「巨大な質量を持つ恒星の寿命が尽きるとブラックホールになってしまう。」と何度か解説をして来ましたが、ブラックホールが星の最終形態なのであれば、それは永遠にブラックホールのままなのか?って疑問も湧いて来るかも知れません。
今回は、そんな疑問に対し1つの回答を導き出してくれた一人の天才科学者のお話であり、彼が、星に寿命があるようにブラックホールもまた終わりはやって来るという、画期的な理論を発表し世界的な注目を集めた・・・そうあの人です。

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天才学者ホーキング博士の画期的理論

「あの人って誰だよ!」ってツッコミを入れられそうですが、その人の名は「車椅子の天才」と名高いイギリスの理論物理学者スティーブン・ホーキング博士です。

「Image Credit:AFP 2022/Justin Tallis」
ホーキング博士は、20世紀最高の天才と謳われたアインシュタイン博士が発表した一般相対性理論を研究し、さらに発展させたブラックホール理論を提唱し世界的に有名になった人物です。
そして彼は量子宇宙論という分野を確立させ、その中で「ブラックホールは素粒子を放出することによってその勢力を弱め、やがて爆発により消滅する」とする、ホーキング放射と呼ばれる理論を発表しています。

そうコレが、大質量恒星の最終形態であるブラックホールは永遠の存在ではなく”寿命”があるという考え方なのです。

星の最終形態ブラックホールとは?

そもそもブラックホールは何故、星の最終形態なのでしょうか?

宇宙には私たちが恵みを受けている太陽のような星(恒星)が無数に存在しており、それは「地球上にある砂粒の数より多い」と例えられるほど。
そんな無数の星たちも大小様々で、その中には太陽よりも遥かに大きく重い星もたくさん存在し、あまりにも重い(太陽質量の30倍以上)の星は、寿命が尽きると超新星爆発と呼ばれる凄まじい衝撃波を伴う大爆発を起こし、同時にこれまで星を支えていた全質量が中心に向かって一気に潰れていってしまい、あまりにも強過ぎる重力のため、ついには物質全てが潰され、そこに残るのは無限とも言える重力のみの天体と変貌したのがブラックホールだと言われています。

◆ 参考動画;ブラックホールについてのわかりやすいアニメ動画解説


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ホーキング放射についてわかりやすく解説

巨大な質量を持つ星の最終形態ととも言えるのがブラックホールですが、その最終形態の姿が永遠に続くのではなく、時間の経過とともに少しずつ蒸発して行き、最後には消滅してしまうと言います。
これがホーキング博士が1974年に独自の理論で導き出したブラックホールの寿命についての考え方で、ブラックホールは強烈な重力の塊で、物質はその重力に抗う事が出来ず吸い込まれて行ってしまいます。
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つまりそれは、ブラックホールがあらゆる物質を吸収してしまうというイメージに捉えられがちになってしまいますが、ブラックホールもまた微量ながらも放射を行っており少しずつ蒸発をしているのです。
● ブラックホールの構造

「Image Credit:ESO,ESA/Hubble,M.Kormmesser/N.Bartmann」
ホーキング博士はこの理論を導き出すのにあたり、まず宇宙空間という真空ではどのような状態になっているのか?について考え、真空では量子のゆらぎによって絶えず粒子と反粒子が生成されているのですが、この2つの粒子は直ぐに衝突し消滅してしまいます。この現象はブラックホールの周辺でも起こっており、事象の地平面の近くで粒子と反粒子の対生成された片方がブラックホールに吸い込まれた時、その反動でもう片方の粒子が事象の地平面から離れて行き、この時にブラックホールから微量の熱的放射も起こっていると言います。

「Image Credit:Nature
そもそもこのホーキング放射の理論が発表されるまで、ブラックホールは物質を吸い込むだけで放射はないモノと考えられており、放射が無いブラックホールは温度も持たない(絶対零度)天体だとされて来ました。しかし、ホーキング博士はブラックホールも天体である以上、熱を持ち放射を行っているのではないか?と考えていた事でこの理論が誕生したのでした。
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人工ブラックホールでの実験でホーキング放射が実証される?!

ホーキング博士が提唱したホーキング放射現象については、各部門の専門家たちからも異論も出ており、これを巡る論争は長きに渡り続いているのですが、それを確かめ論争に決着をつけるためには、本来なら本物のブラックホールを詳しく観測研究する必要があるのですが、観測する事すら非常に困難なブラックホールを実際に調べる事など事実上不可能です。

そんな中、イスラエル工科大学の研究者らが、研究室内で実験的に量子のゆらぎを生じさせ、長さ約0.1ミリほどの人工ブラックホールを生成する事に成功し、これを利用する事でホーキング放射のような現象が実際に発生したと論文で発表。

「Image Credit:Natureダイジェストより」
この観測結果については、まだハッキリしない点があり、人工ブラックホールによる実験が成功したとは証明できるモノではないとの指摘がありながらも、この実験でのホーキング放射に似た現象を検証した結果は、今後の本物のブラックホールの謎解明の手掛かりが得る可能性のひとつとして、大きな評価を受けているとの事です。
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