例えば100人の人に「厚い大気があって、地表に雨が降り川が流れ湖がある太陽系の天体はどこ?」と尋ねると、ほぼ全員から「地球」と返事が返って来るでしょう。
もちろんそれが正しい答えではありますが、実は他にも答えがあるんです。
それは地球から遠く離れた土星の衛星・タイタン。
現時点でこの星は太陽系で唯一地球に似た自然環境を持っているという事が判明し、その環境を観測したデータを分析して詳細な「世界地図」が完成。
そして一般に公開されました。
土星の衛星・タイタンとはどんな天体なのか?
地球から約15億キロも遠く離れた土星を周る6番目の衛星・タイタンは、太陽系の衛星では最大級で木星の衛星・ガミメデに次に大きく半径は地球の月の約1.5倍で惑星である水星よりも大きな天体です。そんな大きな天体故に観測された歴史も古く、宇宙の概念が天動説から地動説に変わって間もない1655年に中世オランダの天文学者・ホイヘンスによって発見されています。
「Image Credit:Wikipedia」
古くから観測されているタイタンの大きな特徴は、地球のような厚い大気を持っている事です。しかしそんな厚い大気が邪魔をし、地球からの観測ではタイタンの地表の様子を伺い知る事は出来なかったのです。
そして、タイタンを詳しく観測するために直接土星に向けて飛び立ったのが探査機・カッシーニでした。
「Image Credit:Wikipedia」
探査機・カッシーニによって明らかとなったタイタンの表面
アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)によって共同開発された土星探査機・カッシーニは、人類の宇宙探査史上最高の成果をあげたと称賛され、衛星タイタンの探査でも素晴らしい結果を残してくれており、以下で紹介するようなタイタンの姿を明らかにしてくれました。「Image Credit:厚い大気を持つ衛星タイタン(Wikipediaより)」
地球からの観測では地表の様子を見る事が出来なかったタイタン。
(※ 下画像↓中央が地球から観測したタイタンの姿)
探査機カッシーニが土星軌道に訪れタイタンに接近した事で、以下画像のように詳細な姿を見る事が出来るようになりました。
(※ 下画像↓周りの6つのが画像が、カッシーニが2004~2017年までにタイタン表面全域を観測した赤外線画像)
「Image Credit:Wikipedia」
カッシーニの観測で明らかになった事は、タイタンの厚い大気のほとんどは窒素で形成されておりその大気圧は1.5気圧。地表の温度は摂氏マイナス170度以下と超極寒の世界でした。
地球によく似たタイタンの驚くべき素顔
カッシーニの観測で明らかになった衛星・タイタンの驚くべき素顔。それは、タイタンには地球と同じように山があり、
「Image Credit:タイタンの地形(NASA)」
雨が降り、川が流れ、
「Image Credit:タイタンを流れる川(NASA)」
川が流れた先には湖(海)がある事でした。
「Image Credit:タイタンの湖(NASA)」
この地形、地球なら水が造り出すのですが、残念ながらマイナス170度以下の温度では水はたちまちのうちに凍りついてしまいます。
そんな水の代わりにタイタンで活躍しているのがメタンやエタンなどの炭化水素で、これらの炭化水素は超極寒の中でも凍る事なく液体の状態を保ち、タイタンの地表では安定的にしかも大量に存在している事が判明しています。
つまりタイタンでは炭化水素が地表で循環し、メタンやエタンの雨が降り、川が流れ、炭化水素で出来た湖が形成されているワケです。
ちなみにカッシーニが観測したデータを分析した結果、タイタンに存在する湖の中には深度100メートル以上もあるモノが発見されています。
季節で変化するタイタンの地形
タイタンでは29.5年周期で季節が変化する事も確認されており、この変化によりメタンの雨の降水量の増減が変化したり、また池(湖)が蒸発したり新たに形成されたりと変動が起こっているとの事が発見され、タイタンでは炭化水素の循環で季節が巡っているのではないか?との見方が出ています。タイタンの世界地図が完成し一般公開
100回以上も衛星タイタンへのフライバイを行い観測を続けた探査機カッシーニによってタイタン全体の詳細なデータを収集し、これをもとに地質図(世界地図)を作製。一般公開される事になりました。「Image Credit:NASA Jet Propulsion Laboratory」
※ タイタン地質図の拡大図はコチラをクリックして下さい。
以下、この地形図について少し詳しく解説します。
まずは色分けしている地形については、最も広く分布しているのが南北中緯度付近に広がる平地(Plains)。
続いて、低緯度の赤道付近には砂丘地帯(Dunes)が多く見られています。
次が高さの低い丘陵地帯(hummocky)。こちらは各地に点在しているようです。
湖(Lales)は数は少ないですが極域に見られています。
そして最後がクレーター(Crater)。
大気が厚く、風雨にさらされるタイタンでは浸食作用を受けてしまい、クレーターはほとんど残っていないと推測されます。
起伏に富んだタイタンに命名された地形名
作製された地質図に記載もありますが、タイタンにはいくつか目立った地形に名前が付けられています。北半球から順にご紹介。
- 「Kraken Mare」~クラーケン海:タイタンの北極に位置する最大の湖。
- 「Hano」~ハノ・クレーター:タイタンの多重リング状クレーターのひとつ。
- 「Afekan」~アフェカン・クレーター
- 「Soi」~ソイ・クレーター
- 「Menrva」~メンルヴァ・クレーター
- 「Ksa」~クサ・クレーター
- 「Forseti」~フォルセティ・クレーター
- 「Sinlap」~シンラプ・クレーター
- 「Selk」~セルク・クレーター
- 「Huygens Landing Site」~ホイヘンス・ランディング・サイト:2004年にカッシーニから分離された小型惑星探査機ホイヘンス・プローブの着陸地点。
「Image Credit:ホイヘンス・プローブが撮影したタイタンの地表(Wikipediaより)」 - 「Guabonito」~グァボニト・クレーター
タイタンの多重リング状クレーターのひとつ。 - 「Xanadu」~ザナドゥ
タイタンの赤道付近にある高アルベド地形のひとつ - 「Sotra Patera」~ソートラ火口
- 「Ontario Lacus」~オンタリオ湖