2020年代は人類の宇宙開発が大きく躍進する10年になる予感がします。
その予感の理由と言えるのが、NASAが再び人類を月面に送ろうとしている「アルテミス計画」ではないでしょうか?
今回ご紹介するのはアルテミス計画とはどういうものなのか?を、NASAが全貌を明らかにし動画で公開しています。
有人月面着陸のアポロ計画から50年以上。新たな計画ではいかにして月面を目指すのでしょうか?
そんな計画の内容がわかりやすく解説されていますが、このアルテミス計画は、ただ月面着陸を目指すだけではないようです。
50年前の月面着陸「アポロ計画」は何のために行われたのか?
時を遡る事、半世紀上前の1961年。世界初の人工衛星打ち上げと、有人宇宙飛行を成功させた旧ソ連(現ロシア)に先起こされたアメリカが取った行動。それは当時のアメリカ大統領だったジョン・F・ケネディが全世界に向けて行った、衝撃的で無謀な計画発表から人類が月面を目指す挑戦が始まります。「Image Credit:1961年5月25日ケネディ大統領演説の様子(Wikipediaより)」
ケネディ大統領が宣言したアメリカ人をロシア人より先に月面に送り込む計画「アポロ計画」は、初の人工衛星打ち上げからわずか10年で実現した有人月面着陸で、アメリカは1968年~1972年にかけて9機のロケットを月に向けて打ち上げ、合計25名のアメリカ人が月に行き、内12人の男性宇宙飛行士が月面に立つ事に成功しています。
「Image Credit:月面にアメリカ国旗を立てるアポロ17号の宇宙飛行士(NASAより)」
当時のアメリカは、世界の2大大国として旧ソ連と争い冷戦状態にあり、そのため、宇宙開発で一歩先を行くソ連に追い付き追い越そうと国家の威を懸けて急ピッチで月面着陸計画を進めた結果、現在の貨幣価値で1,500億ドル(日本円で約16兆円)近くという巨額の費用が投じられました。
しかし、表現方法としては適切ではないかも知れませんが、これだけの巨額を投じた目的の多くは月という天体が大国の領有権争いに使われたという事にあり、このミッションでは大きな宇宙科学の進歩や月面開発には至らなかったという結果になってしまいました。
アポロ計画から50年後の月面着陸計画の全貌と目的
50年以上前にアメリカのNASAが実施したアポロ計画に続く新たな月面探査ミッションは「アルテミス計画」です。前回のアポロ計画の”アポロ”はギリシャ神話の太陽神・アポロンから名付けられており、今度の”アルテミス”は同じギリシャ神話アポロンの双子の妹である月の女神・アルテミスから来ており、この名前の由来からも推測出来るように、アルテミス計画はアポロ計画の後継ミッションと呼べるもので有人月面探査を目指していますが、また、ミッションの名前が女性神・アルテミスになった理由は他にもあり、前回のアポロ計画で月に行ったのは全員男性でしたが今回は女性も参加した月面着陸が実現すると言います。
そんな「アルテミス計画」の内容を動画でわかりやすく解説したのがこちら↓↓で、前回のアポロ計画と比較した内容にもなっています。
アルテミス計画では2024年までに再び有人月面着陸を成功させる事に始まり、4年後の2028年までには月面基地の建設に着手する事。そしてこの計画にはNASAだけでなく日本を含む各国も計画に参加し、さらには本格的に宇宙開発に参入して来た民間企業も加わる事でビジネス面でも大きな役割を果たす事になるそうです。
ちなみに、この宇宙開発にとって一大事業となる計画にはアメリカ一国だけではとても費用を賄えなえず、試算によると年間予算が60~80億ドルともなるため各国の協力は不可欠で、これにより計画に参加する我が日本からも初の日本人月面着陸者が出る可能性は十分にあります。
アルテミス計画実施のために開発された最新の宇宙船や宇宙服
アルテミス計画では新型のロケットや宇宙船、宇宙服等が次々に開発され一般にも公開されています。まず、打ち上げに使われるロケットはスペース・ローンチ・システム(略称:SLS)と呼ばれる大型ロケット。
このロケットの特徴は打ち上げ目的によって派生した利用が出来る事にあり、地球低軌道打ち上げ用から多目的有人機、物資輸送型等全部で4つのシステムに分ける事でコスト削減も出来る仕様となっているそうです。
「Image Credit:スペース・ローンチ・システム(SLS)(Wikipediaより)」
次が新型宇宙船・オリオン。
現在NASAが開発を行っているオリオン宇宙船は、有人で低軌道を航行するスペースシャトルの代替機としても利用可能ですが、地球と月の往復、さらには火星、小惑星への飛行を主眼に置いた多目的有人宇宙船として開発されています。
「Image Credit:オリオン宇宙船想像図(Wikipediaより)」
オリオンの大きさはアポロ宇宙船のおよそ1.5倍あり、船内の容量は3倍で最大6名のクルーが搭乗出来る構造となっており、宇宙船はコスト面も考えられて設計されており再利用可能となっています。
そしてもう一つがクルーが着用する新たな宇宙服ですが、これは2つのタイプが開発されており既に一般にも公開されています。
「Image Credit:NASA/Joel Kowsky」
上画像↑右側のオレンジタイプが船内で着用する与圧服で「Orion suit(オリオンスーツ)」で、気密性が重視されており主に船内活動で危険のリスクが高い場面で着用し、画像左側は船外活動(EMU)で使用する宇宙服「xEMU(Exploration Extravehicular Mobility Unit)」。船外服は”小さな宇宙船”とも呼ばれるモノで気密性はもちろんの事、船外活動で動きやすくて着脱が簡単。そして最も重要な真空の宇宙で人間を守るための機能が優れており、スペースデブリや隕石がぶつかった場合においても穴が開きにくく、最長で6日間も乗員の生命が維持できるよう設計されています。
アルテミス計画が目指すのは月だけではない
ビジネス面での目的もアルテミス計画にはあると簡単に前述しましたが、具体的には宇宙飛行士や物資の輸送を民間が担ったり、通信衛星、衛星データサービス網等を広げるために地球と月間の航路が利用される事も発表されています。また、解説動画にもありましたがアルテミス計画に平行して行われるのが、月軌道上を周回する宇宙スターション「月軌道プラットフォームゲートウェイ」です。
「Image Credit:月軌道プラットフォームゲートウェイの想像図(NASA)」
このゲートウェイは月面との中継に使われる他、現在老朽化が進んでいる国際宇宙ステーションの後継として宇宙空間における様々な実験を行う施設としても利用され、さらには中継基地としその先の天体・火星を目指すためにも利用される予定だと言い、そのためアルテミス計画では有人火星探査ミッションの予行演習を月を利用して行う目的もあるそうです。
新たなライバルは中国か?
かつての宇宙開発において、大国アメリカのライバルだったのは旧ソ連(現ロシア)でしたが、現在では中国が台頭しアメリカを凌駕するほど勢いで開発を進めています。また、民間や国際協力のもとで宇宙開発を進めているアメリカとは異なり、中国はほぼ単独で開発を進めているのも特徴で、宇宙ステーション「天宮」をはじめ月面有人着陸も目指しており、最近では世界最大級の輸送力を持つ重量物運搬ロケット「長征5号」の打ち上げに成功しています。
「Image Credit:長征5号の打ち上げ風景(STR/AFP)」
中国の宇宙開発は野心的で、さらなる宇宙ステーションの軌道投入と月面着陸、火星探査等、いずれも単独で行うとしていますが、莫大な費用のかかる宇宙開発をどこまで単独で進める事が出来るのか?これからの動向に注目です。