先日、アメリカ航空宇宙局(NASA)は有人による今後の宇宙探査・開発計画について具体的な計画を発表しました。
その有人探査の目標の地は月と火星。しかも、それはかなり前倒しで行われるとされ、計画が予定どおり行くと十数年後には人類は火星の地に降り立っている事になります。

果たしてNASAが打ち立てた、この有人宇宙探査計画は予定どおり行くのでしょうか?
ここでは、今後行われるであろう人類の有人宇宙飛行(探査)が目指す月と火星での目的と、その課題について少し考察してみました。

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人類が再び月面に降り立つ目的とは?

有人による月面着陸探査が行われたのは1972年12月。NASAのアポロ17号が行った最後の月面ミッションでした。
以降、50年以上人類は月面に降り立っていません。

「Image Credit:月面車で船外活動するアポロ17号の宇宙飛行士(Wikipediaより)」
そんな月面有人探査について2019年初頭NASAは、2024年までに再び人類を月面に送ると発表しており、その後は月面基地の建設を行い、2028年までに人類が滞在出来る月面基地を完成させると発表しています。

50年前のアポロ計画の目的は、当時大国同士でライバル関係にあったソ連(現ロシア)との熾烈な技術競争にあり、ライバルより先に月面に降り立って勝つ!というある意味世界に大国の威厳を誇示するといった具体的な目的がありました。
しかし、今回の有人月面探査は違った目的であるのは間違いなく、それは膨大で手付かずの資源エネルギーが眠る月に人類の未来を握る鍵があるからに他なりません。

月面には多くの良質な鉱物資源の他、水が埋蔵されている事もわかっており、将来のエネルギー供給源の有力候補となる「ヘリウム3」も大量に存在して、今後枯渇するであろう地球資源の新たな開拓の地になると期待されています。
そのためにも、今後人類が行う月面探査・開発には重要な意味があり、アメリカ以外にも中国等の他国や民間企業も月面開拓に乗り出して来る可能性もあります。

月が担うもう一つの利用目的とは?

資源開拓の他、月には人類の未来のため大きな役割があると期待されており、それは人類が宇宙進出するため月がその拠点として大きな役割を果たす事。
つまり、有人火星探査をはじめ、木星や土星など今後人類が外宇宙へ進出するために、地球ではなく月を利用する事が考えられているからです。

例えば、火星に行くための大型宇宙船を建造する場合、地球で建造し打ち上げれば莫大な費用がかかる事が懸念されます。
しかし、月で資源を開拓出来れば、宇宙船の材料も月で調達し、さらに地球より重力の低い月では材料運搬にもそれほどコストがかからない事が期待できます。
また、その材料を使って月面、もしくは月軌道で宇宙船を建造すれば、建造費・打ち上げコストも軽減できる事が可能となるでしょう。

そして、月から火星やその他の外宇宙へ出発する。そういった月を利用した宇宙探査・開発の構想のもと掲げられたのが、月をプラットホームとして使う月軌道プラットフォームゲートウェイ」です。

「Image Credit:深宇宙探査ゲートウェイ計画構想図(JAXA資料より)」
なお、日本もこの計画に協力する可能性が高く、そう遠くない将来多くの日本人も月や火星に行く日がやって来るかも知れません。
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2024年までに有人月面着陸が実現出来ない可能性も?

NASAが「2024年までに再び人類(アメリカ人?)を月面に立たせる」と発表したのには政治的に重要な理由があるそうです。
それは現アメリカ大統領であるトランプ氏の大統領として2期目の任期が2024年までである事。
つまり、トランプ大統領が任期中にこの偉業を達成しておきたい。という理由で、2024年月面着陸の期限が設定されたと言われています。
※ 2022年現在、米大統領はジョー・バイデン氏が就任していますので、この目的は果たせなかったことになるようです。
しかし、この期限内での月面着陸には技術面で懸念がウワサされており、人を月まで運ぶための大型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」と、月往復宇宙船「オリオン」の開発の遅れのため、2024年の期限までには間に合わないのではないか?と言われています。

「Image Credit:大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)(NASAより)」

有人火星探査は成功するのか?その課題とは

月面での有人探査・開拓は現実的な話で、多少の遅れはあったとしてもほぼ間違いなく実現するでしょう。
ただ、その後に計画されている火星有人探査はどうなのでしょうか?

NASAはこの計画についても2030年代前半には実現すると発表しています。
但し、2030年代前半に火星有人探査を実行できるのは2031年と2033年、もしくは2035年の3回だけであり、その理由は地球と火星の距離関係にあります。

地球、火星ともに太陽の周りを公転する惑星のため、地球と火星は接近したり、遠のいたりの周期を繰り返しており、宇宙船を火星に飛ばすのに都合の良い地球と火星が接近するタイミング(軌道同期)は26カ月毎に訪れます。

「Copyright ©:国立天文台 All rights reserved.」
つまり、2030年代前半に訪れる地球と火星のが軌道同期は、2031年や2033年等になるワケです。
しかし、いくら地球と火星が接近したからといっても、その距離は直線距離で8,000万キロ前後もあります。
この距離を移動するには、人類の技術が持つ現在の宇宙船の速度では半年以上の時間がかかってしまいます。

単純に、半年という時間はそれほど長いとは思えないのですが、人間が無重力という空間で過ごす半年間は、筋力・新陳代謝の機能を衰えさせるには十分な時間になってしまうと言えるでしょう。
その事を具体的な例で挙げると、現在運用されている国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士が該当するでしょう。

ISSに長期滞在している宇宙飛行士たちは、体力維持のため毎日2時間の筋力トレーニングが義務付けられていますが、それでも長期期間の宇宙滞在後地球に帰還した直後の宇宙飛行士は、足腰が立たない状態になってしまいます。

「Image Credit:ISSから帰還したカプセルから引き上げられるJAXAの金井宇宙飛行士(AFP BB NEWSより)」
という事は、火星に行く宇宙飛行士たちにも同じ事が起こると想定されるワケです。

もし、半年間の飛行の後に火星に到着したとしても、宇宙飛行士たちが筋力を維持し続けられなければ、例え重力の弱い火星(地球の約3分の1)であっても、地上に立って探査活動出来るか?大きな不安はあるかと思います。

さらに、地球に帰還するのも軌道同期の時だけに限り、いったん、火星の地に降り立った宇宙飛行士たちは、次の軌道同期が訪れるまで約2年間火星に滞在する事になります。
つまり、地球と火星の移動に往復1年。火星での滞在日数2年で、最低でも合計3年間は低重力と無重力の中で過ごす事になります。

そのような状況下に置かれた宇宙飛行士たちが、無事に地球に帰還出来たとしても健康状態は大丈夫なのでしょうか?
これについては、個人的な意見ではありますが非常に気になるところです。

有人火星探査の本当の目的とは?

有人月面着陸の何倍も危険でリスクの大きい、そしてコストも莫大にかかる有人火星探査を何故行うのでしょうか?
その目的のひとつは、人の手でより詳細な火星の科学的調査を行う事ですが、最大の目的は人間が火星の地に降り立つ事によって、その地が人間にとって生活出来るレベルにあるか?を調査する事にあります。
単純に考えれば、火星は地球より重力が弱く大気も薄く、さらには磁場も無くとても人間が生活出来る環境等ではありません。

それでも、火星を「第2の地球」として考えなければならない理由。
それは、今の地球。そしてこれからの地球環境の悪化に非常に心配があるからと言えます。

現在も大きな問題となっている地球温暖化による環境破壊。これは、人類が危機感を持ち早急に対策を取らないと更に悪化する事は間違いないでしょうし、
何より心配されるのは、爆発的な人口増加による地球での生活飽和問題。
2019年現在、人類の人工は80億人に迫ろうとしており、このまだと、半世紀後には100億人にも到達するでしょう。

「Image Credit:iStock」
この状況になった場合、更なる環境悪化や食糧不足に陥る可能性もあります。
これを打開するため、かのスティーブン・ホーキング博士も唱えていたように、”人類は地球を離れる決断をする事”が現実味を帯びて来るかも知れません。

そんな”地球脱出”した人類の新たな居住の地の候補として挙げられている火星。
火星が居住に適した地になるのか?大きな疑問は残りますが、それでも人類が地球を離れなくてはならない。
そんな時代は来て欲しくないものです。
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