ここしばらくの間、夜空に長く大きな尾を引く大彗星が出現していませんが、2019年12月28日に発見された彗星がもしかしたらとんでもない大彗星になるかもとの情報があり、専門家のみならず天文ファンの間でも話題になっているようです。
しかもその彗星、期待通りに光度を増せば2020年5月頃には最大光度に達し、地球からは満月よりも明るく見える可能性があると言われています。

もしそうなれば間違いなく今世紀最大クラスの天文ショーになる事は間違いないワケで、個人的にはかなり期待しているのですが・・・

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太陽に接近中のATLAS彗星(仮)

この記事を書いている2020年3月中旬。メディアはおろか、ネットでもほとんど話題になっていない彗星C/2019Y4 (ATLAS)。
実はこの彗星は発見されたばかりの長周期彗星で公転周期が200年以上、もしくは太陽に1度しか接近しない彗星の事をそのように呼んでいます。
ちなみに今回発見された彗星C/2019Y4 (ATLAS)の公転周期は6,124年もあり、太陽系外縁の遥か彼方からやって来る彗星です。
また、200年以下の公転周期を持つ彗星は短周期彗星と呼び、あの有名なハレー彗星は公転周期が約76年ですので短周期彗星に分類されています。

「Image Credit:1986年に訪れたハレー彗星(Wikipediaより)」
なお、この彗星を発見したのはハワイの小惑星地球衝突最終警報システム(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System:通称ATLAS(アトラス))で、まだ正式な呼び名は決まっていないため、ネット上でATLAS(アトラス)彗星と呼ばれていますので以降この名前を使って解説する事にします。

現在(2020年3月中旬)、アトラス彗星の位置は太陽からの距離約1.8AU(1AUは太陽と地球の距離約1億5,000万キロ)と離れているため10等級ほどの明るさしかありません。
今後この彗星は徐々に太陽に接近して行き、最も太陽に接近する近日点は2020年5月31日で約0.25AUまで接近すると考えられています。

ATLAS彗星は大彗星になるのか?

実はこのアトラス彗星についての光度計測予測では凄まじい計算結果が出ています。

「Image Credit:Wikipedia」
それが上の測光グラフですが、2020年3月時点のデータは左下の黒い点が実際の計測データで10等級ほどの明るさを示しているのがおわかりか?と思います。
しかし、これからの予測(赤いライン)を見てみると、最大光度がマイナス25等級と示されており、このマイナス25等級という光度は太陽に匹敵する明るさです。(太陽の光度はマイナス26.7等級)
そもそも彗星は太陽光に照らされて光輝くワケで、その天体が自ら輝く太陽と同等の明るさというのはどう考えても不自然であり、流石にここまで明るくなる事はないでしょうが、それでも大彗星になる可能性は大いに期待できるとの事です。

では、その大彗星とはどのようなモノなのか?
これから太陽に最接近するアトラス彗星の光度予想は様々で、最大で満月(マイナス12.7等級)に匹敵するマイナス10等級ほどまで明るくなる大彗星だとか?!
いやそうではなく、せいぜい1等級程度の明るさだという専門家までいます。
つまり、現時点での予測は困難で実際に太陽に接近してみない事には何とも言えないというのが現実のようです。
それでも光度予想が1等級~マイナス10等級までありますので、この明るさなら肉眼でも十分観測する事が出来、アトラス彗星が大彗星にならなかったにせよ、久々に肉眼で見れる彗星出現は間違いなさそうです。
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ATLAS彗星の期待度はラヴジョイ彗星?観測条件はどうなの?

前回、大彗星となり地球からも大きく明るく見えたのが2011年に出現したラヴジョイ彗星(C/2011 W3)です。
この彗星は大彗星だったにも関わらず、日本人の多くはこの彗星の事をご存じではないと思います。
何故ならラヴジョイ彗星が観測出来たのは南半球だったからであり、北半球に住む私たちには少し馴染みの薄い大彗星となってしまいました。

「Image Credit:2011年、オーストラリアで観測されたラヴジョイ彗星(Wikipediaより)」
ラヴジョイ彗星は最大光度がマイナス4等級ほどまで増光し、オーストラリア等、南半球の各地域で観測出来、今世紀最大の大彗星として記憶されています。
そして気になるアトラス彗星ですが、今回は北半球でも観測出来そうです。

アトラス彗星を観測する方角は東の空に浮かぶペルセウス座方向で、2020年5月下旬以降、日の出前の1時間くらいの間に観測出来そうです。
近日点通過時が最も光度が高いと思われ、日の出の1時間ほど前に出現し、日の入り1間ほど前に沈んで見えなくなるとの事。
しかし、もしアトラス彗星がマイナス10等級にもなる大彗星となれば、昼間でも十分観測する事が出来、夜間もしばらくの間は見る事が出来るかも知れません。

過剰な大彗星への期待はアイソン彗星の二の舞なる?

2013年末、大彗星出現か?で大きな話題になった彗星が存在した事をご存じでしょうか?
それがアイソン彗星で、この彗星は太陽表面から約117万キロまで接近するサングレーザーと呼ばれる彗星。
過去に史上最大に明るい大彗星になったキルヒ彗星と軌道が似ていたため、アイソン彗星もそれに匹敵する明るさが期待されていました。

「Image Credit:1680年、史上最大の大彗星・キルヒ彗星(Wikipediaより)」
そのため、アイソン彗星の太陽最接近に合わせメディアでも大きく取り上げられ、各旅行会社や航空会社が「アイソン彗星観測ツアー」等を企画して大彗星への期待度が大きく盛り上がりました。
しかし、残念ながらアイソン彗星が大彗星になる事はなく、あまりにも太陽に接近し過ぎたアイソン彗星は、強烈な太陽熱と太陽の潮汐力で粉々に粉砕し、あえなく蒸発、消滅してしまいました。

「大彗星現る!」等と銘打って、アイソン彗星による経済需要を期待していた機関も多くあった事で、大損害とまでは行かなかったとは思いますが、彗星出現も自然がなせる業ですので期待どおりになるとは限らないという教訓にもなった事でしょう。
そして今回、大彗星出現の期待があるアトラス彗星もこれからどうなるか?わかりません。
だからこそ、あまり期待はせず静かに見守る事も必要なのでは?と思います。

そもそも彗星って何?

天文にそれほど詳しくない人は、そもそも彗星って何なの?と疑問に思う人も多いでしょう。
そこで、アトラス彗星により興味を持っていただくためにも彗星についての基本的な事を解説します。

彗星とは、有名なハレー彗星でも知られるとおり長い尾を引く特異な天体で、日本では昔から”ほうき星”とも呼ばれており、尾を引く形状から良く流れ星と間違われてしまう場合もありますが、彗星はそれとは全く違う天体で、地球の大気に突入し摩擦熱で一気に輝き一瞬で消えてしまう流れ星と違い、彗星はそれそのものが太陽の周りを回る天体で大きさにして数十~数キロメートル程です。
構造は氷や岩石等で出来た数十~数キロメートルの核の部分と、核が太陽熱で暖められた事により溶け出した氷がガスや塵となり噴き出し、それらが核の部分を大きく覆い隠し、さらに太陽風でガスや塵が尾を引くように太陽とは逆方向に流れ出す。これが彗星の正体です。

「Image Credit:国立天文台 天文情報センター」
彗星の本体である核の部分は非常に小さいため、本来なら肉眼で観測する事など不可能なのですが、大彗星ともなると地球から遠く離れているにも関わらず、肉眼で大きくハッキリと観測する事が出来ます。
その理由は、彗星の核から噴き出されたガスや塵に増光成分が含まれているからであり、これらが核を何倍、何千倍にも大きく膨らむように見せ、さらにはガスや塵が太陽風で煽られ尾を引く事で、幻想的で美しい”ほうき星”の姿を私たちは観る事が出来ているのです。
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