NASAが1977年に打ち上げた無人惑星探査機・ボイジャー2号を覚えているでしょうか。
現在このボイジャー2号は地球から遠く離れ、太陽圏を離脱した遥か彼方の宇宙空間にいて今も地球から離れて行っており、NASAの関係者や科学者たちはもとより、多くの天文ファンからも注目を浴びる存在となっています。
ですが、ボイジャー2号よりも先に打ち上げられ、もっと遠くにいるの探査機もあるハズなのですが、。何故かボイジャー2号に注目が集中しているように思えるのは私だけでしょうか?
そんな注目のボイジャー2号。実は、地球か最も遠く離れた通信可能な唯一の人工物だからなのです。

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初めてグランドツアーを実現したボイジャー計画

ボイジャー2号が打ち上げられたのは1977年8月20日でしたが、実は1号機であるボイジャー1号よりも16日も前に打ち上げられています。
でも何故、2号機であるハズのボイジャー2号が1号機よりも先に打ち上げられたのでしょうか?
その理由は至極簡単で、本来は先に打ち上げられる予定だったボイジャー1号のシステムに問題が生じた事により、結果的に2号機の方が先に打ち上げられたというワケでした。

そんな2機のボイジャー無人探査機のミッションは、人類で初めて複数の外惑星を訪れ探査を行う事であり、ボイジャー1号が探査対象とするのは2つの外惑星の木星と土星で、今回の主役であるボイジャー2号は、木星と土星、そして未だに(2022年現在)ボイジャー2号以外に訪れた事のない天王星と海王星の4つの外惑星探査でした。

ですが、たった1機の探査機で何故、4つもの惑星を一度に探査する事が出来たのでしょうか?
それは、約175年に1回やって来るという探査を行うのに最も適した惑星の配置が整う「グランドツアー」と呼ばれる稀な条件を満たしていたからでした。

●参考動画
「グランドツアー~ボイジャー1号(Voyager-1)とボイジャー2号(Voyager-2)の軌跡」

「Copyright ©:NASA All rights reserved.」
このボイジャー計画でもたらされた成果は大きく、木星ではリング(環)や衛星の発見、大赤斑の観測、衛星・イオでの火山活動の発見等の様々な功績を残しています。

「Image Credit:衛星イオの火山活動(Wikipediaより)」
次に向かった土星では、これまで謎の多かったリング(環)の複雑な構造を解明し、また衛星タイタンの大気調査等を行いました。

「Image Credit:ボイジャー2号が撮影した土星の全景と衛星(NASA/JPLより)」
その次に、グランドツアーのチャンスで初めて天王星に訪れたのはボイジャー2号でしたが、このときの天王星観測時間はわずか24時間弱だったと言います。
それでも、天王星の環や大気の観測、さらには新たに10個もの衛星を発見しています。

「Image Credit:ボイジャー2号が撮影した昼側の天王星(左)と夜側の天王星(右)の大気(NASA/JPLより)」
そしてボイジャー2号が最後に訪れた天体は8番目の惑星・海王星でした。
海王星では、大気や衛星・トリトンの調査、そしてここでも6個の衛星を発見しています。

「Image Credit:ボイジャー2号が撮影した海王星(NASA/JPLより)」

星間ミッションへ向かう2機のボイジャー号

4つの外惑星探査を終えたボイジャー2号に最後に与えられた任務は星間ミッションで、つまり、太陽系の外からやって来る星間物質を観測しながら太陽系を脱出する事でした。
しかし、ここで気になるのはこれらの探査機は太陽系の外に出てどこに向かっているのかではないでしょうか?
ですが、正直なところどこに向かうか?については特定はされておらず、ボイジャー1号は「へびつかい座」方向で、ボイジャー2号は「りゅうこつ座」のカノープス方向と漠然とした進路しか示されておらず、その理由は2機のボイジャー号が向かっている方角は、外惑星探査を終えた際に飛行方向がその方角になっただけで、「へびつかい座」や「りゅうこつ座」にターゲットを絞ったワケではないそうです。
また、この星間ミッションでは可能性は極めて低いですが、人類以外の知的生命体に接触した場合に備え、人類のメッセージを刻んたゴールデンレコードが積み込まれています。

「Image Credit:ボイジャー号に積み込まれたゴールデンレコード(Wikipediaより)」
このゴールデンレコードには、太陽系での地球の位置や人類の声、動物の鳴き声など様々な”地球の情報”が収録されているとの事です。
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ボイジャー2号は本当に太陽系を脱出したのか?

ボイジャー2号は2018年11月5日に太陽圏の外に脱出したことが確認され話題になりましたが、その5年前の2013年9月12日にボイジャー1号が太陽圏を離脱しており、2022年6月時点では地球から約233億キロの地点を航行中との事であり、ボイジャー2号においては2022年6月時点で地球から約195億キロの地点を航行しているようです。

ただネットニュース等では、「ボイジャー2号太陽系を脱出!」と情報が伝えられていますが、正確に言うとまだ太陽系を脱出したワケではなく太陽風が届く領域である”太陽圏”を離脱したに過ぎません。

「Image Credit:ボイジャー1号、2号の現在地(NASAより)」
この場所は、エッジワース・カイパーベルトの外側に到達したモノだと考えられており、太陽系の縁はまだ遥かに遠く、彗星の故郷と呼ばれる最外縁部の「オールトの雲」に到達するには約300年はかかるモノと見られ、さらには、完全に太陽系を脱出するまで約3万年はかかると推測されています。

何故、ボイジャー2号だけが注目されるのか?

前述したようにボイジャー探査機は1号機と2号機の2機が存在しており、1号機も注目はされていますが、何故かより注目となっているのは2号機のボイジャー2号の方のような気がします。
また、他にも同じくNASAが打ち上げた惑星探査機・パイオニア10号、11号の2機も既に太陽圏を離脱したと見られています。

「Image Credit:太陽圏を離脱した4機の探査機の航路(Wikipediaより)」
これらが何故、それほど話題になっていないのか?
その理由は、既に通信が途絶えたパイオニア10号、11号はともかくとして、ボイジャー1号とボイジャー2号はまだ”生きている”からではないでしょうか。

「ボイジャー号が生きている」とは、この2機は通信装置がまだ稼働し地球にデータを送り続けており、特にボイジャー2号は2030年頃までは通信が可能とされている事もあり、おそらくはその”生きている”期間がより長いボイジャー2号に注目が集まるからではないか?と個人的には考えています。

しかし、ボイジャー2号から届く電波は非常に微弱で、光の速さで進む電波でさえ地球まで20時間以上もかかっています。
まだ完全には太陽系を脱出していないとは言え、人類史上最も遠い通信が出来る人工物であるボイジャー号。
少しでも長い期間、地球との交信が続けば太陽系深淵部の新しい情報が得られるかも知れません。
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