人間の造った、いわゆる”人工物”で最も遠くまで到達していると有名なのが、NASAが打ち上げた惑星探査機ボイジャー1号と2号ですが、この2機の探査機は太陽圏を離脱後も凄い速度でどんどん地球から離れて行っています。
となると気になって来るのが、現在のボイジャー号はどの地点に居て、これかからどこに向かって旅を続けて行くのか?という事ではないでしょうか。
ここでは、現時点(2024年2月)において、2機のボイジャー号の行方を追ってみたいと思います。
惑星グランドツアーの好機で実施されたボイジャー計画
今から約半世紀前の1977年。画期的な外惑星探査計画が行われました。それは、1983年に地球から4つの外惑星(木星・土星・天王星・海王星)の配置がほぼ同じ方向に並ぶという現象が起き、このタイミングに合わせて探査機を打ち上げれば、一度に4つの外惑星を探査出来るという「惑星グランドツアー」と呼ばれる好機が訪れ、しかも2機の探査機に分ければ13年以上かかる探査期間も7年半に短縮できるとあり、そうして計画されたのが「ボイジャー計画」でボイジャー1号と2号の2機が打ち上げられたのでした。
「Image Credit:ボイジャー1号2号の軌道(Wikipediaより)」
ちなみにボイジャー1号、2号は同型機で重量は721.9kg。動力源は出力420Wの原子力電池(2号は1号より容量が大きめ)が使用されており、8.1 MHzのCPUに69.63kBのメモリの当時としては最高水準のコンピュータが搭載されていました。
「Image Credit:同型機のボイジャー1号(左)ボイジャー2号(右)(Wikipediaより)」
ボイジャー1号惑星探査の軌跡
ボイジャー1号は1977年9月5日、アメリカフロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられ、わずか1年6カ月という短期間(1979年3月5日)で木星に最接近(木星から約34万キロ)し、木星のガリレオ衛星のひとつ衛星イオに活発な火山活動がある事を発見しています。「Image Credit:活発な火山活動をする衛星・イオ(左)と木星の大赤斑(右)(Wikipediaより)」
木星の探査を終えたボイジャー1号は土星に進路を取り、1980年11月12日に土星に最接近(土星から12万4,000キロ)。この探査では土星の象徴である複雑な環(リング)の構造を調べ、衛星タイタン等いくつかの衛星の撮影と探査を行っています。
「Image Credit:土星とそのリング(左)と土星の衛星・タイタン(Wikipediaより)」
木星と土星の探査を終えたボイジャー1号は、残りの任務を2号に託し惑星科学ミッションは終了。星間ミッションに移行します。
ボイジャー2号惑星探査の軌跡
ボイジャー1号以上に数多くの惑星探査ミッションを行ったのがこのボイジャー2号。1号にトラブルが起きたため2号の方が早くミッションをスタート。1977年8月20日にケープカナベラル空軍基地から打ち上げられています。ボイジャー1号より約2週間早く打ち上げられた2号が木星に最接近したのは、1号より約4カ月遅い1979年7月9日。特徴的な木星の大赤斑等の調査や新たな衛星の発見等に成功しています。
その後、1号と同様に土星に進路を取ったボイジャー2号。1981年8月25日に土星に最接近し、土星の環の他に大気の観測等を行っています。
そしてここからが史上初のミッションへと突入するボイジャー2号。天王星へと進路を取り、1986年1月24日に天王星に到着。たった24時間ほどの天王星滞在でしたが、この惑星の傾いた自転軸(97%の傾き)の調査や磁場の発見、土星よりも遥かに希薄ですが天王星にも環(リング)が存在している事を確認。さらには新たな衛星を10個も発見しています。
「Image Credit:ボイジャー2号が撮影した昼側の天王星(左)と夜側の天王星(右)の大気(NASA/JPLより)」
ボイジャー2号が海王星に最接近したのは1989年8月25日。地球を出発しから約12年という短期間で、約45億キロ離れた太陽系最遠の惑星まで到達するという快挙を成し遂げています。
「Image Credit:ボイジャー2号が撮影した海王星(NASA/JPLより)」
海王星での探査は海王星表面の調査と衛星トリトンへの近接フライバイ。なお、海王星にもまた希薄な環(リング)が存在している事を確認し、ボイジャー2号も惑星探査を終え星間ミッションに移行します。
気になる2機のボイジャー号の現在地
星間ミッションに突入した2機のボイジャー号は、その後どこの天体にも立ち寄る事なく、ひたすら太陽系の外へ向けて旅を続けています。そして驚くべきなのは、2機とも未だに稼働しており地球との交信を続けている事。これにより現在、ボイジャー号たちがどこにいるのかがほぼ正確にわかっています。
まずボイジャー1号は2012年8月25日に太陽圏を離脱した事が判明。さらにボイジャー1号に遅れる事6年。2号もまた2018年11月5日に太陽圏を離脱成功し、現在ともに星間空間を航行中である事が確認されています。
「Image Credit:Wikipedia」
その後も順調に飛行を続けているボイジャー1号と2号。
1号は2023年末現在で地球から約245億キロ。2号は2023年末現在で地球から約202億キロの位置を航行中であるとされています。
未だに地球と通信している2機のボイジャー号。しかし・・・
ボイジャー1号は240億キロ以上離れた場所から地球と交信しており、通信にかかる時間は片道約24時間で2号は片道約20時間かかっており、往復の通信にかかる時間は約2日という、2機が果てしなく遠い場所にいる事がわかります。「Image Credit:NASA/JPL-Caltech」
上の写真はボイジャー1号が1990年2月14日に、太陽から約60億キロ離れた地点で地球を撮影したモノで、写真中央右に小さな点で写っているのが地球で、最も遠い場所から地球を捉えたとして「ペイル・ブルー・ドット(淡く、青い、点)」と呼ばれる貴重な写真です。
しかし、遠い星間空間を航行している2機のボイジャー号も燃料切れ間近で、搭載のコンピュータや通信出力に不具合が相次いでおり、地球と通信出来るのもあと数カ月~数年程度と言われています。
太陽圏を離脱しても太陽系離脱は遥か先の話
2機のボイジャー号が太陽圏を離脱し、星間空間に突入していると聞くと、勘違いを招いてしまうかも知れませんが、実は太陽圏離脱=太陽系離脱ではないのです。太陽圏とは太陽が放出する太陽風と呼ばれるプラズマ粒子が届く範囲内の事であって、太陽風の末端衝撃面を「ヘリオシース」と呼び、また太陽風と太陽系の外からやって来る星間物質との磁場の境界面を「ヘリオポーズ」と呼んでおり、2機のボイジャー号はこのヘリオシースとヘリオポーズを抜けた事が検出された事で、太陽圏を離脱したと判断されているのです。
とは言っても、2機のボイジャー号が未知の領域を航行している事は間違いないワケで、しかもその状況を地球に伝えているという事はとてつもない偉業でしかないでしょう。
ところで、まだボイジャー号が太陽系の中にいるという事は、いったいいつ太陽系を離脱出来るのでしょうか?
「Image Credit:Vito Technology,Inc.」
実は太陽系全体でいうと、ボイジャーが航行している領域はまだまだ”太陽系の内側”であり、その先には塵や氷等が集まり、彗星の巣ともされる理論上の領域「オールトの雲」が広範囲に広がっていると考えられています。
そんなオールトの雲にボイジャー号が到達するまで、およそ300年はかかると推測されており、オールトの雲を抜け、完全に太陽系を離脱するにはさらに3万年はかかると考えられています。
太陽系を離脱した2機のボイジャー号の最終目的地
あと数年程で燃料が切れると見られる2機のボイジャー号。そのためこの2機が太陽系を離脱出来るところまで追う事は出来ませんが、それでも果てしない旅を続け、いつかは最終目的地である星へ到達するでしょう。そんな2機のボイジャー号の最終目的地はどこなのか?
ボイジャー1号は、地球から約17光年離れたキリン座の「グリーゼ445」に向かっており、ここに到達するまでには約40万年はかかる見込みだと言います。
さらにボイジャー2号は、地球から約8.6光年離れたおおいぬ座のシリウスが目的地で、シリウス到達まで約29万年かかると考えられています。
「Image Credit:Yahoo!JAPAN きっず図鑑」
しかし、ボイジャー号が向かっているのはグリーゼ445やシリウスの方角という事だけであって、実際は永遠に天の川銀河を彷徨う運命にあるのが本当のようです。
ボイジャー号は最遠の人工物ではなかった!?
史上最も遠くまで行った人工物と言われている2機のボイジャー号ですが、それは現在も稼働し地球と交信出来ている”人工物”であって、実はボイジャー計画より5年早く打ち上げられ外惑星探査を行った2機の探査機が存在しており、それが1972年に打ち上げられたパイオニア10号と11号です。「Image Credit:パイオニア10号(Wikipediaより)」
残念ながらパイオニア10号と11号は通信が既に途絶えており、もしこの2機が稼働していたとしたら、おそらくはボイジャー号よりさらに遠い深宇宙を航行中している”人工物”ではないでしょうか。