天文ファンなら既にご存じの人も多いかと思いますが、地球から遠く離れた宇宙に、新たなブラックホールが発見されたというニュースが話題になっています。
とは言っても、最近ではブラックホールの発見はそう珍しくはないのですが、そのブラックホールというのがとてつもなく巨大なブラックホールだというのです。
それは驚愕の太陽質量の300億倍以上という超巨大ブラックホール。これまで見つかって来たブラックホールの中でも最大でしかもダントツのモンスターなのです。
太陽の300億倍以上~大質量超巨大ブラックホールを発見!
私の知る限りでは、これまで発見された最大の大質量ブラックホールは太陽質量の200億倍でしたが、それでもこのブラックホール発見のニュースを聞いた時には、その巨大過ぎる質量に驚いた事を覚えています。そんな驚きのブラックホールよりもさらに巨大なブラックホールが、次元が違い過ぎるといってもよいくらいのブラックホールで、その質量は太陽の約327億倍もあると想定され、もちろんこれは天文学史上最大級の超大質量ブラックホールです。
「Image Credit:ESA/Hubble, Digitized Sky Survey, Nick Risinger (skysurvey.org), N. Bartmann」
この超大質量ブラックホールは、地球から約27億光年彼方の銀河団「Abell 1201」の中で最も明るい銀河「Abell 1201 BCG」の中心で発見されています。
特殊な手法で発見された超大質量ブラックホール
ブラックホールは光さえも脱出出来ない究極の天体とされ、極めて重力が強いため光でさえもその重力に逆らう事が出来ないため、通常の観測では発見する事が極めて困難な天体です。そのため、今回の超大質量ブラックホールは、ブラックホールの持つ巨大な重力によって光が屈折する現象「重力レンズ」を利用する事で発見する事に成功したと言います。
では「重力レンズ」による観測方法とは、いったいどういうモノなのか?以下で簡単に解説します。
「Image Credit:Abell 1201 BCG(Wikipediaより)」
上画像↑↑は、実際に撮影された「Abell 1201 BCG」(中心にある黒い楕円部分)銀河ですが、その右上付近に弧を描いた細長い天体が写っていますが、これは「Abell 1201 BCG」の背後にある別の銀河です。
この背後にある銀河は、本来であれば「Abell 1201 BCG」に隠れて見えないハズなのですが、「Abell 1201 BCG」の巨大な重力の影響で背後の銀河が放つ光の進路が重力レンズ効果で歪み、このような弧を描いたような姿で写り込んでいるのです。
(補足:上画像↑↑にある10kpcは10,000パーセクを指します。パーセク(pc)とは、天文学用語で宇宙の距離を表す単位の事で1pc=3.26光年となります。これを光年に置き換えると10,000 × 3.26 すなわち10kpc=32,600光年という事になります。)
この重力レンズ観測をもとにイギリスの天文学研究機関「DiRAC」にあるスーパーコンピュータ「DiRAC COSMA8」でのシミュレーションを実施し、その結果と「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」との観測結果を照合し合致した事で、史上初の重力レンズによるブラックホールの発見に至ったと言います。
「Image Credit:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(NASAより)」
超大質量ブラックホールはどうやって誕生するのか?
今回、発見された超大質量ブラックホールの大きさ(質量)は太陽の約327億倍です。とは言ってもこの質量がどれくらいなのか?想像が難しいかと思いますので、仮に私たちが住む地球の質量を1として考えると、太陽の質量は地球の約33万倍あります。つまりこの超大質量ブラックホールの質量は地球1 × 330,000 × 32700,000,000 倍になるワケです。こうやって考えると「Abell 1201 BCG」のブラックホールが如何に想像を絶する天体なのか?想像は出来ないにしても人知を超えた天体であることがわかるかと思います。ところで、このような想像を絶する超大質量ブラックホールは、どのようにして誕生(形成)されたのでしょうか?
通常、現在の理論で考えられるブラックホール形成過程は、大質量恒星(太陽質量の30倍以上)が寿命を終えた際に重力崩壊(超新星爆発)を起こし、恒星の中心の1点に向かって重力が集中した事で、際限の無い重力だけの天体。すなわちブラックホールが誕生すると考えられていますが、このようにして形成されるブラックホールの質量は太陽の数倍~十数倍ほど(恒星質量ブラックホール)だと考えられており、この形成過程では超大質量ブラックホールが誕生する事はないとされています。
◆ 参考動画:ブラックホールの説明
しかしながら、現時点では超大質量ブラックホール形成のメカニズムはわかっていないのですが、いくつかの形成モデルは提唱されており、その中で最も有力だとされているのが「ブラックホール降着説」です。
「Image Credit:銀河の中心にある超大質量ブラックホールの想像図(Wikipediaより)」
この考え方は、通常巨大なガスや塵が大量に集まると太陽のような恒星が形成されますが、その恒星の段階を経る事なく、ガスや塵がゆっくりと降着して行き超巨大な重力場が形成されたのちに重力崩壊を起こした事で、超大質量ブラックホールが形成され、その後もブラックホール同士が合体・融合を繰り返した結果、太陽質量の数百億倍ものブラックホールが誕生したのではないか?との見方もあるようです。
いずれにせよ、はじめて「重力レンズ」を利用した観測で史上最大のブラックホールが発見されたワケですので、今後もこの観測手法を使えば、もっと巨大なブラックホールが発見される期待もありますが、太陽質量327億倍のブラックホールの大きさは、現在の理論上では上限限界だと考えられているそうです。