地球から一番遠い星と言うとちょっと語弊があるので正確に言うと、人類が到達した最も遠い天体というのが正しい表現かも知れません、
それが地球から約70億キロの彼方にある太陽系外縁天体の微惑星「アロコス」です。
2019年1月に探査機ニューホライズンズが「アロコス」に到達して以降、あまり情報が挙がって来ていませんがいったいどんな天体なのでしょうか?
現時点でわかる範囲内の情報を集めてみました。

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探査機が訪れた太陽系内で最も遠方にある天体・アロコス

「世界の果て」を意味するウルティマ・トゥーレ改め、アメリカの先住民族のひとつポウハタン族の言葉で「空」を意味する「アロコス」が正式名称となった、太陽系外縁天体探査機ニュー・ホライズンズが訪れた太陽系内で最も遠方にある天体。

「Image Credit:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/Roman Tkachenko」
探査機ニュー・ホライズンズは冥王星の探査を終えた後、このアロコスに向かいフライバイ(接近通過)を実施しています。

天体の重力を利用する事で燃料を使わずして軌道修正や速度調整を行う事が出来るフライバイでは、時速数万キロの高速で飛ぶニュー・ホライズンズにとって、直径が30キロ程度のアロコスのフライバイはほんの一瞬の出来事だったため残念ながらアロコスの詳しい探査は出来ていません。
ちなみに、地球からアロコスまでの距離は平均で約65億キロもあり、ニュー・ホライズンズが探査を行った冥王星よりも20億キロ以上外側を公転する天体で、エッジワース・カイパーベルトに属しています。

「Image Credit:ニュー・ホライズンズの航路と小惑星アロコス(2014 MU69)の軌道(Wikipediaより)」

妙なカタチの天体アロコスの特徴

探査機が訪れた太陽系最外縁部の天体アロコスにニュー・ホライズンズが到達し、フライバイを実施したのが2019年1月1日の事。
ニュー・ホライズンズがアロコスに接近し最初に分かった事は、この天体が非常に奇妙なカタチをしている事でした。
まず目を引くのが、2つの天体が合体したかに見える雪だるまかピーナッツのような形状で、さらには球状ではなくパンケーキのような平べったい形状である事でした。

「Copyright ©:NASA Video All rights reserved.」
このアロコスの独特とも言える形状は、太陽系形成初期の段階で造り上げられたモノだと推測されており、元々は別々に形成された2つの天体が衝突し合わさった惑星の形成過程で成長が止まった状態の微惑星に分類されている天体だと思われています。
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カイパーベルト天体の特徴が垣間見える微惑星・アロコス

天体アロコスは直径30キロほどで小さな天体ではありますが、ただ面積に関してはアメリカの都市・シアトルに匹敵する大きさだと推定されており、また微惑星であるアロコスは、前述もしたように惑星として形成過程で成長が止まり、その姿は数十億年も変わっていないモノとも思われます。

形状こそ2つの天体が合体したアロコスですが、その表面も特徴的で、凍結したメタノールと複雑な有機分子で覆われており赤茶けた色をしています。
さらには、小天体が衝突して出来るクレーターはそれほど多くはなく、それが意味する事は、小天体同士の激しい衝突で形成されたモノではなく、元々あった微惑星がゆっくりと合わさり一体化したのではないか?との指摘もあります。
つまり、無数の小天体が存在しているエッジワース・カイパーベルト領域において、惑星が形成される前の微惑星等の残骸が多く残り、アロコスもそのひとつに過ぎないのではないか?という事のようです。

「Image Credit:自然科学研究機構 国立天文台
何故、このような微惑星が多く残ったのかについては、太陽から遠く離れたこの領域では、太陽の潮汐力も小さいため惑星を形成するため、微惑星同士の激しい衝突が起こっておらず、軌道長半径が広く離心率も大きいことにより、完全な惑星形成までには至らなかった天体が多く存在していると考えられています。

エッジワース・カイパーベルトは太陽系初期のタイムカプセル?

今回、探査機ニュー・ホライズンズがフライバイ(接近通過)の行程で探査を行った微惑星・アロコスは、そもそも太陽系が誕生した際、原始太陽の周りには原始惑星系円盤と呼ばれるガス円盤を形成します。

「Image Credit:原始惑星系円盤のイメージ図(自然科学研究機構 国立天文台より)」
この原始惑星系円盤の中で漂う塵やガスが重力の影響で融合・衝突を繰り返し微惑星を形成。そして、それら微惑星が衝突を重ね少しずつ成長。最終的に惑星や衛星を創り出していきます。
地球や火星等の惑星はそのような過程を経て誕生したと考えられていますが、そもそも重力の弱かった太陽系外縁部は微惑星のまま残ってしまい、その残骸のようにエッジワース・カイパーベルトが出来たのだと考えられています。
そのため、この領域には冥王星やエリスといった直径数百~数千キロ程度の準惑星は存在するモノの、惑星のような巨大な天体にまでは成長しない。
つまり、微惑星が多く存在するこの領域は太陽系初期の状態が残るタイムカプセルのようなモノで、太陽系の起源を解明するにはエッジワース・カイパーベルト天体を調査する事が近道ではあると思いますが、やはり地球から数十億キロ以上もある最遠の天体領域のため、今回の微惑星・アロコスにおける探査データは貴重なモノとなりそうです。

ちなみに、2019年1月1日にアロコスでのフライバイを行った探査機ニュー・ホライズンズは、現時点(2020年3月)においてもアロコスで行った観測データを送り続けており、まだアロコスの詳細な分析は終わっていません。
そしてニューホライズンズの観測データを全て取り終えるのが2020年の末頃で、これが終われば、新たな太陽系最遠天体の謎が解けるかも知れません。
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