時々、ニュースや動画等で目にするロケット打ち上げの様子。最新の技術と莫大な費用をかけて造られたロケットが、爆音と派手な燃料噴射で天高く昇って行く光景は圧巻そのものです。
しかし、そのロケット打ち上げも失敗も少なくなく、ロケット開発開始から半世紀以上経った今もロケットの開発・打ち上げは難しいとされています。
では何故、それほどロケットを打ち上げる事は難しいのでしょうか?
そこには技術的要因以外にも、天体としての地球の事、そしてさらには今後進出して行く可能性のある他の天体の事も良く知る必要があるのかも知れません。
ロケット打ち上げに絶対必要な脱出速度
先日、日本の新しい基幹ロケットとして開発されたH3ロケットの打ち上げに成功し、大きなニュースになった事は記憶に新しい出来事だったのではないでしょうか?「Image Credit:2024年2月17日種子島宇宙センターから打ち上げられるH3ロケット(JAXAより)」
しかし、この時に打ち上げに成功したのは2号機で、前年に打ち上げられた初号機は2段目のエンジンに着火出来なかったため、十分な加速を得る事が出来ずに失敗に終わっています。
「十分な加速を得る事が出来ない」つまり、H3ロケット初号機は、地球の引力を振り切る宇宙速度(脱出速度)に到達する事が出来なかったため打ち上げ失敗に終わったワケです。
ちなみに、この時初号機に必要な宇宙速度は「第一宇宙速度」でした。
第一宇宙速度
第一宇宙速度とは、打ち上げたロケットが地球を周回する軌道に乗るために最低限必要な速度の事を指し、この時の速度は秒速7.9キロ(時速28,440キロ)以上で、遠心力と重力が釣り合った自由落下状態に入る事で地球周回軌道となり、地球低軌道上の人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)等もこの第一宇宙速度で地球を約90分で周回しています。「Image Credit:国際宇宙ステーション(ISS)(Wikipediaより)」
となると、第一宇宙速度があるなら、第二、第三宇宙速度も存在します。以下、第二、第三宇宙速度を解説いたします。
第二宇宙速度
第二宇宙速度とは、地球の重力を振り切り宇宙へ飛び出すために必要な速度の事を指し、この時の速度は秒速11.2キロ(時速40,320キロ)以上で、宇宙船や無人探査機が月や火星等に航行するために最低限必要な速度で、アポロ計画や人類が再度月面を目指すアルテミス計画で使用するオリオン宇宙船も第二宇宙速度で月へ向かいます。「Image Credit:オリオン宇宙船想像図(NASA Mars Exploration)」
第三宇宙速度
第三宇宙速度とは、太陽の重力を振り切るために必要な速度を指し、、この時の速度は秒速16.7キロ(時速60,100キロ)以上、すなわち、太陽系外へ航行するためには最低この速度は必要なのですが、現時点においてロケットや宇宙船の推進力のみでこの速度を超えた事はないのですが、現在、太陽系の外に向かっているボイジャー号は秒速17キロ(時速61,000キロ)の速度に到達していますが、ここまでの速度は木星や土星等の天体の重力を利用したスイングバイ航法によるほとんど燃料を使わずに加速に成功しています。「Image Credit:同型機のボイジャー1号・2号(Wikipediaより)」
何故ロケット打ち上げは難しいのか?
ロケットを宇宙に向けて打ち上げるには最低限は第一宇宙速度に到達させないと行けません。そのためにはロケットエンジンの出力は強力なモノではなくてはならず、このエンジンの開発には精密な技術と莫大な費用、燃料がかかってしまいます。また打ち上げには、地球の引力や遠心力も大きな影響があるため、赤道に近いより遠心力の強い場所(地域)の方が打ち上げやすいため、日本では赤道に近く、輸送コストも抑えられる種子島が最適地とされ、アメリカでは南方のフロリダにあるケネディ宇宙センターで打ち上げられる事が多いようです。また、南方よりは打ち上げは難しいですが、ロシアでは緯度的には北海道辺りに位置するバイコヌール宇宙基地でも打ち上げが行われています。
地球以外の天体での脱出速度
天体の重力を振り切って宇宙に飛び出す脱出速度は、地球の場合は第二宇宙速度の秒速11.2キロ(時速40,320キロ)以上になりますが、他の天体の場合はどうなるのでしょうか?わかりやすく解説したアニメ動画がありましたので参考にしてみて下さい。なお、これは天体の表面から大気の抵抗は考慮せずにシュミレーションしています。
天体名 | 脱出速度(km/sec) | 0~50kmまでの到達時間(sec) |
---|---|---|
太陽 | 618 | 0.1 |
水星 | 4.3 | 11.7 |
金星 | 10.4 | 4.8 |
地球 | 11.2 | 4.5 |
月 | 2.4 | 21.0 |
火星 | 5.0 | 10.0 |
ケレス(準惑星) | 0.5 | 103.2 |
木星 | 59.5 | 0.8 |
土星 | 35.5 | 1.4 |
天王星 | 21.3 | 2.4 |
海王星 | 23.5 | 2.1 |
冥王星(準惑星) | 1.3 | 38.8 |
人類史上唯一地球以外の天体で行われた打ち上げ(月面)
地球以外の天体からの脱出速度をご紹介しましたが、地球でのロケット打ち上げ以外で実際に行われた天体からの打ち上げ映像が残っています。それは、1972年12月に打ち上げられたアポロ計画最後のアポロ17号での映像で、月面調査を終えた宇宙飛行士たちが搭乗した月着陸船チャレンジャーが、実際に月面から離脱する時の映像です。
この貴重な映像を見る限り、月着陸船チャレンジャーは少ない推進力で月面を離脱し、第一宇宙速度の秒速1.68キロで上昇し、月軌道上で待機している司令船とランデブー、ドッキングしたモノと思われます。