長い光の尾を引いて魅惑的な姿を見せてくれる彗星。そんな彗星は毎年のように出現しているのですが、残念ながら多くの人は彗星がやって来ている事すら知らずにいます。
何故なら、彗星のほとんどは肉眼で見えるほど大彗星にはならないからです。
そんな中、今後、肉眼でも見事が出来る大彗星になる条件を持つ可能性がある彗星が発見され、天文ファンの間で話題となっています。
ではその彗星はどのような天体で、いつやって来るのでしょうか?今回はこの大彗星になる事が期待される彗星について取り上げてみたいと思います。
肉眼で見えるほど明るくならない彗星
彗星は毎年のように太陽に接近しているのですが、そのほとんどは地球からは肉眼で見る事が出来ずに過ぎ去って行き、この記事を書いている2023年初頭にも「ZTF彗星」が実に5万年ぶりに太陽に接近し「肉眼でも見える」と話題になったのですが、実際は6等級ほどの明るさにしかならず、肉眼ではほとんど観測が出来ないまま、また深宇宙へと還って行ってしまいました。「Image Credit:2023年1月末に撮影された「ZTF彗星」(Wikipediaより)」
でも、何故「ZTF彗星」はそれほど明るくならなかったのでしょうか?
その原因は、ZTF彗星の核の大きさが1キロほどとかなり小さかった事に加え、太陽に最接近する近日点が約1億6,600万キロと、地球と太陽との距離よりも遠かった事にあります。
そのためZTF彗星が地球に最接近した時の距離は約4,200万キロと近かったにも関わらず、太陽熱によって溶け出した彗星の核から放出されるガスや塵の量が少なくコマがそれほど大きくならなかった事にあります。
「Image Credit:国立天文台 天文情報センター」
また、コマが大きくなったとしても地球から遠く離れていれば、これも肉眼で観測する事は困難であり、毎年のようにやって来る彗星であってもその存在を私たちが知る事があまりないのが現実です。
新たに発見された彗星
そんな肉眼で見る事が難しい彗星の中にあって、2023年、新たに発見された彗星が「大彗星になる可能性がある」として注目されています。その彗星が、2023年3月1日に新彗星として発表された「紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)Tsuchinshan-ATLAS」。
この彗星は中国科学院紫金山天文台により2023年1月に発見された天体で、この時点で木星軌道の外側に位置する事が確認されており、今後は太陽に向けて接近を続け、2024年8月頃には近日点である水星軌道の近くに到達するものと予測されています。
「Image Credit:紫金山・アトラス彗星の予想軌道(CGTN Japanese)」
この予測軌道によると「紫金山・アトラス彗星」の近日点は約5,000万キロ(太陽との距離)になりますので、この時に最大にコマが膨張し明るくなると推測されています。
そして「紫金山・アトラス彗星」明るさを保ったまま2024年の9月末から10月上旬にかけて地球に最接近すると考えられており(最接近予想は2024年10月13日)、最大光度はマイナス5等級程になる可能性があるとされています。
ちなみにマイナス5等級は金星の最大光度に匹敵し、もしこの光度で「紫金山・アトラス彗星」を観測出来るのであれば、もちろん肉眼でもハッキリと大きく見える事は間違いないでしょう。
紫金山・アトラス彗星の不安要素
今回発見された「紫金山・アトラス彗星」は公転周期約8万660年という長周期彗星です。そのため、軌道が不安定である事も考えられ予測どおりの軌道で接近しない可能性もあり、また彗星の本体である核が脆ければ太陽に接近した際に、太陽熱で加熱され崩壊してしまう恐れもあります。
また、軌道が不安定であれば地球に衝突する危険性もあるのでは?と危惧する人もいるかも知れません。
「Image Credit:iStock」
これについては、地球の黄道面(地球の公転軌道面)と彗星の軌道が40度以上の角度差がありますので、地球軌道を通過しても彗星が地球と衝突することはないと分析結果が出ていますので大丈夫でしょう。
紫金山・アトラス彗星はどうのように見えるのか?
もし「紫金山・アトラス彗星」が予測どおりの光度で地球の近くを通れば、それは「大彗星」と呼んでも良いかと思いますし、その大彗星はどのように見えるのか?これについても観測予測が出ています。その観測予想によると「紫金山・アトラス彗星」は北半球が観測に好条件だと考えられており、近日点を迎える2024年8月頃にはコマが最大になるのですが、残念ながらこの時は太陽に近過ぎるため肉眼ではほとんど見る事は出来ないでしょう。
ですが、彗星が近日点を無事に通過すると徐々に見えはじめ、9月に入ると3~4等級の明るさで見えて来ます。ただこの時は南半球での観測が主で、太陽にまだ近い事もあり明け方の空に出現する事が予想されます。
そして最大の大彗星天文ショーは9月末~10月上旬にかけて、北半球の明け方の空に大きく出現すると思われ、このとき観測の邪魔になる月明かりもそれほどなく、彗星観測には最適な条件となる見込みだそうです。
その後の10月中旬以降、彗星は徐々に暗くなって行き、11月に入るとほぼ見えなくなって来るでしょう。
期待通りの彗星観測が出来ない可能性も・・・
前述もしましたが彗星の軌道は不安定で、彗星の核の成分(氷や岩石の含有率等)によっても明るさが異なって来ます。すなわち、現時点(2023年3月)では木星軌道近くにある「紫金山・アトラス彗星」の状況はまだ不明だという事が現実であり、もっと太陽に接近してみないと詳細なデータが取れず、おそらくその詳細がわかって来るのは2024年になってからではないでしょうか?!
ちなみに、この「紫金山・アトラス彗星」の詳細情報は、星空を観察したり天体について学んだりできるアプリSky Tonightで知る事が出来ますので、気になる方は是非利用してみて下さい。
「Image Credit:App Store」
なお、Sky TonightアプリはiPhone、Androidどちらにも対応しています。