジュ点が地球と太陽、月の引力が均衡し軌道が安定している事と、地球からの余計な電波や光等のノイズが届きにくく、太陽光を遮断し極低温で冷却する事でJWSTの観測能力を最大限に発揮させるため、ある意味、地球からの物理的支援が行き届かない不便な場所に設置されているのです。
ちなみに地球からの物理的支援とは、もし運用中に故障してしまった場合、地球低軌道上に設置されているハッブル宇宙望遠鏡なら修理可能ですが(実際、これまで何度も宇宙飛行士がハッブルまで行き修理を行っています。)、150万キロも離れた場所にあるJWSTが故障してしまったらほぼ修理不可能。そんなトラブルを極力防ぐため、繊細でありつつも頑丈に造る必要があった事もあり、高額な開発費がかかってしまった背景もあるようです。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が奇妙な形状をしている理由
JWSTの画像を見ていただくと、多くの人が奇妙な形状に疑問を持つのではないでしょうか?!一般的に望遠鏡とは、ハッブル宇宙望遠鏡のように筒型の形状をしているのですが、JWSTの場合そのような筒はどこにもなく、主鏡と副鏡がむき出しの状態になっています。
「Image Credit:左側からハッブル宇宙望遠鏡、ケプラー宇宙望遠鏡、JWST(Wikipediaより)」
その理由は軽量化を図るためもあるのですが、テニスコート程の大きさのある巨大なJWSTをロケットのペイロードに効率良く載せるためと、何より広い視界と高い解像度を実現する事が大きな理由であり、ハッブル宇宙望遠鏡のような筒の役割をしているのが、主鏡と副鏡の下にある船型のようにも見える何層にも重なっているサンシールドが太陽光を遮断し、主鏡と副鏡を観測しやすい低温を維持できるような設計になっています。
「Image Credit:NASA」
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は何がスゴイのか?
JWSTがこれまでの宇宙望遠鏡と違う事は、より遠くの天体を観測出来る事に加え、その解像度の素晴らしさにあります。「Image Credit:NASA,ESA,CSA,STScI,J.DePasquale,A.Koekemoer,A.Pagan (STScI),ESA/Hubble and the Hubble Heritage Team)」
上画像↑↑は、地球から「へび座」方向約6,500光年の距離にある「わし星雲」の中心部にある「創造の柱」を撮影したモノですが、左側がハッブル宇宙望遠鏡で右側がJWSTで撮影したモノで、その解像度の鮮明さはとてもJWSTに叶うモノではない事がわかるかと思います。
また最近では、宇宙誕生(ビッグバン)からわずか5億7,000万年後に誕生したと見られるブラックホールの発見や、太陽系外惑星の大気中に水蒸気が存在する事を発見。その他にも様々な新しい発見をJWSTがもたらしてくれており、この次世代型宇宙望遠鏡は期待以上の活躍をみせてくれています。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のスゴイさを動画で解説
ここまで解説して来たJWSTの構造や性能のスゴさについては、以下の動画(日本科学情報)を参考にさせていただいています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が目指す目標
JWSTは今後故障などのトラブルがなければ、搭載している燃料が尽きるまでの約10年間の運用が予定されており、この運用期間中に高解像度の主鏡や副鏡、センサーを駆使して以下の宇宙の謎解明に挑もうとしています。- ビッグバン後の極初期の宇宙の姿を捉える
宇宙誕生のビッグバンから、どのようにして星や銀河が形成されていったのか?また、膨張する宇宙の最遠部から届く赤外線を測定する事。
「Image Credit:Wikipedia」 - 恒星系や惑星誕生の謎を解明し生命誕生の起源に迫る
恒星や惑星が誕生しようとしているガス雲内部を観測する事は困難で、なかなかその解明が進んでいないのが現状です。そこでJWSTの高性能センサー等を駆使し赤外線等でガス雲の中で何が起きているのか?を調査し、更には近年多数見つかっている太陽系外惑星の大気組成から、生命の起源やその存在の有無に迫っていきます。
ファーストスターは、宇宙誕生初期の段階で、濃密な物質が高密度で揺らいでいる中で、主に水素分子の放射冷却により重力収縮して形成された巨大な天体と考えられており、炭素より重い重元素を全く含まない星ではないかと推測されています。
「Image Credit:ILLUSTRATION BY N.R.FULLER, NATIONAL SCIENCE FOUNDATION」
現時点では理論上の天体であるファーストスターですが、この天体が実在しその姿を捉える事が出来れば、もちろん歴史的な快挙となる事は間違いないでしょう。
人類にとって宇宙はまだ謎だらけで、理解しているのはほんの一部だけです。
その見識を広げていくのがJWSTが目指す目標であり、運用期間中どれだけ活躍するのか?非常に楽しみなところで、今後もJWSTによる新しい発見があれば、このサイトでもどんどんお伝えして行こうと思います。