おそらくではありますが、人類はそう遠くない将来に地球を飛び出し他の天体に移住を始める可能性があります。
その移住先となる有力候補が月や火星ではないか?とされているのですが、移住をするにあたり大きな問題が立ちはだかります。それが重力の問題であり、人間を含め地球上のすべての生物が恒常的に生活する場合、地球の1Gという重力下でしか生きる事しか出来ないため低重力の月や火星に住む事はかなり困難だと言えます。

そんな重力問題を解決するため専門家たちが画期的な方法を考え出した事は、メディアでも大きく紹介されましたのでご存じの方も多いと思いますが、いまいちその方法について理解できない部分もあると思いますので、ここではわかりやすく嚙み砕いて解説してみたいと思います。

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宇宙での生活を妨害する大きな問題点

人類が宇宙開発に着手し始めてから半世紀以上、21世紀となった今、それは加速し宇宙時代が本格的に始まろうとしています。
とは言っても、私たち一般人にとって宇宙はまだまだ遠い世界である事は事実。その理由は宇宙へ行く事がまだ安全ではなく快適に過ごせる場所ではない事にあり、特に1Gという地球の重力下で生活する私たちにとって、宇宙の無重力または低重力下という環境は短期間の滞在には問題が無くても、生活するという意味では大きな弊害となってしまいます。

「Image Credit:iStock」
何故なら、人間が重力が弱い環境で長期間滞在した場合、骨や筋力の低下のみならず身体に様々な悪影響が出てしまい、ましてや宇宙で生活するとなった場合、子孫を残すことすらままならない状態になってしまう可能性も示唆されています。
つまり、1Gという地球の重力下に適合し進化をして来た人類にとって、宇宙での生活においても1Gは絶対に維持しなくてはならないのですが、残念ながら現在の技術では重力を人工的に造り出す事が出来ません。

遠心力で人工重力を造り出す構想

私たちが今生活出来ている1Gという重力は、地球の自重による引力と自転による遠心力の合力で発生しているのですが、人工的に1Gの重力を造るためにとてもこのような事が出来るハズがありません。

「Image Credit:国土交通省 国土地理院」
人工的に地球のような天体が造り出す引力は出来ないにしても遠心力だけなら何とかなるかも?、という発想から考え出されたのが建造物を回転させて発生する遠心力を利用して人工重力を造り出す事でした。

無重力の宇宙空間に浮かぶ人工の島「スペースコロニー」

1960年代後半に考え出された「スペースコロニー」は、無重力の宇宙空間に浮かぶ巨大な人工島です。

「Image Credit:スペースコロニーの想像図(Wikipediaより)」
このスペースコロニーはSF映画やアニメでも登場していますのでお馴染みかと思いますが、上画像↑↑のような円筒形もしくはトーラス型(ドーナツ型)の建造物を回転させる事で発生する遠心力を利用する方法です。
回転での遠心力は建造物の内壁では重力として利用できるため、その内壁に土地を造り家を建て人々が暮らす事が出来るようになるという発想です。
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低重力の月面で1Gを再現する「ルナグラス」

2022年7月。京都大学と鹿島建設は共同で研究した2つの人工重力施設構想を発表しています。
その1つが月面での生活基盤となる人工重力居住施設「ルナグラス」構想です。


「Copyright ©:ENVHAZARDS_KYOTO_U All rights reserved.」
動画を参照していただければわかるように「ルナグラス」は月面に垂直に建つ花瓶のような形状をしており、この直径100m、高さ400mの”花瓶”を20秒間で1周する回転の遠心力を利用し1Gという重力を造り出しています。
しかし、この「ルナグラス」を見てある疑問点が湧きます。それは月面は地球の1/6Gという重力があるハズ。なのに建造物を縦に建ててしまうといくら低重力とは言え落っこちてしまうんじゃ?という心配です。

この疑問について調べたところ、地球の重力と同じように「合力」という答えが出て来ました。

「Image Credit:回転するルナグラス®の人工重力概念図(TECTURE MAGより)」
上画像を見ていただくように、月面では上に上がれば上がる程重力が弱くなるため「ルナグラス」の形状が花瓶型をしている理由はそこにあり、月面の重力が1/6Gであるのに対し、回転の遠心力を5/6Gにする事の合力で地球上と同じ1Gになる計算になると言います。

火星低重力の人工重力施設はワイングラス型の「マーズグラス」

月面の「ルナグラス」と同じ考え方で構想されているのが火星で1Gを再現する「マーズグラス」です。


「Copyright ©:ENVHAZARDS_KYOTO_U All rights reserved.」
火星の重力は地球の1/3程しかありません。そのため「ルナグラス」が月面の1/6Gに合わせた花瓶型になっているのと異なり、火星の人工重力施設はワイングラス型にし、火星の重力1/3Gであるの対し、回転の遠心力を2/3Gにする事の合力で地球の1Gを再現しています。

ちなみに「ルナグラス」と「マーズグラス」に使われる建築資材は現在開発途中にあるカーボンナノチューブの使用が検討されているとの事ですが、この施設はまだ構想段階であるためまだ多くの課題も残っているため実現するかどうかもまだわかってはいませんが、いずれにせよ今後人類が宇宙に生活の場を移す構想には大きな意味を持つ事は間違いない画期的な構想と思われます。

人類は何故宇宙で生活する必要があるのか?

「簡単に人工的に重力が造れないなら、ずっと地球で暮らせばいいじゃない!?」と考えるのは当然な事です。
しかし将来的に考えたら、いずれ人類は宇宙に生活の場を移して行かざるを得ない時代がやって来る可能性が大いにあり、その最も大きな理由は爆発的に増加した地球の人口にあり、今や人類の人口は80億人を越えようとしています(2022年現在)。このまま更に人口増加が進むと地球が悲鳴を上げてしま可能性があり、と言うか環境破壊が進む地球ではもう既に人口を支えきれない状態になって来ているのかも知れないのです。
となると、地球環境を守るためにも人類の人口を分散させる必要があり、将来的に一部の人類は宇宙で生活しなければならない状況になって来る事が懸念されるのです。
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