月を除く太陽系の天体の中で、最も多くの探査機が送り込まれたのは火星であり、更には軌道上からの探査ではなく、実際に地表に軟着陸し探査を行っている天体もまた火星です。
今回は、最も多く探査が行われている火星において、どれだけの探査機が地表に降り立ち、どんな探査を行って来た(行っている)のかについて調べてみました。
火星探査の歴史
地球の隣りにある太陽系第4惑星・火星。その赤い天体の存在は有史以前から知られており、ローマ神話では軍神「マーズ(Mars)」の名前で呼ばれ、金星に次いでとても明るく見える星です。
「Image Credit:Wikipedia」
そんな火星探査は、人類の宇宙探査創成期である1960年代から始まっており、数多くの失敗を経て、1964年に打ち上げられたNASAのマリナー4号が初めて火星近傍に到達した探査機でした。
「Image Credit:マリナー4号(左)と同機が撮影した火星の地表(右)(NASAより)」
これまで(2023年時点)火星には約50回に及ぶ探査計画が実施されたモノの、約半数以上は失敗に終わっており、我が日本も1998年に火星探査機「のぞみ (PLANET-B)」を打ち上げましたが、軌道投入前に探査機との通信が途絶え計画を断念しています。
とは言うモノの、火星到達に成功した探査機たちは多大なる成果を残しており、地球からの観測ではうかがい知る事が出来なかった火星の素顔が多く解明され、全てとまでは行かないまでにも、かなりの情報が収集出来、画像はもちろんの事、火星のあらゆる場所の地図まで作製されるようになっています。
◆ 参考動画:NASAが作成した「Google Earth for Mars」
火星地表に着陸した探査機
これまで行われた(行われている)火星探査の中で、もっとも多くの功績を残していると言われているのが、実際に火星の地表に軟着陸し調査を行っている探査機たちで、2023年の現在までに着陸に成功した探査機は全部で10機。ここでは、そんな火星着陸に成功した探査機たちを概要を含めて簡単に紹介したいと思います。火星に軟着陸して史上初の本格的な探査に成功した「バイキング」
1975年。NASAのバイキング計画で火星に向けて出発した「バイキング1号」は、史上初めて火星での地表探査を行った探査機第1号機です。バイキング1号は、太古の時代に起きたと見られる火星の洪水跡地のクリュセ平原に着陸。続く「バイキング2号」はユートピア平原に降り立ち、2機とも地表の写真撮影をはじめ、土壌分析、生命探査、気象観測、大気成分分析等が行われました。
「Image Credit:バイキング1号が撮影したクリュセ平原(NASAより)」
残念ながら、この時の探査では火星での生命痕跡を発見する事は出来ませんでした。
史上初めて火星の地表で自走したローバーを積んだ「マーズ・パスファインダー」
1997年。こちらもNASAが開発し火星に着陸した「マーズ・パスファインダー」。マーズ・パスファインダーは、火星の約1万6000枚に及ぶ写真撮影と大量の大気や岩石のデータを調査し、史上初めての探査車も投入。探査車の名前は「ソジャーナ」といい、地表の岩等の障害物を回避して移動出来る六輪の自律的駆動が可能な電気駆動車でした。
「Image Credit:マーズ・パスファインダーに搭載された探査車「ソジャーナ」(NASAより)」
2機の火星探査車を送り込んだ「マーズエクスプロレーションローバー計画」
2003年に打ち上げられ、2004年に火星に着陸したNASAの「マーズエクスプロレーションローバー計画」。この計画では2機の探査車が送り込まれ、1号車の「スピリット」は2004年1月から運用され火星の様々な地表調査を行いましたが、2009年5月にトロイと呼ばれる砂地を走行中に車輪が砂に填まり身動きが取れなくなり、それが原因となり故障のため2010年に通信が途絶えてしまいました。
「Image Credit:同型機のスピリットとオポチュニティ(Wikipediaより)」
また「スピリット」と同型機の2号車「オポチュニティ」は、2004年1月から何と14年間に渡り火星の調査を行い、2018年6月に火星の砂嵐を受け搭載の太陽電池の機能が低下し2019年2月に運用を終了しましたが、オポチュニティが14年間で火星の地表を走行した距離は42キロ以上と、長きに渡って火星で活躍してくれました。
「Image Credit:オポチュニティの移動経路(Wikipediaより)」
火星の北極域で水の情報を調査した「フェニックス」
「フェニックス」は、2008年に火星の北限にある氷が豊富にある地域に着陸し、ロボット・アームで地面を掘り水に関する情報を探し、火星が微生物にとって適切な環境であるかどうかを調査しました。「Image Credit:火星に着陸したフェニックスのイメージ図(Wikipediaより)」
現時点で最も火星で活躍している「キュリオシティ」
火星探査機ローバー「キュリオシティ」はNASAの「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」計画で用いられている探査車です。「Image Credit:Wikipedia」
2012年8月から活動を始めたキュリオシティは現在(2023年5月)も現役で運用しており、様々な成果を上げ、2018年には火星に生命の起源となる有機分子があることを発見し、最近では生物の骨?のような構造まで発見しています。
「Image Credit:NASA/JPL-Caltech」
上画像↑↑は、太古に液体の水(湖)が存在していたとされる「ゲールクレーター」で撮影されたモノだそうですが、もしこれが生物の骨(化石?)だったとしたら世紀の大発見なのですが、残念ながらそうではないようで自然に出来た奇岩だという事ですが、現時点では何故このような構造になったのかは不明だとの事です。
火星の地下を調べた「インサイト」
火星の地質学的進化を研究するために、NASAが2018年に火星地表に投入した探査機「インサイト」。この探査機は、地震計と熱伝達プローブを備えており火星の地下を調査しましたが、ミッション遂行中に太陽光発電パネルに塵が付着したことで電力不足が発生し通信途絶してしまいましたが、火星に吹く「風の音」を初めて捉えるといった成果をあげた事で話題になりました。
キュリオシティの発展型の最新鋭探査ローバー「パーサヴィアランス」
NASAの「マーズ2020」ミッションとして2020年に打ち上げられ、2021年から運用を開始しているのが、現在の最新鋭探査ローバー「パーサヴィアランス」です。「Image Credit:NASA/JPL-Caltech」
「パーサヴィアランス」は、太古に水が流れ込む三角州だったと考えられる「ジェゼロ・クレーター」に着陸し、主な任務は火星の生命痕跡調査です。
「パーサヴィアランス」には、史上初となる火星の空中を飛ぶドローン「「インジェニュイティ」が搭載されており、地球上ではドローンが飛ぶ事が出来ない、上空3万メートルに相当する火星の地表付近の上空を飛行する事に成功しています。
「Image Credit:NASA/JPL-Caltech」
中国が初めて火星着陸に成功した「祝融号」
「祝融号」は、2021年に中国が初めて火星に着陸し成功した探査車です。「Image Credit:Wikipedia」
どことなくオプチュニティにも似ている「祝融号」ですが、本格的に火星で探査を行うローバーを着陸させたのはアメリカに次いで中国が2番目の国となりました。
火星の地表で中国独自の探査を行っている「祝融号」は、1975年にNASAのバイキング2号が着陸した近くの「ユートピア平原」で探査を行っており、中国側の発表によるとこの平原において新たな地質を発見しているといい、今後も詳しい調査を行う予定との事です。
火星に着陸した探査機の位置
ここまで火星の地表に着陸した探査機を紹介して来ましたが、下図↓↓の火星地図で具体的な場所がわかるかと思います。「Image Credit:光文社新書」
赤道を中心にほぼ火星の広範囲に散らばって探査を行って来た(行っている)探査機たちですが、探査における焦点は、火星と地球の違いの調査や惑星の進化の過程、そしてこの惑星に生命の痕跡はあるのか?等、様々な調査を行って来ましたが、まだ謎は多くこれからも更なる探査が続く事でしょうし、何より、2030年代には実現するであろう有人火星探査に向けての準備段階として、多くの無人探査機が送り込まれています。
なお、上図に書き込まれた探査機「マルス3号」は、旧ソビエト連邦が1971年に火星に送り込んだ着陸した探査機としては第1号なのですが、着陸成功後すぐに(着陸後20秒)で地球との通信が途絶えてしまったため、探査機としての成功例としては挙げてはいません。