史上初の地球防衛ミッションとして銘打って実施されたNASAの「DART計画」。
この計画は小惑星の探査を行う事が目的ではなく、小惑星に探査機をぶつけるというこれまでにないミッションでしたが、結果は大成功をおさめメディアでも大きく報じられましたのでご存じの方も多いかと思います。
このミッションは成功は、今後の地球防衛に有効な手段だという事だという事を世界に実証したと言われていますが、何故、探査機を小惑星にぶつけた事が地球防衛に繋がるのでしょうか?
DART計画の概要
今回NASAが実施した「DART計画」のミッションは、2021年11月24日にSpaceX社のファルコン9ロケット打ち上げから始まりました。打ち上げが無事に成功したDART探査機は、地球の近くを周回する事で、潜在的に危険な小惑星 (PHA) に分類されている地球近傍小惑星の小惑星「ディディモス」(直径約780m)に向かいます。
「Image Credit:小惑星「ディディモス」の軌道(NASA/JPL」
上図↑↑が小惑星「ディディモス」の軌道ですが、その他無数にある軌道は全てが現在確認されている地球近傍小惑星で、「ディディモス」はその中のひとつに過ぎません。
DART探査機は、約10カ月の飛行を経て現在地球から約1,100万キロ地点にある小惑星「ディディモス」到達します。
ですが、DART探査機の目標は小惑星「ディディモス」ではなく「ディディモス」を周回する直径170mの衛星「ディモルフォス」です。
つまり「DART計画」のミッションは、二重小惑星「ディディモス」の直径170mの小さな衛星「ディモルフォス」に探査機を衝突させる事が目的でした。
「Image Credit:二重小惑星ディディモス(左)と衛星ディモルフォス(左)に接近するDART探査機の想像図(Wikipediaより)」
ちなみに、上想像図の右端に小さく描かれている探査機は、DART本体が「ディモルフォス」に衝突する様子を撮影するために分離された小型宇宙機「キューブサット」です。
この衝突ミッションは2022年9月26日に実施され、質量が約500kgのDART本体が秒速約6kmで「ディモルフォス」に突入し、「ディモルフォス」の軌道を変える事が出来るのか?という実験を行いました。
「DART計画」の結果はどうだった?
「DART計画」のミッションは無事成功し、その結果については世界中で報道され大きな注目を集めました。当初の「DART計画」では、探査機を「ディモルフォス」に衝突させる事で公転周期を約73秒遅らせることができれば成功とみなされていましたが、結果は元々の「ディモルフォス」の公転周期は約11時間55分でしたが、この衝突実験で11時間23分にまで短縮した事が判明。目標の73秒どころか?32分も短縮するという予想を遥かに上回る結果をもたらす事になったのです。
上動画↑↑は、DART本体が実際に小惑星「ディモルフォス」に衝突する最期の5分半を撮影した様子で、下画像↓↓は、衝突実験後約285時間後の「ディモルフォス」の様子を捉えたモノで、衝突により破片が飛び散り、その影響で「ディモルフォス」から彗星のような長い尾が出ている事が確認出来ます。
「Image Credit:ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた衝突実験後の衛星ディモルフォスの様子( NASA/ESA/STScI/Hubble(2022)より)」
何故、探査機を小惑星にぶつけたのか?
しかし、NASAは何故、探査機を小惑星に衝突させたのでしょうか?その「DART計画」の本当の目的は、地球に衝突する危険のある天体(小惑星や彗星等)に質量のある物体(探査機)を意図的に衝突させる事で、その天体の軌道を変え危険を回避する事が出来るのか
?と言う史上初の地球防衛ミッションの実験でした。
地球は、太古の時代から現代そして未来まで小惑星や彗星といった天体が衝突する危険に晒されており、約6,600万年前に起こったとされる恐竜を絶滅に追いやった直径10㎞にも及ぶ巨大隕石の衝突。
「Image Credit:iStock」
近年では2013年、ロシアのチェリャビンスク州付近に落下した約20mの隕石落下事件等、常に宇宙からやって来る脅威があるにも関わらず、現在の人類にはそれを回避する手段を持ち合わせていないのが現状です。
「Image Credit:チェリャビンスク州の隕石落下(Wikipediaより)」
そんな中で実施されたのが今回の「DART計画」でした。
この実験成功により、人の手でも小惑星の軌道を変える事が出来る事が判明し、今後の地球防衛に効果がある事が証明されたのです。
小惑星に人工物をぶつける地球防衛手段は限定的にしか過ぎない?!
今回の実験では大きさが170m程の小天体に質量500kgの人工物を衝突させ軌道を変更させる事に成功しましたが、この成功が地球の脅威となる天体に対し全て有効というワケではなく、それはあくまでも限定的であり、ほんの一部の脅威にしか対応出来ない事は実験を実施したNASAも十分理解して行った事でもあります。「DART」が有効なのは対象天体が小質量な場合
「DART計画」の実験で対象となったのは直径が170m程の小さくて小質量の天体でした。そのため重さが500kg程度の人工物を衝突させても軌道を変える事が出来たのですが、もし衝突させる対象天体が直径約780mある主星の小惑星「ディディモス」だった場合はどうだったでしょうか?
「Image Credit:NASA/Johns Hopkins APL」
おそらくは、「ディモルフォス」ほどの結果は得られなかったでしょうし、ほとんど効果が無い可能性だってあったでしょう。
つまり、もし恐竜を絶滅させた時のような直径が10㎞もの小惑星が地球に脅威をもたらす事があった場合、この方法では対処が難しい事になるのです。
ただ、物騒な話にはなるかも知れませんが、衝突させる人工物が核爆弾といった巨大な破壊力を持っている爆発物であったら、もしかしたら可能性があるのかも知れません。
「DART」が有効なのは対象天体が遠距離にあるときだけ!?
今回の実験では、予想を上回る結果が出て対象天体の軌道を大きく変える事が出来ました。しかし、この方法が有効的なのは対象天体が地球から遠く離れている時に限ると言えます。
もし、地球に衝突する可能性が高い小惑星が地球にかなり接近している時に見つかった場合、人工物を衝突させて軌道を変えても手遅れになる可能性があり、また衝突時の破片も地球に降り注ぎ、衝突を回避しようとして行った事が”火に油を注ぐ”という危険だってあるでしょう。
「Image Credit:iStock」
ただ、対象天体が地球から遠く離れた地点で発見された場合、仮にその天体が直径が10㎞の小惑星だったとしても、人工物を衝突させる事でほんの少しでも軌道を変える事が出来れば、地球に接近する頃には大きく軌道が変わり危機を回避する事に成功する可能性もありますので、「DART計画」は無駄ではなく今後の地球防衛に大いに役立つ実験だった事は言うまでもなく、これからも規模を拡大し実験を続けていただければ宇宙からやって来る脅威が格段に減るのではないでしょうか?