SFパニック映画で有名な「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」等は、小惑星が地球に衝突するという危機をテーマにして描いた大作映画で大ヒットしました。
これはもちろんフィクションの娯楽映画ですが、実はこのような危機は現実の世界でも起こっても不思議ではなく、しかもある日突然何の前触れもなく訪れるかもしれないのです。
日々、平和な地球に住む私たちにとって、にわかに信じられないかも知れませんが、多くの専門家たちは現実に起こり得る事態だと認識し、突然やって来るかも知れない小惑星地球衝突の危機に備えるべく確実に行動を起こしているのをご存じでしょうか?
地球に危険を及ぼす可能性のある小惑星って実際どれだけあるの?
実は、地球に接近する小惑星は毎年のように出現しており、この記事を投稿した2022年にも年末に直径60~140メートル程の小惑星「2015RN35」(別名:クリスマス小惑星)が、地球から約68万キロ付近を通過しています。「Image Credit:2022年のクリスマス時期に地球に最接近する小惑星のイメージ図(欧州宇宙機関(ESA)より)」
小惑星「2015RN35」の最接近距離は月軌道の外側(地球と月の距離の約2倍)ですので、地球に脅威をもたらす程の接近ではないですが、それでもこういった小惑星の接近は日常茶飯事的に起こっているのが現実であり、この事実がいつ地球に脅威をもたらす天体が出現してもおかしくない事を証明している現れでもあるのです。
このように、地球に接近する軌道を持つ天体を地球近傍小惑星と呼び、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が「はやぶさ計画」で探査を行った小惑星イトカワやリュウグウもまた地球近傍小惑星に数えられている天体です。
「Image Credit:小惑星イトカワ(左)小惑星リュウグウ(右)(Wikipediaより)」
また、地球近傍小惑星は、まさしく地球近傍に無数に分布しており、これまで人類が発見した地球近傍小惑星は約30,000個に達しており、それでもそれはほんの一部だと考えられ、おそらくはまだ発見されていない小惑星はその数倍はあるものと推測されているのです。
「Image Credit:地球近傍天体研究センター(CNEOS)」
なお、上画像↑は地球近傍天体研究センター(CNEOS)によって算出された、地球に潜在的な地球衝突の危険性がある天体が分布する軌道図(青線)を表したモノで、これをご覧いただいてもわかるように、いつ地球に接近し場合によっては衝突して来る天体が無数に存在している事がわかるか?と思います。
地球に危険を及ぼす可能性のある小惑星に人類は対処出来るのか?
2013年にロシアで起きた「チェリャビンスク州の隕石落下」を覚えておられるでしょうか?この時、突然宇宙から飛来した20メートル級の隕石が上空15~50キロ付近で爆発し、その爆発の衝撃波と破片が地上に落下して大きな被害をもたらした災害が起こりました。
この「チェリャビンスク州の隕石落下」については、専門家たちは事前に小惑星接近を把握しておらず、仮に把握していたとしても地上の人々に避難を呼び掛けるほどの時間がなかったでしょうし、正に突然に起こった隕石落下災害でした。
チェリャビンスク州の隕石落下で地球に大きな被害をもたらすような事ではなかったですが、今後においてもっと巨大な小惑星が接近し隕石となって地球に衝突するような危機が訪れた場合、人類に対処する手段はあるのでしょうか?
もちろん、人類はこれから訪れるかも知れない宇宙からの脅威をただ受け入れるつもりなどはなく、どうやって危機を回避するか?を考え既に動き出しています。
地球を脅かす小惑星の事前検知精度を上げる試み
地球近傍小惑星、そして地球に危機を及ぼす危険のある潜在的に危険な小惑星発見の精度を上げるべく、アメリカ航空宇宙局(NASA)は2028年打ち上げを目標に小惑星を探知する宇宙望遠鏡「Near-Earth Object(NEO)Surveyor」の開発を行っています。「Image Credit:NASA/JPL/University of Arizona」
「NEO」は地球に接近する小惑星を探索するために開発されている宇宙望遠鏡で、太陽と地球との重力が釣り合う「ラグランジュ点1(L1)」に設置され、地球軌道から3,000万マイル(4,800万キロ)以内にある約140メートル以上の小惑星や彗星の90%を発見出来るよう設計されているそうです。
「NEO」が設計どおり機能すれば、大半の地球に危険を及ぼす可能性がある天体は発見出来ると言いますが、でも危険な天体を発見出来ても破壊、もしくは地球に衝突しないように出来なければ何の意味もありません。
地球を脅かす小惑星の軌道を変える試み
2022年9月に行われた画期的な宇宙実験「DART計画」。この実験は発見された地球に危険を及ぼす小惑星を破壊するのではなく、軌道を変えて地球衝突コースから回避しようとする試みでした。「DART計画」では、地球から約1,100万キロ離れた地点に位置する地球近傍小惑星「ディディモス」を周回する直径約170メートルの衛星「ディモルフォス」に探査機を衝突させる実験を行いました。
「Image Credit:二重小惑星ディディモス(左)と衛星ディモルフォス(左)に接近するDART探査機の想像図(Wikipediaより)」
この実験では、質量は約500キロの探査機を秒速約6キロメートルで大きさ170メートルの衛星ディモルフォスに衝突させ、その衝撃でディモルフォスの軌道がどれだけ変化するのか?を調べるのが目的でした。
その実験結果は大成功。しかも当初の予想ではディモルフォスの公転軌道を約73秒遅らせる事でしたが、結果は予想を遥かに上回る32分もの短縮に成功しています。
つまりこの実験の意味は、人工物を天体に衝突させて軌道が変えられるという事であり、宇宙望遠鏡「NEO」をはじめとする観測で、事前に地球に衝突コースを取る小惑星や彗星等の天体を発見出来れば、その天体に向け人工物(探査機等)を打ち上げ衝突させれば、地球への衝突コースを回避できるというモノです。
すなわち、人類が小惑星等の発見の確率が上げ回避できる技術を持つ事が出来れば、地球の危機は避けられるという事なのです。
まだまだ安心は出来ない小惑星が地球に衝突する危機問題
危険な小惑星発見の精度が上がり、回避できる技術をクリアできるという事は、これからの人類発展の大きな飛躍に繋がる可能性もあります。しかし、安心するのはまだ早く、これにより100%危機を回避できるワケではないのも忘れてはいけないと思います。
例えば、安心出来ない理由として以下の事が考えられます。
- 危険な天体を100%事前検知は出来ない。
宇宙望遠鏡「NEO」は危険な天体を90%検知出来ますが、残りの10%を地上からの観測で補っても100%の検知には及ばない。 - 質量の大きな天体に人工物をぶつけても効果は期待出来ない。
DART計画では200メートル未満の天体に質量500キロの探査機を衝突させましたが、もし恐竜を絶滅させた時のような10キロメートルクラスの小惑星が接近して来た場合、相当巨大な質量を持つ人工物が必要になります。 - 対象天体が地球の近くで発見された場合は対処不可能?
地球に衝突するコースを取っている対象天体の軌道コースを変えるには、地球からかなり離れている場合のみ有効になります。
つまり発見が遅れ、地球にかなり接近してから人工物をぶつけても軌道変更で大きな効果は期待できないどころか、ぶつけた衝撃で飛び散った破片が地球に降り注ぐ可能性もあります。