2017年9月15日。約13年間に渡る永い土星探査ミッションを終えた「カッシーニ」。
そのグランドフィナーレは、土星の大気に突入して消滅するという何とも切ない最期でした。
そんなカッシーニが行った土星探査ミッションは、これまでにないほど大きな成果で、様々な土星、及び衛星たちの新たな発見をし、さらには今後に期待が持てる可能性も残してくれました。

ここでは、カッシーニが残した輝かしい偉業について振り返ってみたいと思います。

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動画で振り返る「カッシーニ」の軌跡

1997年10月15日。アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が共同開発した土星探査機「カッシーニ」は、アメリカ・フロリダ州ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。
打ち上げ後、金星のフライバイ、小惑星帯の通過、木星のフライバイを経て約7年間の歳月をかけ土星軌道に到着。以降、約13年間に渡り、土星、土星のリング(環)並びに衛星群の探査ミッションを実施し大きな成果を収めてきました。


「Copyright ©:NASA Jet Propulsion Laboratory All rights reserved.」
永きに渡る土星探査ミッションを終えたカッシーニは、最期は土星の大気に突入し燃え尽きてしまいました。
ですが、輝かしい功績を残したカッシーニなのに、何故そんな結末が待っていたのでしょうか?

その理由は2つあり、1つは燃え尽きる最期の最期まで任務が残っていた事。
それは、土星の大気に接触する事で、大気上層の外部にあるガスを採取する事で、これによりこれまでにない土星を構成する大気成分を解明するデータを、手にする可能性に期待が持てるということにあります。
2つめは、万が一を考え土星の衛星の環境汚染を防ぐ目的もあります。
様々な土星領域を巡ってきたカッシーニ。もしかしたら、カッシーニの機体に環境を汚染する物質が付着している可能性があります。
これを完全に消去するため、カッシーニは土星の大気に突入し自らを焼却するということになったワケです。
こうして、残念ながら燃え尽きてしまったカッシーニ。しかし、その功績は後世に残る偉大なモノとなりました。
以下、カッシーニが残した功績についていくつか振り返ってみたいと思います。
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発見された衛星

カッシーニの探査によって新たに7つの衛星が発見されています。

「Image Credit:カッシーニが発見した衛星の1つ「メトネ」(Wikipediaより)」
この発見により、土星の衛星数は65個となり木星の69個の衛星数に次ぐ多さとなっています。
※ 追記:その後、新たに17個の衛星が発見され、2021年時点において土星の衛星数は83個となっています。なお、木星の衛星数は2021年時点で80個となっています。

第6衛星・タイタンの探査

数ある土星の衛星の中で最も有名なのが第6衛星・タイタンではないでしょうか。

タイタンは、惑星である水星よりも大きく太陽系の衛星の中でガニメデ(木星衛星)に次ぐ大きさを誇っており、タイタンは大きさもさることながら厚い大気に覆われた衛星として大きな注目を浴びており、長年詳細な探査が待たれていましたがカッシーニの土星軌道投入でその探査が可能となりました。

「Image Credit:衛星・タイタン(Wikipediaより)」
さらにこのタイタン探査の目玉は、カッシーニに搭載されたホイヘンス・プローブという小型探査機で、タイタン上空で切り離され地表に降下し、同機は人類史上地球から最も遠い天体の地表に着陸した探査機となりました。

「Image Credit:タイタンの地表に降り立ったホイヘンスのイメージ図(左)とホヘンスが撮影した実際のタイタン地表(右)(ESAより)」

「Copyright ©:NASA Jet Propulsion Laboratory All rights reserved.」
●参考サイト:【ホイヘンス・プローブが捉えたタイタンの音】
※ タイタンの音声データを聴くには、上記ESAホームページ内にあるFile1:acoustic during descentというリンクをクリックして下さい。

衛星・タイタンには、地球と似た厚い大気があるということで生命存在の期待が寄せられたのですが、地表の平均温度がマイナス170度という超低温ということもあり、残念ながら生命の痕跡は無かったのですが、その代わりに?カッシーニは大発見をしています。

衛星タイタンで見つかった川と湖

カッシーニは、衛星・タイタンで脅威の大発見をしています。
その大発見とは、太陽系の天体の中で地球以外の唯一、川と湖を発見した事で、さらには、地表には雨が降っていることも確認されています。

しかしながら、それは地球で降る水の雨や川ではなく、超低温下も液体を維持できるメタンなどを含む炭化水素が雨や川となって流れていることが判明しています。

「Image Credit:タイタンを流れる川と湖(NASA)

活発に動く土星のリング(環)

土星の特徴的なリング(環)。その成分は塵や氷から出来ていることが判明していますが、今回のカッシーニの探査では、土星のリングは活発に動いていることが判明。さらには、衛星がリングの側を通過すると波のように揺れ動いていることも発見しています。

「Image Credit:カッシーニが撮影した土星のリング(環)の全景(Wikipediaより)」

衛星・エンケラドゥスから噴き出る生命の元の間欠泉

カッシーニ最大の功績と言っても良いのは、衛星・エンケラドゥスで起こっている現象の発見かも知れません。
エンケラドゥスは土星の第二衛星で、大きさは500キロほどしかない全体が氷に覆われた天体です。

「Image Credit:Wikipedia」
当初カッシーニのミッションでは、このエンケラドゥスについてはそれほど注目しておらず、この天体の重力を利用した方向転換のためフライバイを行うため接近し、その際にエンケラドゥスの地表から噴き上がるプルーム(水柱)を発見。これが、地下の熱源から放出される間欠泉であることが判明しました。

「Image Credit:カッシーニが撮影したエンケラドスから噴き出す間欠泉(Wikipediaより)」
このことから、エンケラドゥスの氷の下には熱で溶けたと思われる液体の水、つまり海が広がっている可能性が高くなり、また間欠泉の成分を調べたところ塩類や有機分子、アンモニアなど、生命の主要な構成要素が含まれている事が判明しました。
これにより、ンケラドゥスの地下には、何らかの生命存在が期待できるとして一躍この星は注目の的となったのです。

人類初!土星の環の内側を通過

カッシーニは、土星と土星の環の間を通過する観測ミッションにも挑みました。
これは、初めての試みで、土星の環の内側はどうなっているのか?分かっていませんでした。

その土星の環の内側の謎解明にも成功したカッシーニ。

「Image Credit:土星の環の内側にダイブするカッシーニの想像図(NASAより)」
結果、土星上層の大気と環の間の約2,400キロの空間は、ほとんど何も無い領域が広がっている事が判明。
この観測結果は、多くの科学者たちを驚かせる事になりました。

このカッシーニの観測結果を得た事により、何故、土星の環の内側がこのようになっているのか?についてはまだ不明で今後詳しい調査をするとの事です。

偉大なる功績を残した無人探査機「カッシーニ」

2017年9月15日。カッシーニは時速約12万キロという猛烈なスピードで土星の大気に突入。

「Image Credit:土星の大気に突入し燃え尽きようとするカッシーニの想像図(NASAより)」
この速度と土星との大気摩擦で燃え尽きたカッシーニ。そんな同機には、各方面から「ありがとう」の言葉が寄せられました。

無人探査機なのに擬人化され感謝の言葉が贈られるほどカッシーニの功績は偉大なモノだと言え、これまで人類が探査に送ったどの探査機よりも成果が大きくそして長くミッションを続けた探査機です。
カッシーニのおかげで、地球から遠く離れた土星も身近に感じる事が出来、今後の人類の宇宙探査にも多大なる足跡を残したことは間違いないでしょう。

土星大気圏突入で任務を終えたカッシーニですが、残念ながら現時点ではそれに代わる後継機はまだ計画されておらず、ただ近い将来、衛星・エンケラドゥスやタイタンへのより具体的な探査計画が発表される可能性はあります。

偉大な功績を残したとは言え、カッシーニの土星観測プロジェクトにも39億ドル(約4,300億円)が投入されていますので、巨額を投じるプロジェクトにはカッシーニ以上の技術革新の他、世論の理解も必要となりますので、新たに土星に探査機を向かわせることは前途多難な問題が待ち受けているのかも知れません。
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