2020年1月初旬、アメリカ航空宇宙局(NASA)が新たな太陽系外惑星の発見のニュースを発表しており、それによると発見された系外惑星は地球とほぼ同サイズの大きさで、ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)に位置しているとの事で、この発見によって多くの研究者たちは色めき立ち、生命存在が大いに期待できるとしています。
ただ、生命存在について懐疑的な考え方もあり「地球に似た惑星が見つかった!」とは手放しには喜べないようです。
地球から100光年先離れた場所に見つかった地球型惑星
2020年1月6日にNASAが発表した新たな太陽系外惑星発見のニュース。地球から見て「カジキ座」方向約100光年の位置に、「T0I-700」という質量が太陽の40%ほどで表面温度も太陽の半分のスペクトル型(M型)を持つ恒星があります。
「Image Credit:太陽とTOI-700の大きさ比較(Wikipediaより)」
◆ 参考:光のスペクトル型による恒星の分類表
※ 太陽はスペクトル型G型に分類されます。
「Image Credit:Wikipedia」
この恒星の観測を行ったのは、2018年に打ち上げられた系外惑星探査衛星「TESS」。
TESSはこの恒星に合計3つの惑星を発見しており、そのうちの1つ「T0I-700d」という惑星は地球の約1.2倍ほどの大きさを持ち、主星(TOI-700)を37日半ほどで公転している事が判明しました。
さらに「T0I-700d」が位置する公転軌道上は、水が高熱で蒸発せず低温で凍結もしない液体を保てる、言わば適温で生命が生存出来る領域ハビタブルゾーンである事が判明したのです。
ちなみに「T0I-700d」は「カジキ座」方向にありますが、光度が13等級ほどの暗い恒星のため肉眼で観測する事は出来ません。
地球型惑星・T0I-700dはどこが地球と似ているのか?
今回発見されて話題を呼んでいる地球型の惑星「T0I-700d」は、地球とほぼ同サイズの岩石惑星である事が判っており、さらに、前述もしたようにハビタブルゾーンに位置している事に生命が生存出来る可能性が高いと注目されています。「Image Credit:NASA’s Goddard Space Flight Center」
またこの惑星に生命生存が期待できる最大の理由に、主星(太陽)を約11カ月観測した期間、一度も太陽フレア(恒星の表面爆発)が見られなかった事から主星の活動は安定していると思われ、この事から惑星「T0I-700d」には地球と同じように、生命が育まれている環境が整っている可能性があると考えるに至っています。
楽観は出来ない?地球型惑星・T0I-700dの問題点
生命存在の期待が高まっている地球型惑星「T0I-700d」。しかしこの惑星にはいくつかの問題点も多く、必ずしも生命存在の可能性が高いとは言えないようです。
では何故、生命存在を楽観できないと言うのでしょうか?そこには、大きく分けて3つの問題点があります。
① 大気の存在が確認出来ていない
惑星の生命存在に不可欠な大気は、そこに十分な大気がある事で、適度な温室効果が生まれ惑星表面に水が湛える事が出来、何より生物にとっては大気無しでは生きる事が出来ません。そんな重要な大気の存在の有無について、現時点で「T0I-700d」に大気があるかどうかは判ってはおらず、しかも今後も「TOI-700d」の大気の有無については、2021年打ち上げられたの最新鋭で超高性能のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡でも検出は難しいとの事のようです。
「Image Credit:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(NASAより)」
② 潮汐ロックがかかっている
小型で暗く低温の主星「T0I-700」のハビタブルゾーンは非常に近い距離になってしまい、そのため、ハビタブルゾーンに位置する惑星「T0I-700d」と主星(太陽)との距離はわずか約2,400万キロで、この距離は太陽と地球の距離の約1/6にしかなりません。それは、惑星はが主星による潮汐力の影響を大きく受ける可能性が高い事を意味しています。
実際の観測でも「T0I-700d」は主星「T0I-700」の潮汐力を受け、地球の衛星・月が常に同じ面を地球に向けているように、惑星「T0I-700d」もまた常に同じ面を太陽に向けてしまっている事(公転と自転の同期現象、または潮汐ロックとも呼ぶ)が判っており、惑星の表面が太陽に対し同じ方向を向けているという事は、表側は常に昼間の状態のため太陽熱で熱せられ灼熱になっており、逆に日の当たらない裏側は極寒になっている事が容易に想像出来ます。
この事から、この惑星の環境は生命生存には適さない事も考えられますが、一部の科学者の研究によると、惑星に十分な大気と水(海)が存在すれば大気と水の循環が生まれ、惑星が適温に保たれる可能性があるとし、また、潮汐ロックの状態でも昼と夜の境目の領域(トワイライトゾーン)は適度な温度が保たれ、生物が生存出来る環境が整っているかも知れません。
「Image Credit:YouTUBEより」
③ 主星(太陽)の年齢が若い?!
確かな情報ではないかも知れませんが、調べたところこの星系の太陽である「T0I-700」の年齢は15億歳前後とありました。星が誕生し生命が育まれるまで気の遠くなる時間が必要になり、事実、地球に最初の生命が誕生したのは今から約38億年前だと考えられており、この頃に誕生したのは原始的な生命でした。
「Image Credit:Wikipedia」
更に、生命が海から陸上に進出し私たち人類の起源となる脊椎動物が誕生したのはわずか4億年前の事だと推測され、一概に地球と他の惑星の歴史を同じように考える事は出来ませんが、地球の生命誕生の歴史を基準として考えると、誕生から15億年しか経過していない星では少なくとも生命の進化は初期の段階ではないか?と考えられます。
赤色矮星にしか地球型惑星は見つからない?
今回、地球型惑星が見つかったのは、これまで何度も同じような地球に似た惑星が見つかっているM型の通称・赤色矮星と呼ばれる小型で低温の恒星です。つまり、いくら赤色矮星に地球型の惑星が見つかっても、私たちの太陽のように恒星としては普通サイズで温度も比較的高めのG型、もしくはK型の恒星に見つかっているワケではありません。
では何故、地球型惑星や地球外生命の観測は赤色矮星ばかりに目が向くのでしょうか?
理由は、宇宙において約7割は赤色矮星が占めている事にあり見つけやすく、主星と惑星の距離が近い事から探査がしやすいというメリットがあるからであり、一方、私たちの太陽のような恒星はそれほど多くなく、主星と惑星の距離も遠い事から探査がしにくいという事があり、現在の観測技術ではどうしても赤色矮星ばかりにターゲットが向いてしまいます。
しかし、日々観測技術が進歩している現在において、私たちの太陽系のような恒星系にも観測の目が届き、近い将来、本当の意味での地球型惑星が見つかる日が来るかも知れません。