2017年に話題になった地球外惑星発見のニュースを覚えているでしょうか?
それは、地球から「みずがめ座」の方向約40光年の距離にある「TRAPPIST-1(トラピスト1)」と呼ばれる赤色矮星に7つの地球型惑星を発見された事であり、さらにそのうちの3つの惑星は生命存在が可能かも知れないと発表され注目されました。
しかし、当時話題にはなったモノの、以降の情報は殆ど聞きませんが、その後のトラピスト1系外惑星の調査はどうなっているのでしょうか?
地球サイズの惑星を7つも持つTRAPPIST-1とは?
恒星TRAPPIST-1(トラピスト1)は私たちの太陽よりずっと小さい恒星で、質量は太陽の9%ほどしかなく大きさに至っては木星とほぼ同じくらいのサイズで、さらに表面温度も約2,500度(太陽は約6,000度)と低く、その低い温度から赤く輝いているため、「赤色矮星」と呼ばれる小型の恒星です。「Image Credit:Wikipedia」
この小型の恒星トラピスト1は、地球からの距離がわずか40光年なのにも関わらず明るさが18.8等級とかなり暗めであり、肉眼で見える星の明るさが6等級くらいまでとされていますので、この星を肉眼で観測しようとしてもまず無理だと言えるでしょう。
しかし、科学者たちはこの小さくて暗い恒星から大きな発見をしており、それはこの恒星には少なくとも7つの惑星があり、その7つは全て地球サイズである事を発見しています。
7つの惑星全てが地球サイズとこれだけでも凄い発見なのですが、さらにそのうち3つは水が液体の状態で維持出来る適温のハビタブルゾーンと呼ばれる公転軌道を持っている事にあり、私たちの地球も太陽系のハビタブルゾーンの中にあります。
この発見によりにわかに期待が高まる地球外生命の存在ですが、しかし発見当時、これらの惑星に生命はおろか?そもそも大気や水が存在しているのかは可能性のみを示唆しており、以降、トラピスト1に多くの科学者が観測の目を向け詳細な分析・研究が進められて来ました。
TRAPPIST-1を周る3つのハビタブル惑星
赤色矮星トラピスト1に見つかった地球サイズの7つの惑星で、うち3つがハビタブルゾーンに位置する惑星です。(下図↓↓、e,f,g の3つがハビタブルゾーン惑星)
「Image Credit:NASA」
では、この3つの惑星とはどんな星なのでしょうか?現在わかっている範囲内でご紹介した上で、生命存在の可能性についても言及してみたいと思います。
TRAPPIST-1e
「Image Credit:TRAPPIST-1eの想像図(Wikipediaより)」
- 主星(太陽)からの距離:約421万キロ。
- 公転周期(1年の長さ):約6日。
- 大きさ(地球との比較):0.918倍。
- 質量(地球との比較):0.24倍。
- 重力(地球との比較):0.74倍。
- 地表表面温度(平均):摂氏15度。
TRAPPIST-1f
「Image Credit:TRAPPIST-1fの想像図(Wikipediaより)」
- 主星(太陽)からの距離:約550万キロ。
- 公転周期(1年の長さ):約9日。
- 大きさ(地球との比較):1.045倍。
- 質量(地球との比較):0.36倍。
- 重力(地球との比較):0.62倍。
- 地表表面温度(平均):摂氏-54度。
TRAPPIST-1g
「Image Credit:TRAPPIST-1gの想像図(Wikipediaより)」
- 主星(太陽)からの距離:約674万キロ。
- 公転周期(1年の長さ):約12日。
- 大きさ(地球との比較):1.127倍。
- 質量(地球との比較):1.34倍。
- 重力(地球との比較):1.06倍。
- 地表表面温度(平均):摂氏-74度。
生命存在最有力候補はTRAPPIST-1eか?
以上、赤色矮星トラピスト1を公転する3つのハビタブルゾーン惑星のうち、惑星のデータを比較すると最も地球に近い環境を持つ惑星は「TRAPPIST-1e」だと考えられており、「TRAPPIST-1e」が生命生存の可能性が一番高いのか?と推測できますが、事はそう単純ではなく生命存在し得る可能性を高めるにはいくつかの問題点をクリアする必要があります。まず、問題点として挙げられるのが「TRAPPIST-1e」と主星の距離が近過ぎる事にあり、主星の赤色矮星トラピスト1は質量が小さく温度も低い恒星ですので、必然とハビタブルゾーンもかなり主星により近い位置になってしまいます。
「Image Credit:太陽系とTRAPPIST-1星系の公転軌道比較(ILLUSTRATION BY O. FURTAK, ESOより)」
つまり、主星と惑星の距離がこれだけ近いと、惑星が主星から受ける引力の力はかなり大きくなってしまいます。
この主星の引力で生じてしまうのが潮汐ロックと呼ばれる自転と公転が同期現象です。
潮汐ロックが起こっている惑星の片面は常に恒星側にさらされ続ける昼側となり、もう片面は常に日の当たらない夜側になってしまい、このような現象が起こっている惑星で考えられるのは、昼側は灼熱、夜側は極寒の世界となっている可能性があり、強烈な日射の影響で昼側から夜側へ相当な強風が吹き荒れ、いくらハビタブルゾーンに位置する惑星であるとは言え、地球とは全く異なる環境が広がっている可能性があります。
仮に主星との距離が近いTRAPPIST-1eに潮汐ロックがかかった状態であれば、やはり生命は誕生していないのか?とも思われますが、それでもいくつかの条件が整えば生命が存在し得る環境は作られるかも知れません。
潮汐ロックの惑星に必要な生命存在の条件
地球型惑星が7つも存在し生命存在の可能性への期待が高まる赤色矮星トラピスト1ですが、やはり、主星と惑星の距離が近い故に生じる事が懸念される自転と公転が同期現象(潮汐ロック)ではないかと考えられ、もし、主星との距離関係では申し分ない惑星が潮汐ロックだった場合、生命が誕生するために必要な条件とはどのようなモノなのでしょうか?その条件をいくつか挙げてみたいと思います。
- 強い磁場を持つ惑星
惑星に大気を保持させ、主星からの強い放射線や太陽風から守るためには、それをガードする強い磁場が必要になって来ます。その磁場を得るためには惑星が持つ質量がどれくらいなのか?
それが判断基準のひとつになってくるのですが、トラピスト1のハビタブル惑星で、TRAPPIST-1eと1fの質量は地球よりかなり小さいため、どれくらいの磁場を持っているのか?気になるところではあります。 - 十分な大気と水を持つ惑星
潮汐ロックの影響で昼側と夜側に完全に分かれてしまっている惑星では、当然ながら極端な温度差が生じてしまいます。この温度差を緩和させるには、惑星内を循環させるいわゆるラジエターの役割を担う厚い大気と豊富な水が必要となるでしょう。 - 大気と水を掻き回す巨大衛星
地球には月という巨大な衛星があります。この月の存在は地球の環境を維持するためにとても重要な役割があり、月の強大な潮汐力で地球大気の流れ、海の潮流を発生させ循環に大きく貢献しているのです。つまり、潮汐ロックがかかっている惑星に月のような巨大衛星があれば、大気・海の循環を良くしている可能性が高いと言えます。 - 主星の活動が安定している
主星(太陽)と惑星の距離が近いと、その分惑星が主星から受ける影響も大きくなるでしょう。もし、主星の活動が活発で頻繁に巨大な表面爆発(太陽フレア)を発生させていた場合、
惑星はその影響をモロに受けてしまい、生命が育まれる環境が造られないかも知れません。 - 主星の年齢が長い
惑星に生命が育まれる環境が整っていたとしても、生命の誕生から進化までは気の遠くなるような時間が必要となって来ます。おそらくは、星が誕生してから数億年程度の期間では生命には時間が短過ぎるでしょう!?しかし、トラピスト1の年齢は50~98億歳と推定されています。
これだけ時間があれば、生命が進化するには十分な時間もあり、もしかしたら高度な文明も生まれているかも知れません。
トラピスト1の新事実!?惑星の大気は・二次大気
赤色矮星トラピスト1の地球型惑星の調査は少しずつですが着実に進んでいるようです。その調査で新たに推測できる事。それは、トラピスト1の惑星が地球と同じような進化を続けていた場合、もしこれらの惑星に大気が存在していたとしたら、その大気は二次大気ではないか?という事です。
「Image Credit:アストロバイオロジーセンター」
つまり、大気を持つ惑星は一次と二次の2段階に分かれている事で、通常、惑星が誕生した初期の段階では原始惑星系円盤の水素やヘリウム等を惑星の重力で取り込み大気となる一次大気であり、この一次大気を持つのが木星や土星などの巨大なガス惑星で、巨大な重力のため一次大気は永い年月維持され続けると考えられています。
一方、地球のような小さな岩石惑星は重力が低いため、初期段階で取り込んだ一次大気は消滅しており、その後、彗星や小惑星等の小天体衝突で得られた水蒸気や、火山活動で発生した二酸化炭素等の物質が混ざり合う事で二次大気が生まれ地球のような豊富な大気に恵まれた惑星が誕生したとされています。
また、主星との距離が近いトラピスト1惑星は仮に大気が存在していたとしても、主星からやって来る放射線によって数億年で一次大気は宇宙空間に散逸して失われてしまうことが判明しており、この研究結果から分かった事は、トラピスト1惑星に大気が存在していたとするならば、それは二次的に生まれた大気であり、成分組成もより地球に近い可能性もあると考えられるとの事でした。
ただ、現時点でのトラピスト1惑星の大気の有無は確認されていないワケで推測の域は越えていませんが、それでも着実な調査、研究は進んでいますので近いうちに解明される事になるでしょう。