2018年8月12日に打ち上げられたアメリカ国航空宇宙局(NASA)の探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」。
この探査ミッションは史上初の試みで、これまでにない近い距離まで太陽に接近し謎とされて来た太陽コロナ等の解明に挑もうとしています。
NASAはこれまで、数々の難しい宇宙探査ミッションを成功させて来ましたが、今回の「パーカー・ソーラー・プローブ」のミッションは特に困難なモノとなるとの事。
果たして「パーカー・ソーラー・プローブ」は、灼熱の太陽にどこまで接近しどんな探査を行うのでしょうか?
そして、危険を冒してまで挑むミッションの重要性と成功の確率は?気になるところです。

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史上初の太陽探査の前に知っておくべき太陽の構造

太陽に接近し探査を行う「パーカー・ソーラー・プローブ」。
この探査は非常に難しく、NASAはこの探査の成功するか否かは「賭け」だと言っているほどです。
そんな太陽探査を阻んでいる主な要因となっているのが、太陽の強烈な熱と放射線と巨大過ぎる重力です。
そこで今一度確認したい。探査を阻む太陽はどんな存在なのでしょうか?

参考までに、現時点で判明している太陽の主な構造(基礎知識)について解説すると。
  • 大きさ(直径):約140万キロ(地球の約109倍の大きさ)
  • 質量:1.99×1010kg(地球の約33万倍)
  • 温度:・中心部 約1,600万度 ・表面 約6,000度 :大気層 最大約200万度
  • 組成:水素約74% ヘリウム約25% その他約1%
  • 地球からの距離:約1億5,000万キロ(=1天文単位)

「Image Credit:太陽系図鑑
このように、凄まじく巨大な質量を持つ太陽は太陽系全体の99%以上を占めており、太陽系はほとんど太陽で出来ていると言っても過言ではありません。
つまり、「パーカー・ソーラー・プローブ」は、絶対的な存在である太陽に前人未踏の探査に挑むことになるのです。

2つの人類初の偉業を達成する「パーカー・ソーラー・プローブ」

2018年8月に打ち上げられた太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」。
地球から太陽までの距離は約1億5,000万キロで、直線的にはそれほど遠い距離ではないのですが、太陽の強烈な重力に引き込まれないよう金星の重力を利用(フライバイ)を計7回行いながら少しずつ加速し、長い時間をかけて太陽に接近して行きます。

「Image Credit:NASA/SDO. GRAPHIC: Daisy Chung, NGM STAFF SOURCE: Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory」
この太陽接近軌道に乗る行程により、「パーカー・ソーラー・プローブ」は2つの人類初の偉業を達成することになります。
その1つ目が、太陽の重力に引き込まれないための探査機の速度が200km/sに到達する事で、これはこれまで人類が造った人工物の中で最も速い速度になります。

2つ目が、太陽最接近時の距離。「パーカー・ソーラー・プローブ」は、太陽表面から約600万キロという距離まで接近します。もちろん、この距離は史上初でありしかも太陽の大気層(コロナ)に突入する事になるのです。
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「パーカー・ソーラー・プローブ」は灼熱のコロナに突入しても何故溶けないのか?

数ある太陽の謎の中で興味深いのが、太陽表面温度は約6,000度なのに対し、上空にある大気層(コロナ)の温度が何故、遥かに高温の100万度以上に達しているのか?です。

「Image Credit:太陽を取り巻く白いガス層がコロナ(Wikipediaより)」
この謎の解明に挑むのが「パーカー・ソーラー・プローブ」のミッションの1つなのですが、謎を解明するためにこのとてつもない高温のコロナの中に突入します。
しかし、現在人類のテクノロジーを駆使しても100万度の熱に耐えられる物質は存在しませんし、探査機が突入する領域が100万度以上でなかったにせよ少なくとも摂氏数十万度はあるハズです。

そんな超高温の領域(コロナ)に突入して、何故「パーカー・ソーラー・プローブ」は溶けないのでしょうか?
それについては、以下の動画で説明しています。

「Copyright ©:NASA Goddard All rights reserved.」
探査機を熱から守る耐熱シールドの限界温度は1,400度のため、摂氏数十万度に達するコロナ内ではとても太刀打ち出来る性能ではありません。
では、何故「パーカー・ソーラー・プローブ」は溶けずに探査が行えるのでしょうか?
動画では英語での説明でしたので、わかりづらかったと思いますので要約すると4つの理由があるようです。

「探査機が超高温でも溶けない4つ理由」
  • 耐熱性に優れた白色の耐熱シールド耐熱シールドの色が太陽光を反射する白色で熱を軽減出来、外側の素材が耐熱性に優れた炭素の結晶体で出来た「黒鉛エポキシ」。内側の素材が空気を97%含む炭素発泡体。
  • 高性能の姿勢制御センサー付き熱に弱い探査機本体が太陽に晒されないよう、常に耐熱シールドが太陽の方向を向くようにセンサーで制御している。
  • 冷却システム付き耐熱シールドを水が循環する冷却ラジエターが装備されている。
  • それほど大きな熱には晒されない探査機コロナ自体は超高温だが、コロナを構成する高温のプラズマ粒子の密度は低いため、探査機は極一部の粒子にしか接触せずそれほどの高温には晒されない。
つまり、最新のテクノロジー技術を装備した「パーカー・ソーラー・プローブ」は、熱があまり高くない領域で探査を行うのでミッションに問題はない!と言っているのです。
ちなみに、「パーカー・ソーラー・プローブ」が太陽に最接近した時点での耐熱シールドの温度は1,377度で、限界値に近いですが十分に絶えられる温度だと想定されています。

太陽磁場の謎解明にも挑む「パーカー・ソーラー・プローブ」

「パーカー・ソーラー・プローブ」に与えられたミッションはいくつもあり、そのひとつに”太陽風の源となる磁場の構造と変遷の測定があります。

太陽フレアなどで引き起こされる太陽風は、どのように生み出されているか?これも謎のままです。
太陽風は電荷を帯びたプラズマ粒子が、風のように秒速300~900キロという猛スピードで太陽から放たれていますが、これの発生のメカニズムとエネルギーのひとつである太陽風が何故このようなスピードで流れているのか?等について解明に挑むそうです。
そんな太陽風の謎を解くカギとなっているのが、太陽を取り巻く巨大な磁場。

「Image Credit:太陽磁場をCGでイメージしたモデル(NASAより)」
「パーカー・ソーラー・プローブ」には、コロナに突入した際に、太陽磁場やプラズマ粒子等のエネルギーの観測分析する装置が搭載されており、灼熱に耐えながらこの分析を行う事になっています。

今回「パーカー・ソーラー・プローブ」のミッションが成功すると、太陽メカニズムの解明だけではなく地球にとっても脅威となる太陽フレア発生の予測といった「宇宙天気予報」にも役立つとされています。
極めて難易度の高いと言われる史上初の太陽接近探査。
成功する事を祈るばかりです。
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