私たち地球生命が生まれる遥か昔。原始地球で起こったとされる巨大天体衝突「ジャイアント・インパクト説」をご存じでしょうか？
これはあくまでも仮説として考えられて来た事なのですが、最近の研究で巨大衝突の証拠となるものが地球の地下深くに眠っているという新説が発表され話題となっています。
何故ジャイアント・インパクト説が生まれたのか？
原始地球が誕生したのは、太陽系が形成されて間もない約46億年前と考えられています。そんな地球には、他の太陽系のどの惑星にもない衛星としては大き過ぎる月が存在しています。
と言うのも、他の惑星が持つ衛星の質量比は最大でも1,000分の1なのに対し、地球と月は80分の1という桁違いの質量比を持っているからです。
何故、地球はこのような巨大な衛星を持つに至ったのでしょうか？
それは現在でも謎が多く、確固とした起源はわかっていません。
「Image Credit：地球と月の大きさ比較（上図）と距離（下図）（Wikipediaより）」
そんな謎を解決すべく生まれたのがジャイアント・インパクト説です。
この仮説が生まれた理由は、月で採取した岩石を調べたところこれが地球由来の物質でできていることを示唆していたため、太古の地球に巨大な天体が衝突したイベント「ジャイアント・インパクト」で月が誕生したと考えられるようになったのです。
原始地球に火星サイズの天体が衝突した事で生命も誕生した！？
ジャイアント・インパクト説によると今から約45億年前、地球に火星サイズ（地球の大きさの半分ほど）の仮想の天体「テイア」が衝突したと考えられています。この時、天体「テイア」は地球に斜めから衝突。この事で、破片が地球の軌道上に飛び散り、それが徐々に集まった事で月が形成されたのでは？と考えられています。
また、斜めに衝突した事で地球の自転が加速し、さらに衝撃で地軸も傾き現在の地球の構造が出来上がったとも考えられており、つまり、ジャイアント・インパクトが起こっていなければ、今の生命に溢れた地球環境はなかったとも言えるのです。
その事についてもっと具体的に言うと。
- 巨大な衛星・月の潮汐力で大気や海が適度に撹拌され、生命を維持する役目を担っている。
- 地軸の傾き（約23.4度）により四季が生まれ、気候も安定している。
- 適度な自転速度は生命維持に優しい重力を保っている。
地球の内部にジャイアント・インパクトの証拠が眠っている？
地球の内部は大きく分かれて外側から地殻・マントル・外核・内核の構造になっています。
「Image Credit：iStock」
しかし、地球の内部構造についてはまだわかっていない事が多く、科学者たちは地下で発生した地震波の伝播から地球の内部構造を調査しています。
そんな調査の中から、アフリカと太平洋の地下深くに急激に地震は減速する広範な領域が存在する事が判明。この領域の事を「大規模低せん断速度プローブ(LLSVPs)」と呼び、調査の結果、LLSVPsは地球の核を挟むように包んでいて、それぞれ厚さ約1,000キロメートル、幅数千キロメートルと大陸サイズの巨大な塊である事が判ったのです。
「Image Credit：地球内部にあるLLSVPのイメージ（Commons;CC BY-SA4.0より）」
このLLSVPsの領域を詳しく調べると、周囲とは異なる密度の高さがあり明らかに組成が異なっているとの事で、つまり組成が異なるという事は、地球外からやって来た天体・テイアの残骸ではないか？と言うのです。
しかも、このような構造になった事も科学的に証明できるといい、以下の図のように天体同士が衝突した事で、地球内部に残った残骸が長い年月を経て地球の深部へと沈み込んで行き、現在のようなLLSVPsを形成したのではないか？と考えられると言います。
「Image Credit：ジャイアント・インパクトによるLLSVPs形成経緯図（Li et al.より）」
でもまだジャイアント・インパクトは仮説に過ぎず！
巨大天体が原始地球に衝突したとされるジャイアント・インパクト説。これを提唱する事で、様々な点で辻褄が合うため現在の有力説となっていますがそれでも仮説に過ぎないのは確かです。
そのため、今回発表された天体テイアの残骸が「LLSVPs」だという説もあり、これも一部の科学者たちの見解であり、多くの科学者たちはこの説に疑問を持っています。
それでも地球の地下深くに謎の領域が存在するのは事実です。
これが一体何なのか？今後の調査次第では、本当にジャイアント・インパクトを起こした天体の残骸である事が証明されるかも知れません。
