今から約1,000年ほど前の11世紀から12世紀。日本では平安時代から鎌倉時代にかけて約200年余りの間に、突然、昼間でも見える程の明るい星が3度も出現した記録が、日本をはじめ、中国や欧州等、世界各地の昔の文献に残されています。
その星は、まさしく突然現れた見慣れない星(客星)であり、当時の人々を驚かせたとあります。

天文の知識等ほとんど無かったこの時代に出現した客星とは、いったいどんな星だったのか?残された当時の文献から現在の科学者たちが解析し、その正体を明らかにしてくれています。

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西暦1006年に出現した客星

時は西暦1006年4月2日。日本は平安時代の中期だった寛弘三年。南の空に突然明るい星が出現したと藤原定家が記した「明月記」に残されており、当時の中国やエジプトの文献にも記録されています。
明月記によると、4月2日の夜に現れた星は火星ほどの明るさで連夜輝き続けたとあり、エジプトでは月の4分の1程の明るさだったともあり、非常に明るい星が南の空を見上げれば観測出来たとあります。

では、その突然出現したという客星の正体とは何だったのでしょうか?
その客星とは、地球から「おおかみ座」方向約7,200光年の距離にある「SN1006」という天体。この”SN”は英語で「SuperNova(スーパーノヴァ)」の略で日本語では”超新星”という意味となり、すなわち「SN1006」は1006年の超新星であり、この天体(客星)は西暦1006年に観測された超新星爆発の残骸だという事になるのです。

「Image Credit:超新星爆発の残骸「SN1006」(Wikipediaより)」
なお、当時の文献によると4月2日に現れた客星は約3カ月間観測出来たとされ、その後は一旦暗くなり、また約18カ月ほど明るく輝いたとあります。
この現象の特徴から「SN1006」は、白色矮星の激しい爆発の結果生じる「Ia型超新星」だったのではないかと考えられています。
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そもそも超新星爆発とは何?

このサイトでも何度か超新星爆発の仕組みについて解説して来ましたが、また簡単にご説明すると、超新星爆発は大質量恒星が寿命を終えた時に起こす大爆発とも言える重力崩壊の事を言い、地球から観測した時、新しい星が出現したようにも見える事から”超新星”と呼ばれています。

「Image Credit:超新星爆発・ショックブレイクアウトのイメージ図(iStockより)」
ちなみに超新星爆発は大きく分けて2つに分類されており、前述しました「Ia型超新星」と「II型超新星」に分けられています。

Ia型超新星

Ia型超新星とは、連星で発生する超新星爆発であり、既に恒星としての寿命を終えた白色矮星の近くに寿命間近の赤色巨星があった場合、強力な白色矮星の重力によって赤色巨星を纏うガスが吸い込まれる事で、白色矮星の質量がドンドン増えて核融合が暴走して大爆発を起こしてしまう現象の事で、Ia型は短時間の爆発を起こしたのち、一度収縮した減光期間を経て再度同じような爆発サイクルを起こすとされているため、「SN1006」の超新星爆発もIa型ではないか?と推測されています。

「Image Credit:Ia型超新星(宇宙科学研究所キッズサイトより)」

II型超新星

II型超新星は、太陽の8倍以上の質量を持つ大質量恒星が起こす超新星爆発で、この恒星の寿命が尽き内部で起こっている核融合が停止すると、核融合により星を支えていた圧力が無くなり、一気に内側へと重力が集中し星自体が潰れようとする重力崩壊を起こしてしまいます。この凄まじい衝撃による衝撃波で大爆発が起こる現象がこの超新星です。

「Image Credit:II型超新星(宇宙科学研究所キッズサイトより)」
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西暦1054年に出現した客星

さて話は客星に戻りますが、次が西暦1054年、日本では平安時代中期に当たる7月4日。西の空に昼間でも見える程の客星が出現し、それは約1カ月もの間続き、夜空では1年半もの間輝き続けていたと言います。

この客星の正体は、地球から「おうし座」方向約6,400光年の距離にある「SN1054」で、市販の天体望遠鏡でも見える事から有名な「かに星雲」と呼ばれる超新星爆発の残骸です。

「Image Credit:かに星雲(Wikipediaより)」
なお、かに星雲の中心部には「かにパルサー」と呼ばれる直径20キロ程の小さな中性子星が確認されており、この時、超新星爆発を起こした恒星は、太陽の20倍以上の質量を持っていたのではないか?と考えており、その巨大な質量によって中性子星が誕生したとされています。

西暦1181年に出現した客星

最後にご紹介する3つめの客星が、西暦1181年8月4日に観測されたとされる「SN1181」です。
この「SN1181」も藤原定家の「明月記」に記述されており、治承五年、北の空(カシオペア座方向)に出現したとあり約185日間に渡って夜空で輝いていたそうです。

「Image Credit:SN1181(Wikipediaより)」
この「SN1181」は超新星である事は推測されていたのですが、その正体となる天体がどれなのか?は正確には定まっておらず、特定されたのは2017年の事でした。
「SN 181」は、表面温度が摂氏20万度以上に達するほど超高温の「ウォルフ・ライエ星」と呼ばれる種類の星で、2つの白色矮星が衝突した事で起こった超新星爆発(Iax型超新星)ではないかと考えられています。

客星は超新星だけにあらず

ここまでご紹介した3つの客星は、いずれも藤原定家が「明月記」に記述した超新星爆発の記録ですが、定家は明月記の中で過去8つの客星の出現例を調べて記載しており、その中の3つが超新星だったと判明しています。なお、客星は「見慣れない星」を意味しており超新星だけでなく新星や彗星も含まれていると言います。
いずれにしても定家が調べた過去200年余りの間に、3度も肉眼で見える超新星が出現したのはすごい事であり、何より天文知識のほとんどないこの時代に次々に出現した明るい客星に、人々は驚き不安を覚えた反応も明月記には記載があるそうです。
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