21世紀に入り観測技術の向上と共に、数多くの太陽系外惑星が発見されるようになっています。
そんな発見された系外惑星の大半は、太陽よりもかなり小型の恒星である赤色矮星から見つかっており、その中には地球と似た惑星もいくつかあり、これらの惑星に生命が居るかも知れないと期待度も高まりつつあるのですが、一方で、赤色矮星を周る地球型の惑星に生命存在を求める事は困難という声も挙がっています。

これはいったいどう言う事なのでしょうか?ここでは、何故、赤色矮星の惑星で生命が望めないのか?という事を調べてみました。

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赤色矮星とはどんな星なのか?

赤色矮星についてはWikipedia等でも詳しい解説が載っていますので、ご存じの方も多いかと思いますが改めて解説しますと。
赤色矮星とは、私たちの太陽のような主系列星(矮星)の中でも最も質量が小さく表面温度も低い恒星の事で、質量は太陽の10%以下から50%未満で、表面温度は2,000度~4,000度以下という低温のM型主系列星とも呼ばれています。(ちなみに太陽は、G型主系列星に分類される黄色矮星で表面温度は約6,000度。)

「Image Credit:太陽(左)と赤色矮星(右)の大きさ比較例(Wikipediaより)」
赤色矮星は、私たちの太陽系が属する銀河(天の川銀河)の中でも最も数が多く、銀河内の恒星の4分の3は赤色矮星だと考えられています。
しかし赤色矮星は数が多いにも関わらず、私たちが満天の星空を眺めても肉眼でその姿を確認する事はほぼ不可能。原因は赤色矮星があまりにも小さく温度も低く暗過ぎる事で、肉眼で見るなんてほとんど不可能と言っても良いのですが、星空の一部を超高解像度カメラで撮影すれば無数の赤色矮星が浮かび上がって来ます。

「Image Credit:NOIRLab
上画像↑↑に映し出されている無数の小さな光点の一つ一つが太陽のような恒星であり、特に砂粒のような小さな光点に多くの赤色矮星が含まれています。

太陽系外惑星の大半は赤色矮星で見つかっているのは何故か?

初めて太陽系外惑星が見つかってから30年以上。今やその数は5,000個を超え、その惑星の大半は赤色矮星(M型主系列星)を公転しています。もちろん、太陽のような黄色矮星(G型主系列星)や橙色矮星(K型主系列星)でも系外惑星は見つかっていますが、赤色矮星に比べたら圧倒的に少ないのが現状です。

「Image Credit:赤色矮星を公転する惑星のイメージ図(Alejandro Suárez MascareñoおよびInés Bonet (IAC)より)」
では何故、赤色矮星に多くの系外惑星が発見されているのでしょうか?
その理由は大きく分けて2つあり、1つは宇宙には赤色矮星の数が圧倒的に多く、太陽系の近くにも多くの赤色矮星があるからであり、2つ目は小型の赤色矮星であるが故に、惑星はその近くを公転しているため、現在、主に使われている探索の方法であるトランジット分光法だと見つけやすいからです。
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トランジット分光法とは?

トランジット分光法とは、観測対象恒星の前を惑星が横切った時に起こる減光を観測し、そこにどのような惑星が存在するのか?を検出する方法で、恒星と惑星の距離が近ければ近いほど検出がしやすく、同時に大気組成等の詳しい分析が出来るという利点があります。


「Copyright ©:European Southern Observatory (ESO) All rights reserved.」
赤色矮星を公転する惑星は、主星である恒星との距離が非常に近く(数百万キロ~数千万キロ)惑星が横切った時に起こる減光現象が如実に現れ、さらには距離が近い事で公転周期も数日~数週間と短い事(主星を横ぎる周期)で観測もしやすいというメリットがあります。
一方、赤色矮星より大きい恒星と惑星との距離は遠く、例えば太陽と地球の距離は約1億5,000万キロも離れ公転周期も1年(約365日)と長いため、惑星を検出するにはかなり困難になってしまいます。つまり、系外惑星を探すのであれば赤色矮星で探す方が比較的簡単だという事もあるのです。

赤色矮星で地球似の惑星が見つかっても生命存在の可能性が低い2つの理由

これまで赤色矮星で見つかった惑星の中には、地球と同じようなサイズの惑星も多く見つかっており、そのうちのいくつかは生命居住が可能な領域であるハビタブルゾーン圏内にも位置している事が判明しており、もしかしたらその惑星に生命が居るのではないか?との期待も寄せられています。

しかし、期待がある一方で「赤色矮星を周る惑星に生命がいる可能性は絶望的!?」という声もあり、そういった声を挙げる専門家たちはその理由として以下の2点を挙げています。

赤色矮星のハビタブルゾーン惑星に生命が居ない理由その1:潮汐ロック

赤色矮星のハビタブルゾーンは、非常に主星に近い位置にあります。
例えば、地球から約40光年離れた赤色矮星TRAPPIST-1(トラピスト1)には7つの地球型惑星が見つかり、そのうちの3つはハビタブルゾーン圏内に位置する事がわかっています。

「Image Credit:赤色矮星TRAPPIST-1と太陽系のハビタブルゾーン比較図(Wikipediaより)」
上図↑↑は、トラピスト1と太陽系のハビタブルゾーンの位置関係を比較したモノですが、ご覧のように赤色矮星であるトラピスト1の位置は、主星に非常に近い場所にあるのがわかるかと思います。

このように、主星と惑星の距離が近いと、惑星がより潮汐力の強い主星の影響を受けてしまい、天体の自転と公転の同期現象(潮汐ロック)が起こってしまう可能性が非常に高くなってしまいます。なお、潮汐ロックの現象は地球と月の関係でも見らており、月が常に同じ面を地球に向けている事こそが潮汐ロックなのです。

「Image Credit:潮汐ロックが発生するイメージ図」
上図の解説のように、強い重力を持つ天体を公転する天体は、その強い潮汐力の影響で重心が少し重力の強い天体寄りになってしまい、まるで”ダルマ”や”おきあがりこぼし”のような状態で、常に同じ面を重力が強い天体に向けてしまうという現象が起きてしまうのです。

天体の潮汐ロック現象は、地球と月のような惑星と衛星の関係なら問題はないのですが、これが恒星と惑星となった場合、惑星の昼と夜が明確に分かれてしまい、昼側は常に恒星からの光と熱を受け続け高熱に。夜側は常に日が当たらなくなり極寒の凍てついた環境になってしまうため、このような環境下では生命生存に適さないと懸念されているからです。
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赤色矮星のハビタブルゾーン惑星に生命が居ない理由その2:赤色矮星は活動が活発

赤色矮星は質量が小さく温度も低い恒星で、中心部で起こっている核融合反応も緩やかで長寿命(数百億年)なのですが、その多くは活動が活発なため悪い影響が惑星にまで及んでいるとの指摘があります。
多くの赤色矮星の表面では強力な爆発現象(太陽フレア)が頻繫に起こっており、その強力なフレアにより高いエネルギーを持つ放射線や粒子が容赦なく惑星に降り注ぎ、水どころか大気さえも存在を許さない過酷な環境に惑星を変貌させてしまう可能性があるからです。

「Image Credit:S.Dagnello,NRAO/AUI/NSF」
ですが何故、赤色矮星の活動は活発で強力な太陽フレアが起きやすいのでしょうか?
それは恒星自体の大きさに原因があるとされ、恒星の中心部では激しい核融合反応が起こっているのですが、私たちの太陽のように半径が約70万キロもあると、中心部で起こる核融合も太陽表面まで届くのに時間がかかり、激しい活動も軽減されてしまうのに対し、小さな赤色矮星の場合、中心部で起こる核融合の影響が表面に現れやすくなり、結果として巨大な太陽フレアも発生しやすくなってしまうと考えられているのです。

地球に最も近い赤色矮星プロキシマ・ケンタウリの惑星に人類居住は出来ない?

地球に最も近い恒星系もまた赤色矮星(プロキシマ・ケンタウリ)で、その距離はわずか約4.2光年しかありません。
そんな超印距離の恒星にも地球に似たハビタブル惑星プロキシマbが見つかっており、そこには生命存在の可能性があり、また遠い将来には人類も居住可能ではないか?と期待の声も挙がっています。
しかしながらプロキシマ・ケンタウリ星系では、生命生存は絶望的ではないか?と危惧されるようになって来ており、その原因は前記したように、この赤色矮星は活動が非常に活発だという事が判明したからです。

「Image Credit:60 Garden St. Cambridge, MA 02138 USA」
上画像↑↑は、2000年5月にチャンドラx線観測衛星が撮影したプロキシマ・ケンタウリの様子ですが、この恒星は質量が太陽の10分の1しかないにも関わらず激しい活動をしている事がこの画像で現れています。
これはプロキシマ・ケンタウリで継続して発生している巨大フレアを捉えており、その証拠に恒星の周りを取り囲んでいる赤い高エネルギー粒子が映っています。

これこそが低質量星・赤色矮星が持つ脅威で、その中心では核融合反応が非常にゆっくりと進行し、星の内部全体に乱流の対流運動を引き起こしています。この対流により磁気エネルギーが蓄積され、頻発的に表層まで到達。爆発的なエネルギーが放出される太陽フレアが発生しています。そしてその高エネルギーは惑星まで届いている事が考えられ、残念ながらそこに生命が生存(居住)する事を拒絶しているのかも知れません。
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